プロローグ: 聖域の静寂と迫る時間
忘れられた谷の中心、アメリシウムの巨大な結晶が静かに青白い光を放つ聖域。メンデレ秀城は、巫女アメリ・カレントと共に、アメリシウム元素習得のための最終準備に入っていた。外界とは隔絶されたこの谷の空気は清浄で、秀城の精神は元素図書館での激しい試練の後、少しずつ落ち着きを取り戻していた。しかし、彼の心の中には、アルケミス・ダークという存在と、彼がもたらすであろう「崩壊」への危機感が常にあった。
「秀城様、心の準備はよろしいですか?」
アメリは、祭壇の前で瞑想するように座る秀城に、静かに問いかけた。彼女の声は、まるで谷を流れる清流のように、秀城の心を洗い流す力を持っていた。
「アメリシウムは、アクチノイドの中でも比較的安定しているとはいえ、その核に秘められた力は強大です。習得の過程で、あなたの精神は再び元素核の深淵…ウーアの世界を滅ぼした「崩壊の誘惑」に晒されるでしょう」
秀城は、ゆっくりと目を開けた。彼の瞳には、プロトアクチニウムの試練を乗り越えたことで得た、揺るぎない覚悟が宿っていた。
「はい、アメリ様。俺は覚悟を決めています。アルケミスを止めるため、そして、この世界の調和を守るために、アメリシウムの力が必要です。どんな試練であろうと、受け入れます」
アメリは、秀城の強い意志を感じ取り、静かに頷いた。
「分かりました。では、始めましょう。アメリシウムの試練は、力でねじ伏せるものではありません。その力の「持続」と「制御」の本質を理解し、あなたの調和の力と完全に共鳴させることです」
一方、地下都市「エレメンタ・アサイラム」では、セレンとプラチナが、依然として元素図書館の深淵の区画で、プルトニウムの波動の監視と抑制を続けていた。アルケミスの干渉は止んだものの、石板に残るプルトニウムの禍々しい波動は、まるで生き物のように蠢き、不気味な静けさを保っていた。
「奴の動きが完全に止まった…嵐の前の静けさ、というわけか」
セレンは、石板を睨みつけながら呟いた。
「地上に出たジンクたちからの定期連絡も途絶えている。何かあったのかもしれない…」
プラチナも、不安の色を隠せないでいた。
「メンデレは、今頃アメリシウムの主と接触しているはず…彼が無事に力を得てくれることを祈るしかありません。もし、アルケミスが先に動けば…」
そして、地上世界。ジンク、オクシア、ナトリの三人は、「忘れられた谷」周辺の山岳地帯で、元素狩りの残党と、彼らが集めているという「奇妙な鉱石」の調査を進めていた。彼らは、小さな鉱山町で、ついにその鉱石のサンプルを入手することに成功する。
「この鉱石…間違いない。強い放射性を帯びている。しかも、俺たちの知るどの元素とも違う、重く不安定な波動だ…」
ジンクは、亜鉛の探知能力で鉱石を分析し、眉をひそめた。
「これは、自然界にはほとんど存在しないはずの…ウラン鉱石だ!」
「ウラン…!アクチノイド元素の一つ…!」
オクシアが息を呑んだ。
「アルケミスは、この鉱石を使って、プルトニウムを人工的に生成している…?あるいは、もっと別の、危険な元素を…?」
ナトリが、町の老人から聞いた話を思い出した。
「この辺りの鉱山では、昔から「呪われた石」って呼ばれて、掘り出すことが禁じられてる石があるんだって…それに触ると、原因不明の病気になったり、魔力が暴走したりするって…」
三人の間に、戦慄が走った。アルケミスは、プルトニウムだけでなく、ウラン、さらには周期表の外の未知の元素をも利用しようとしているのかもしれない。そして、その準備は、彼らが考えているよりも遥かに進んでいる可能性があった。
「急いでメンデレに知らせないと!アルケミスの狙いは、単なるプルトニウムの暴走じゃない!」
ジンクは通信機を取り出したが、忘れられた谷の結界の影響か、通信は繋がらなかった。
時間がない。秀城がアメリシウムの力を得るのが先か、アルケミスが新たな崩壊の準備を終えるのが先か。世界の運命を賭けた競争が、静かに始まっていた。
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