第35話 勝ちに賭けられる数字
転生したらゴブリン 第35話 勝ちに賭けられる数字
『腐れ外道狼』なんてふざけた名前の魔物は存在しなかった。美しく、恐ろしい魔狼、フェンリル!!2体の魔狼に挟み撃ちにされて、チームゴーダは、絶体絶命の様相を呈している。
フェンリルA
ゴーダ
ノルン サマンサ
美琴 ヴァレリア(+レーヴァテイン)
フェンリルB
2体のフェンリルが現れた!なんてシンプルに戦いたかったものだ。これでは完全にチームを二分して戦うほかない。いいだろう。その手に乗ってやる。自信過剰かも知れないが、自分の能力を信じている。そして仲間たち、いやまさに心身一体の、恋女房たちの事を信頼している。
「ノルン、ヴァレリアと美琴を援護してやってくれ。回復とバフをかけまくれ。サマンサ、俺と一緒にコイツ(フェンリルA)を足止めするぞ!手を貸してくれ。」
「了解!」「畏まりました!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
どうだ、シンプルにチームを二分してやったぞ。俺のいる側が厳しいだろうか?でも、秘策でも何でもなく、算盤はいい数字をはじき出している。この布陣でゴーだ!
フェンリルA
ゴーダ
サマンサ
ノルン
美琴 ヴァレリア(+レーヴァテイン)
フェンリルB
目の前に、魔狼フェンリルがいる。驚くほどにデカい。子供の頃、動物園でライオンやアムール虎の大きさに驚き感動した。それに遜色ない大きさだ。それが冗談でもなく、何の檻や堀がある訳でもなく、自分のすぐ目の前にいる。闘志で歪み、隙間の空いた口の端から鋭い歯列が覗いている。それは犬やオオカミの牙ではなく、もはや巨大なサメの歯に近い。あんなもので噛みつかれたら、おそらくとんでもない被害を被るだろう。ゾクゾクと迫りくる恐怖。
周囲はこんなに寒いのに、額から汗が流れ落ちている。喉がカラカラだ。
だが、俺は冷静さを失わない。相手からはこの俺はどう見えているのだろう?巨大な分厚い盾『パルテナの盾』と、巨大なイスノキの棍棒『ルイビンスク』を軽々とそれぞれの片手に携えている。パルテナの盾はエレクツィオン砦の技術者たちが表面に分厚い金属加工も施してくれたので、矢も剣も通さない。普通の人間は重くて運べない。まさに重騎士?重ゴブリン?女神から授かった超剛腕があってこそだ。気軽に肉弾戦を仕掛ける相手ではないだろう。
激しい闘志が漏れ出るのを抑えるように、フェンリルはこちらを伺っている。
ウグウロスヌグ・・・
狼とは思えない、人語に近い唸り
空気が輝きを持った白さに練り上げられたような幻影が見え、
ヒョオオオオオ~~
なっ!氷結魔法が俺を襲う!!
チリチリチリチリ・・・・
パリンッ、パリンッ、パリンッ
ひいいっ。足元の草から、頭上に至るまで、氷の結晶に総攻撃される。真冬の、極限の冷たさ、極限の痛み!
が・・・
うん。
だから何だというのだ。
俺には強すぎるクーラーの直風ぐらいにしか感じない。
それもそのはずだ。俺のMNTは実に210、魔法攻撃などほぼ無効なのだ。
ワウ???
魔法を放った本人も首を傾げる。やはりフェンリルの知能は高いようだ。人語をほぼ真似た唸りは完全な魔法詠唱となりこの俺を襲った。何故いきなり魔法を放ったのか?それは、俺の成りを見て奴が判断した事だ。こいつは、このゴブリンは超近接戦闘タイプで、物理攻撃に強く、魔法攻撃に弱い・・と。その賢さと、そこから来る思い込みが仇だ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして、更なる混乱を招いてやろう。
ウォオオオオオオオ!!!!
咆哮したのは俺だった。どうだ、野蛮な怪物の咆哮は!恐怖に竦むだろ?!
ビクッとして目の前のフェンリルも、後ろにいるもう一体のフェンリルも動きを止めた。一時的な『スタン』の成功だ。
それを見逃す武人たちではない。
「はああああっ!!」
「うおおおおおおっ!!」
フェンリルBに向けて、左右からヴァレリアと美琴が襲い掛かる。
ザクッ、ザシュッ
グオオオオオッ!!
