第1話 プロローグ 刺された、そして転生
第1話 ~プロローグ~
俺の名前は合田猛。
故郷から上京して、首都圏で下宿している大学生、二十歳だ。
ここはその俺が下宿しているアパートの自分の部屋だ。綺麗に片づけられた日当たりのよい部屋、窓からはまばゆい午後の光が差し込む。
だが!俺は今、人生最大の危機に瀕している!!
「ねぇ。どうゆうことなの?」
刃物を持った女性が今俺の前に立っている。亡霊のように焦点の定まらない目。
「落ち着こう。落ち着こうよ、美咲。」
情けなくも俺はブルブルと震えながら、彼女の一挙手、一投足に注意を払う。
「こんな風にしたのは、タケル君なんだからね。」
相手はこちらの話など聞く気もなく、じりじりと距離を詰めてくる。
彼女の目を見ながら後ろに下がる。彼女がえへらっと笑ったようにも見えた。
ドンッ。壁に背中がぶち当たった。
「悪かった。許してくれ!」
誠心誠意謝ってみた。何なら土下座してやってもいい。
「私だけのものになってよ。」
「あっ」
見事にやられた。さっくりと刺された。会話は一切無駄だった。
俺は彼女に優しくしてきたつもりだ。
だが、俺はどんな女性にも優しくしてきたのだ!
あんなことや、こんなことや、あったでしょう。
それらを思い出しながら・・・だが敢えて言おう。反省はしない!!
やがて俺は深い闇の中に落ちて行った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
気付くと、一面星空のような模様の部屋に立っていた。
部屋の壁も床も、天井も、全部星空だ。
その部屋の中央に椅子に腰かけた若い女性がおり、目の前にはくたびれたスーツ姿の男性が立っている。
その真横に出現したらしい俺は女性の方に話しかけた。
「あのぅ。ここはどこなんですか?」
女性はじろっとこちらを見ると、「順番じゃから、後ろに並んで待っておれ!」と俺を叱った。
すごすごと俺はスーツの男性の少し後ろに回って順番待ちをする。
「・・・そうじゃな、選べるスキルはこの7つじゃな。」
「これにします。」
「職業は何にする。」
「私はやはり勇者とかがいいです。」
「なら例えば、こんな感じで・・・」
「え?ただの剣士じゃないですか」
「剣士は経験を積むと勇者にクラスチェンジできるんじゃ。」
「そうですか。じゃぁ・・・それで♪」
前では女性とスーツの男性が楽しそうに会話している。
その会話内容からも異世界転生の話をしていることが理解できる。そういう系のアニメで見たとおりだ。
だが、長すぎる。いらいら。
というか、まさか順番待ちをさせられるとは。
・・・
「いってらっしゃ~い。」
やがて手続きが完了し、にこやかに手を振る女性の声と、戦士の装束で光に包まれて消えてゆく男性。
一体どこのアトラクションだ?
その光も数秒で、星の光だけの薄暗い部屋に戻る。
「おい。こっちに来い。」
さっきまでの声から1オクターブくらい下がったドスの利いた声で女性が俺を呼ぶ。
俺は先ほど男性が立っていた辺りまで前進した。
近くで見ると金髪、空色の瞳の美しい女性だが、厳しい目線のせいで、とても冷たく感じる。
「女神スクードじゃ。おぬし、自分がどうなったか分かっておるの?」
「彼女に刺されました。」
「おぬし、最期の時まで『反省する気はない』と心で言っておったの。」
「もちろん。でなければ、それまでに自分がやってきた『優しさ』が嘘になります。」
女神は頭痛に耐えかねるように額を揉み込んだ。
「・・・清々しいほどの、クソじゃな。」
俺はそれでも胸を張った。全て母さんから教わった・・・通りだと思う。
「そんなおぬしには、選べる種族が限られてくる。」
ぬ?先ほどの男性の時にはそんな話は出てなかったぞ。
「ほいっ。」
女神がぱちんと指を鳴らすと同時に、俺の体が発光しはじめた。
ぽんっ。
何かから飛び出たように、その中から新しい俺が生まれ出た。
元よりかなり低い背丈。150cmぐらい?ゴリマッチョ。緑色の肌???
「こんな感じじゃ。」
突如空間に出現したブラックホールに右手を突っ込むと、女神は手鏡を引っ張り出し、
自分の目の前に持って来た。
「な、な、な、なんじゃこりゃ~~」
俺は絶叫した。顔のつくりはそのままだが・・・。ペイントを塗ったように見事な緑色の肌。
そして高い耳。自分の手で耳の先を触ってみる。ホフッ。ちょっと気持ちいい。敏感な所のようだ。
先程の男性より少しみすぼらしいが、戦士らしい服装も誂えられている。
「能力値は、まぁ、こんなもんじゃろ。」
女神は適当に手続きを進めているようだ。
「スキルとか、貰えるんですか?」
俺は恐る恐る聞いてみる。
「ないぞ。」
「ううう。」
扱いが違うのは分かっていたが、凹んだ。
そんな俺をちらっと見て、
「仕方ないのう。一応探してみるか・・・」
そう言って、空中で光っているモニター画面を操作しながら女神が目を走らせる。
「あったぞい、ひとつだけ。『グッド・ルッキン!』」
「は?」
なんだ、その微妙に馬鹿にしたようなネーミングは!
「魅了の一種のようじゃな。これは奇貨なり。」
「あ、ありがとうございます・・・頂きます。」
そのネーミングは嫌だ。しかし、俺にはそれしかないらしい。
「よしっ。以上じゃ。ではの、簡単にくたばるでないぞ。わしの査定が下がるからの。」
どんっ
女神が軽く自分を突き飛ばした。
あら~。
二度目の深い闇の中に落ちて行く。
だが、鬼の目にも涙、ツンドラ女神にもユニーク・スキル。
なんとかスキルをつけてもらって、俺の異世界生活は始まるのだった!
人物紹介その1
ゴーダ/合田猛
本編の主人公。大学生。20歳で身長176㎝、割とイケメン。慢性的な二股男。正彼女である美咲に刺され、ゴブリンとして転生した。「全ての女性に優しくする」という懲りないモットーを掲げ、異世界ライフを堪能する。




