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BELIEVE STORY   作者: ずのり。
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09 心を伝える難しさ

子供は子供で、沢山考えたし大変だったよね。当時自分も、大人は子供を下に見ていると思ってた。

自分が大人になって、子供は子供で沢山考えている。この事実が抜け落ちていく感覚がある。

「さぁ!決めろ!!お前ら家族で生き残る一人を。」


端末から流れ出るその声は聴きとれるが、頭が追い付かないし、そもそも、生きる。だとか、死んじゃう。っていうのは、私はよくわからない。今は生きているからここにいるんだろうけど、イマイチ命に対しての考えだとかは難しい。夜になって、急に死んじゃったらどうなるんだろう。って考えちゃったときはとにかく怖くて眠れなかったなぁと思い出す。


ただでさえ重苦しい雰囲気の中、お父さんが立ち上がる。

「意味が分からないね。少し見てくるよ。」とリビングのガラス戸から庭へ向かう。

お母さんは無言で俯いている。子供ながらも、ウワキということが少しは分かるからお父さんが怒っているんだ。でも、今お母さんに抱きつきたくなった。言葉ではうまく説明できないけど、お父さんがいるときにはできないと思った。みんなの分の紅茶を机に置き、ゆきと一緒に「お母さん!」と抱きつく。いつもなら、「なぁにー?もうしょうがないわね。」とニコニコしながら頭をなでてくれる。だけど、今は、何も返ってこない。言葉も、頭をなでてくれる手も。抱きしめた温もりは感じるのに。



無音が続く。



お母さんの表情を見ようとする。

こわいのかな?怒ってるかな?ひょっとして、私が嫌いになっちゃったのかな?


何を思っているのか知りたいから、私は少し怖い気持ち。けれど、全然怒る気持ちはなくて、ただ、傍にいてほしい。この気持ちをなんとか伝えたくて、抱きしめる腕に少し力を入れる。お母さんの髪の毛で表情は見えなかったけど、ほっぺの辺りから一筋、雫が滴る。



その涙をみてもう一度思う。

こわい?怒ってる?わたしがきらい?




少し紅茶が冷めちゃったかなと思った頃、足音が少しずつ近づいてくる。

きっとお父さんだ。外はどうなっていたんだろう。

お父さんが、今の状況を見たらどう思うかな。”ワルイコト”をしたお母さんに抱き着く私達。それを考えると反応が怖い。不思議と、今はお母さんよりもお父さんの方が怖いと思い、「ゆき、お父さんが来る。」と声をかけてお母さんから離れる。


汗を沢山かいて、驚いたような初めて見るような表情のお父さんが現れて、口にする。

「大変だ!家の敷地から出たらみんな消えてしまうんだ!」

続けて話そうとするお父さんに、「まだ少し熱いかも。」と、紅茶を渡す。

少し微笑み、一気に飲み干す。


「ふぅ。ありがとう!みおはほんとにいい子だね。」

「でしょっ!」と少しおちゃらけて偉そうなポーズをしたその時に、俯いたままだったお母さんの肩がぴくッと動いた気がしたけど、言葉は聞こえてこない。


「で・・・ちょっと落ち着いて聞いてほしいんだけど、この端末が言ったことは本当かもしれない。外にあの緑色の光が見えるね。僕はあそこの近くまで行ったんだ。見渡してみると、光はこの家を包むようになっていたんだ。膜?のようなものかな。意味が分からなくて、ひとまず手で触れてみた。でも、何も感じないんだ。少し怖いながらも、手を光の奥に伸ばしてみた。」


私は不安になり、お父さんの腕を見るが、二つともある。安心した。

横でゆきも「手は、ある!よかった!!」と喜んでいる。


「でもね、伸ばした時は消えていたんだ!光の向こう側の景色は見えるのに、光を通過した僕の腕はそれを境に無くなっていたんだ。いや、適切じゃないな。腕に感覚はあったから、恐る恐る戻してみたら、腕はそこにあったんだよ。」


「全部、もしお父さんの体全部向こうに行ってたらどうなってたの?しぬ?いたい?」

ゆきがお母さんの横で泣きそうな顔で問いかける。


「・・・わからない。腕を伸ばした時は痛くはなかったよ。でも、戻ってこれない可能性もあるし、そもそも通り切った時点で消えて無くなってしまうのかもしれない。僕は、どうせ捨てようと思っていた