ダメージを食らったフェンリルBは距離をとり、それでも反撃を繰り出す。
「くっ、これしき何の!」
美琴がそれを受け流し、乱戦が始まっている。
一方、前に飛び込んだ俺は棍棒の一撃を放つが、移動速度がやや劣っている。フェンリルAはスタンから回復し、俺の一撃をすんでのところで回避すると、右にスタッと2歩分飛び、側面に回り込むように奔って、一気にサマンサに噛みつこうと飛び掛かる。
ウガルルルル!!
「きゃあああっ!」
必死で防御態勢を取ろうとするサマンサ、だが間に合わない・・いや俺が、そうはさせない!俺の方が内回りで元の位置に戻った分、間合いを詰められた。そして盾の内側でフリーになっている左手で、俺は奴の尻尾を思いっきり掴んで引っ張る。
おっらああああ~~!!
キャイイ~~ン!!
ウォン、ウォン、ウォン!!
痛みに悲鳴を上げるフェンリルA。
所詮はいぬっころ!尻尾が弱点だったみたいだ。激痛に苦しみ、ゴロゴロと地べたを転がった。やがて泥だらけの背中を震わせて、何とか立ち上がり、それでもこちらに反攻意志を告げる。
「今だ。サマンサ、サンダーを連撃だ。」
え?一瞬サマンサはぽかんと驚いた。それはそうだろう。氷の狼フェンリル。弱点を考えるならば当然、炎の属性が有効だろう。だが、魔法ダメージを考えている訳ではないのだ。
でも彼女は俺の事を信頼し、迷わずに行動する。
「分かりました!天の王たる雷、我に来たれ。サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!」
バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!
雷撃のダメージは大したものではないだろう。魔防も高いフェンリル。だが、知力の高いサマンサの魔法はダメージとしてはちゃんと通っている。であれば、追加効果の『感電』が40%で発生する。5連撃ならば1回でも食らう確率は実に92.2%だ。
そしてそこにフィナーレを叩き込む。DEXが61の俺に対し、SPDが162もあるスピード戦士であるフェンリル。通常攻撃ならば武器の性能補正を入れても、対フェンリルでは37%しかない俺の攻撃命中率。先程の攻撃もスタンが切れたので、躱された。だが今度は違う。とっておきのアレをぶち込んでやる。
必殺技を発動するのだ。
必殺技、トールハンマーの性能は、命中率+30%、感電による命中率上昇も20%。だから、奴への単回命中率は87%に上昇する。サンダーを起点に、全体としても成功率80%のトールハンマー攻撃を組み立てたのだ。決して無謀なギャンブルなどではない。勝ちに賭けられる数字だ。フェンリルAは見事『感電』した。
さあ、食らえ!
軍神の一撃を!!
トール・・・ハンマ~~~!!!!!
ドゴオオオン!!!
ギャワワワンッ!!!
その悲鳴がフェンリルAの最後の行動となった。霧となって消えてゆくフェンリルの中から、数個のスフィアと財宝が出現する。よし。とりあえずの討伐を確認した俺とサマンサは後ろに向き直る。
だが、力を貸す必要はないようだった。
ノルンの『速度上昇』のバフを受けた美琴の薙刀は、フェンリルBの前足を切り落とさんばかりに伸びて鋭い払いを入れる。流石のフェンリルは、これを避けて宙に飛ぶ。だが、少し高く飛び過ぎた。だから、その時点で奴の敗北は決まっていたのかも知れない。飛ぶことは放物線運動に身を委ね、自由な移動を捨てること。落下地点を狙って、ヴァレリアの一撃が襲う。
「行くわよ、レーヴァテイン!」
「わかってるわよお。ヴァレちゃん!」
「食らえ、炎の一撃!」
「畏れよ。讃えよ。煉獄のカルマを!なんちて~」
シャキ~ン!!!
上り竜のように左下から右上へ、美しい軌跡が放たれる。
それをなぞるように、紅蓮の炎がフェンリルのどてっぱらを舐め上げる。
斬撃のダメージと、それを上回る追加効果のダメージ。レーヴァテインを所持していたことが、この戦いを圧倒的有利に導いた。
ギャアアア!!
