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第25.5話 仮面を外した私・後編

***



 その日の夜はヨハンナとリーンたちの協力の下、社交界用のドレス――もっとも私の装いは父の死から一年間は黒服で過ごすと決めていたので、露出を抑えた黒のドレスにしてもらった。


(クラウスが格好いい! ロルフもいつもと違っていいわ! うちの屋敷の男性陣ってかなり顔面偏差値が高い)


 連れ添うクラウスとロルフも黒のジャケットにベスト、タイ、シャツは真っ白で使用人と騎士の恰好から貴族らしい装いに。元々造形が整っているのもあり、かなり格好いい。

 ふとロルフが帯剣していないことに気付いた。


「なんだか帯剣していないロルフを初めて見た気がする……。落ち着かなかったりしないの?」

「ああ、武器関係は体内にも搭載しているので問題ない」

(機械人形の体って便利なのね。まあ、元々は妖精だものなんでもありなのかも)


 ぽんぽんと頭を撫でるロルフは外出が嬉しいのか、いつになく上機嫌だ。

 レティシア様は真っ白のドレスに身を包み、露出もかなり高いものの一応アトラミュトス獣王国の女王という立場は理解しているようで、白いベールを被っている。

 もっとも彼女を知っている人から見れば、ベールの意味はあんまり無い。ヨハンナたちもせめて白ではないドレスを提案したのだが、却下されたそうだ。


(こんなこともあろうかと、認識阻害のアクセサリーを付けて貰えて良かったわ!)


 私たちにはレティシア様に見えているが、第三者からは別人に見えている。

 ロベルトは途中まで一緒だったが、ラファエルおじさまの元に向かうため別行動になった。


 馬車で着いた先は、オレンジ色の煌びやかな一流ホテル風の建物だ。このホテルの支配人はモルガナではない。「地下一階から三階にかけて、カジノとして場所を貸し出している」と話してくれた。これはクラウスの情報が間違っているのではなく、支配人が私たちを出迎えて素早く状況を察知して、咄嗟にそう答えたのだろう。


(父のサイン入り契約書が本物だったとしても、万が一の場合を考えて備考あるいは注意書きで「ただし、契約書及びサインが本物だった場合」とか「無断使用だった場合」は貸し出しとして、買い取りの代金の差額を返金する。なんてやっていそう)


 この領地では強かで柔軟性がないとやっていけない。特に商売関係は──。


「まあ、そうなのですね。ですが偽物の可能性が出てきたので、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「これは……! 挨拶が遅れました。またご当主就任、おめでとうございます」

「いいのよ、正式な発表は独立してからにしようと思ったのだけれど、明日には領地だけでは無く、世界各国にも知れ渡ると思うわ」



 ***



(うわぁ……)


 魔導具による転送で地下一階に移動した。高い天井にシャンデリアが目映い光を放ち、黄金と赤を基調とした絢爛豪華だが悪趣味な空間が広がっていた。

 カード、スロット、ルーレット、クラップス、闘拳賭けなど異様な熱気と耳を塞ぎたくなるようなテンポのよい音楽、賑やかな声、声、声。


(耳にクるわね……!)


 社交界やサロンとも違った雰囲気に、面食らってしまう。もし素の自分だったら、その場の空気に呑まれて座り込んでしまったかもしれない。

 悪女の仮面を付けているおかげで平静を保ち、周囲を見渡す。


(さて、問題のディーラーは……)


 ふと見覚えのある顔が視界に入る。トランプゲームに勤しみ、金貨を詰む壮年の男。

 紺色の丈の長いジャケット姿の魔族を私は一度見たことがあった。

 できることなら他人の空似であってほしいと思ったのだが、現実はそう甘くはない。


(あーーーーーーーーーーーー、あの方は……もしかしなくても……)

()()()()()()()()……」

「あはっ☆魔王もお忍びとはね~」

(はい、魔王様確定しました! 確認ありがとうございます。お疲れ様でした)


 このまま見なかったことにして踵を返したい。おうちに帰りたい──が、そうも言っていられないのだ。いや本当に魔界の代表が何をしているのか。

 頭が痛くなったが、なんとか耐えた。


(お家に帰りたい。お家に帰ってウーテの美味しいケーキを食べて、お風呂に入ってベッドにダイブしたいっ!!)

私の愛しい人(マイハニー)。気持ちは分からなくはないですが、現実に戻ってきて下さい」

(クラウス……っ、ってそうだったわ。ここでは領主らしい姿を見せつけなければ!)


 魔王様は角や羽根を隠しており完全に人族の姿で、カードゲームに興じている姿は実に楽しそうだ。ディーラーである青年が脂汗を流している。


私の愛しい人(マイハニー)。あのディーラーが、ジャック・ド・フルノーです。蜘蛛の糸を張り巡らせて獲物を狙っていたのでしょうが、相手が悪かったようですね」

(距離が近い……)


 耳元で囁くクラウスの声は、ディーラーを心底哀れんでいた。私の心臓はドキドキしっぱなしだけれども。

 あのディーラーも相手取っているのが魔王だと知れば、裸足で逃げ出すと思う。その点に関しては同情する。


(あれがフルノー。もしかしたらって思っていたけれど、実際を見て確認したわ。彼は帝国の人間ね。でもなんで?)


 魔王様とディーラーは、ブラックジャックを行っているようだ。

 ディーラーよりも合計数が多いと勝ちだが、21を越えると負けという比較的単純なものなのだが、心理的な要素も影響するため、上級者向けのゲームだったりする。


 イカサマをしているのなら、基本的にディーラーに軍配が上がる。亜人族たちをも騙せたのだから、相当の場数は踏んでいるのだろう。


(まあ、眼前に相手取っているのは、クラウスの兄である魔王様だ。小細工が通用する相手じゃないわね)

「倍賭けよう」

「なっ(馬鹿な。表に見せているカードは3、9。伏せているカードはKですでに21を越えている。それなのに降伏(サレンダー)せずに勝負するというのか? 今までの大金をドブに捨てるつもりなのか?)」


 ディーラーの表情がやや固いものの、勝負に出るようだ。


「勝負です。自分はハートのAとクラブの9で20」

「我はダイヤの3、ダイヤの9と――スペードの9だ」

「な、はっ!? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「何を言う。我が見た時からこの数字はずっと9だったぞ」

「イカサ――」

「証拠は? 何よりなぜディーラーである貴様が、カードの数字を知っている? そちらのほうがイカサマを使ったのではないか?」

「ぐっ!」


 どういう魔法を使ったのか不明だが、ディーラーがイカサマを使うのなら、魔族は魔法を駆使して対応するだろう。

 たとえばカードの数字を別に変える――など魔王様であれば造作も無い。もちろんイカサマだが、それを証明できるかはまた別問題だ。


 イカサマはイカサマだと証拠が無ければならないし、そもそも伏せているカードをディーラーが知っているのを言及されてしまえば、窮地に陥るのはディーラー自身だ。ディーラーは負けを認め、倍以上の金貨を魔王様へと差し出す。


(素晴らしい勝負だったわ。もう帰ってもいいかな?)

 支配人は私の指にあるガーネットの指輪を見て、改めて深々と頭を下げた。それから問題の裏カジノへと支配人自ら案内すると言ってくれたものの、一般客と同じように出入りをしたいと伝え、スタッフに案内して貰うことに。

楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

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