”必要のないもの”を試しに光の向こうに投げてみたんだ。すると、やっぱり見えなくなったんだ。ドンッと音はしたんだけどね。そんなに大きいものじゃなかったから気のせいかもしれないけど。」


端末が鳴る。

「おい!!これでわかっただろ?遅いんだよお前たちは!ほら、早く決めて一人だけ残れよ。あとはいらない。まぁ別に時間が0時になるまでだし、それまでに決まらなかったら選定者は無しでいいことになってるからいいんだが。」

とだけ残し、また静かになる。


重たい空気の中、お母さんが立ち上がる。

「ごめんなさい。今更、何て言えばいいのかな。いろんな気持ちがあるんだけどね、私はゆきもみおもお父さんも、大事に思っているんだよ。本当なの。でも、何を言っても伝わらないと思うの。だから、消えるなんて信じていないけど、私出てくよ。ふさわしくない。」


ゆっくり歩きだす。


待って。

行かないで。


お父さんが腕をつかむ。

「まって!僕の方こそひどいことを言ってごめんね。君がいないと子供たちはどうするんだ?」


「私がいなくても大丈夫だよ。二人はいい子だもの。」


いい子だよ。

でも、少し言い訳にも聞こえている。

だから、嬉しくなんてなかった。


「僕一人じゃ育てることなんてできないよ!僕の何が悪かったの?浮気のことなんか、うん。許すよ!だから行かないでほしい!話をしようよ。」


「そういうことじゃなくてね、私も限界になっちゃったの。ごめんね。」


お母さんが玄関の方へ進んだあたりで、ゆきが走り出す。

「やだ!いかないで。お母さんはお母さんだから、いつもいるんだよ!でしょ?」

と声が聞こえてくる。それは徐々に涙交じりになって、言葉にはならなかった。でも、ゆきの心が伝わってくる。じゃあ私は?気持ちの整理がつかないまま、玄関へ向かう。


扉の前で泣きじゃくるゆきを抱きしめているお母さん。


目が合う。

「ごめんね。本当に、ごめんね。」と涙を拭くお母さん。


私は何を言えばいい?なんて声をかけるのが最適??

お父さんが横に立ち、私の肩に手を置く。


そこで初めて、私はお父さん似なのかもしれないと思う。


「私がどうなるかで、本当かどうか見極めてね。もし戻れなかったら三人でなんとか生きてほしい。よろしくね。お父さん。」


と残し、ゆきをもう一度抱きしめて、玄関扉を開く。緑色の光が見える。近づいていき、眩く揺れ動くようなその膜とお母さんが少しずつ混じっていく。


あぁ・・・行ってしまう。


お母さん!!

という私の声は、ゆきの叫び声とともに、あの汚らわしい光に吸い込まれていく。


聞こえていたんだろうか。


どれだけ呼び続けても、泣いても、叫んでも、

お母さんは帰ってこなかった。


居なくなってから溢れる涙が、憎たらしい。



いつからかわからないが、リビングに私たちは戻っていた。

時計を見ると、21時20分。


あれ?

棚の上に置いてある写真立てが一つ少ない気がする。まず、家族で行った沖縄旅行の写真がある。ダイビングも初めてしたし、あんなに大きな水族館には心躍った。それから、私とゆきの入学式の写真と卒業式の写真もある。やっぱり幼いな。スカートも折れちゃってるし。卒業式の方では、ゆきが私にお花を渡してくれてる。じゃあ、あとは何の写真がないっけ?


うちは、家族仲がいい。友達にもたくさん言われた。「いいなぁ。お父さんもカッコいいしお母さんも美人さんで。」って。私も自慢だよって笑ってたっけ。ご近所さんにも、「またみんなでおでかけ?いいわねぇ羨ましい。」って。それは私の自信でもあって。


思い出すと同時に、わかってしまった。


二人の結婚式の写真が無くなっている。ということに。


ああ、それはすべて過去形になってしまった。

自慢も、自信も、無くなっちゃった。

私は、周りのみんなのおかげで今があると思っている。


じゃあ、その環境が嘘でできていたら?

本当は私が愛されていないんだったとしたら?


私は誰なんだろう。この、燃えるような消えていくような気持ちを私は知らない。




本当は、伝えたかった言葉がある。


心に秘めたままの本音がある。


偉いねって頭をなでてほしかった。


私も、いっぱい抱きしめてほしかった。


私の方こそ、ごめんなさい。

何も、言えなかった。

誰であれ、”その人”をリスペクトする心は大切に持っていたい。

自分の”真心”を伝える難しさに、今日も翻弄されている。

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