何か中二病な会話の一節もあったが、謳い文句に恥じない強大な炎の一撃によって、氷の狼は春先の氷柱のように溶けて消滅した。後にはこちらと同様にスフィアや金銀財宝が・・・にんまり。
「楽しかったよ。ヴァレちゃん。色んなかわいそうな奴をいっぱい、いっぱい殺したけれど、私、ヴァレちゃんと一緒に旅して本当に楽しかった。ありがとう。ありが・・・」
カシャ
ヴァレリアがレーヴァテインの鯉口を完全に閉じて鞘に納めると、五月蠅い女性人格「レイア」の声が聞こえなくなった。まるで精神崩壊キャラの今生の別れのようであったが、次の戦闘やお手入れの際には鞘から解き放たれ、また話し相手を見つけては延々とくっちゃべるのであろう。素晴らしい武器であることは疑いようもないが、そこが頭痛の種である。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
見事討伐を達成した俺たちはオレンジ色の夕陽の中、街へと帰ってゆく。
「これは、なかなかの収入ですわよ。おほほほほ。」
前の方では、ホクホク顔のヴァレリアとノルンが、2体のフェンリルが落としたアイテムや財宝的なものを確認しながら儲けを計算している。ヴァレリアはいいとして、ふははは・・・ノルン、この生臭坊主め。でも雑魚敵からは低級な黄緑色のスフィアやガラス瓶いっぱいのスライム汁が精一杯の収穫だ。それに対して、フェンリルはそれぞれの核であったろう青色のスフィアだけでなく、彼らが胃袋にため込んでいたと考えられる濃緑色のスフィアも複数個見つかった。貴金属類もあった。そう考えると、攻略対象フェンリル(腐れ外道狼?)からの収入額が全体の8割、9割を占めるのは間違いない。ランクの差って結構デカいな。
「ゴーダ様、あの時なんで私にサンダーを撃たせたんですか?火炎系でないのにも驚きましたけれど、雷撃系だってトロンもライトニングもあるじゃないですか?」
「ああ、全ては『感電』を狙っての事だ。光属性と雷属性の混合型であるライトニングには『感電』の追加効果がない。トロンは威力は抜群だが、攻撃速度が下がり、命中率も低い。更にはサマンサ自身、あまり連撃回数を増やせないんじゃないか?」
「確かに・・・ゴーダ様って本当に良く考えてますね。それも即座に指示が出せるなんて。」
サマンサは目を丸くして言う。
「何というか、意外と性格が悪いのかも知れないな。敵が嫌がる攻撃は何なのだろう?と思ったら、閃きに繋がったんだ。」
「魔法攻撃よりも物理攻撃を嫌がるってことですね。」
「その通り。」
俺たちの横では、美琴が戦利品(かつてエレクツィオン砦にいた頃の獲得女性のことではないよ)である『紅蓮の弓』を弄って遊んでいる。弦を引っ張って、離す。ビョイン!弦楽器のような空気振動音が伝わってくる。多種類の武器を使いこなせる美琴は、弓も扱えるようだ。でも、高いHPと防御力を誇る美琴を弓を使わせるために後衛にする意味が分からない。
「なかなかいいな。これ。でも薙刀を今更手放したくないしなぁ。」
独り言の通り、本人希望にもそぐわないようだし・・・
あれ?弓を使える人、いるじゃん!
うっすらと汗をかいた項を思い出す。健気に料理を作る姿。ブルストが、むくっ。
「あれれ?ゴーダ様、いまエッチなこと考えてませんでしたぁ?」
小声で悪戯っぽい笑顔のサマンサが耳打ちする。
「いや、別にそんなことは。パ、パーティーの事を色々考えていて・・・ごほん。」
「いったい何人の女性を食い散らかしたら気が済むんですか?」
サマンサはとろんとした目でヒソヒソと追い打ちをかける。声も言い方も艶めかしい。最後にペロッと耳の穴を舐めて逃げた。
ホフッ
図星だから、俺は何も反論することなど出来はしなかった。
武器紹介 その2
ルイビンスク
草原の道を通り、東欧、ルスの国のルイビンスクを経由しての交易で渡って来たイスノキを素材とする棍棒。そのために、その街の名がついている。だが原産地ははるか遠く、倭国の南部とも言われてる。信じられないほどの固さと靭性を誇っており、金属武器との打ち合いでも負けない。




