第18話 報復の決意を新たに
「お嬢、この手紙の主を殺してもいいか?」
「これだからポンコツは。どうせ殺すなら、その前に私の愛しい人を侮辱したことを後悔して、死にたいと精神的に追い詰めて数年経ってからではないと」
「ずいぶんと回りくどくて、悠長だな。魔族らしい」
「物騒なのは猟師妖精集団らしいな」
「なんだと?」
「なんですか」
ロルフとクラウスが啀み合うのはいつものことなのだが、私の頭の上で繰り広げないでほしい。思えば二人はこんなに感情豊かだっただろうか。
(幼い頃から父の傍にいた二人は、そこまで会話をしてなかったような?)
「それでお嬢様、どのようにお返事を書かれますか? それとも王国の旗に鉛玉をぶち込みましょうか?」
「ハンス、それは止めてね」
「承知しました」
(ハンスも過激派だった! しかも本当にやってのけそうで怖い!)
どうしてこうも血の気が多いのだろう。もっと水面下で暗躍して欲しいけれど、魔神、精霊、妖精のと考えれば難しいだろうという結論に至った。
「(結果的に人間──お父様や私が暗躍に走るのね。納得だわ)ハンス。手紙はレオルグ王子だけしか来ていない、エル・ファベルの国王陛下からの返答は無し──であっているかしら?」
「はい」
クラウスがエル・ファベル王国からの独立宣言をしてきたと聞いた時は、卒倒しかけたけれど、当主として腹を括った後は少しだけ気持ちが楽になった。
悪女として仮面を被っているからもあるのだけれど、このままじゃ大切な者を守れないと実感したことが大きい。
「エル・ファベル王国は大方、クラウスの提出した『王子の不貞の証拠』による慰謝料などや『独立宣言』を《《どうにか穏便に収めたい》》と考えておられるのでしょう。その考えそのものが、あまりにも愚かなことかと」
「そうね。隣国にも宣言しているのに、穏便にできると思っているのが不思議だわ。私が伯爵家──いえ、スフェラ領地の当主となった以上、早々に決着を付けてしまいましょう。歴代の当主がエル・ファベル王国の属国になって王家に借りを作ってあげたのに、結局初代以外は自国の利益、いいえ王国の繁栄のために我が領地を無碍に扱ってきたのだから、今までの支援分のものを、きっちり、いただきましょうね」
「もちろんです、私の愛しい人」
「了解だ、お嬢」
「委細承知しました」
独立国だったスフェラ領がエル・ファベル王国の属国になったのは、他種族と比べて見劣りしていた、人族の価値を高めることが起因している。また初代国王が傑物で、初代当主との絆が会ったからだ。その美談は良いとして、その後はスフェラ領地を良いように利用しようと画策していく王侯貴族が増えた。
だからこそ時間をかけて爵位の降格につれ、王家との契約部分を改変し続け──お父様の代で準備を整えた。
再び我が領地の独立、それこそがナイトメア家の悲願。「初代当主は王国に温情を与えるべきでは無かった」これが他の当主たちの日記に綴られた思いだった。
(私たちが守りたいのは人族ではなく、スフェラ領地に住む領民たちだもの)
王侯貴族は金の卵となる領地を絞め殺そうとしていたのだから、その報いを受けさせる必要がある。
(それに人族として改めて同盟を結ぶなら、エル・ファベル王国である必要はないのよね)
本来、属国になったあと、よっぽどのことが無ければ独立などしない。スフェラ領地において約束事はそれだけ重いのだ。しかしエル・ファベル王国はスフェラ領を手に入れたことで、調子に乗ってしまったのだ。
その一つは、一昔前に恐れ多くも帝国に戦争を自ら吹っかけたことだ。「エル・ファベル王国の背後には魔族や亜人族がいる」と戦力に数えてしまったことだろう。
そもそも亜人族も魔族も本来言語そのものが異なる。《《ただこのスフェラ領では》》『《《それぞれの言語を話しても自動翻訳されて伝わる》》』という特別な術式が施されていることを、エル・ファベル王国の王侯貴族たちは知らなかった。
結果、圧倒的な戦力差に三年と経たずに敗戦。
エル・ファベル王国は賠償金を皮切りに、飢饉による死亡者数増加。重税に耐えきれずクーデターなどが重なり、王家の権力は衰えスフェラ領に対して高額な援助を求めた。なんとも厚かましい話だ。
「お父様は後継者争いに巻き込ませないため、私と王子の一時的な契約婚約を結んだけれど、エル・ファベル王国の王侯貴族はそこで気づくべきだったね。元々向こうから婚約破棄させるまで計画に──ん?」
「私の愛しい人?」
「お父様が婚約破棄されることを見通して賭けをしていたのなら、協力者が王都にいたはず……もしかして、公爵家当主はお父様とグルだった?」
そう考えると色々と辻褄が合う。お父様の事故死、私が婚約破棄されるタイミングに、クラウスが王都に迎えに来るのも全て──計画に織り込まれていた。
「そうだった場合、公爵家はどのように処理いたしますか?」
「(処理!?)……まずは裏を取ってからよ」
「憶測では無く確証を得てから、さすがお嬢様です。……ぐすっ、──全てを白日の下に晒したあと処理ですね、承知しました」
「そ、そうね、ハンス。まずは裏取りが取れてから、話を詰めるべきだわ」
「素晴らしいお考えです」
(危なかった。……お父様と公爵家がグルだったとしても、今後共闘できるかは別だもの。公爵家の狙いと、目的、事実確認をするまでは敵か味方かは保留ね。他国の諜報員と繋がっている可能性も、あの公爵家なら……)
ハンスが退室した後──ふと視界の端にヨハンナとリーンの姿があった。二人にはクラウスとのお茶の準備を頼んでいたはずだが、なにやらレオルグ王子そっくりの藁人形を作っている。
しかもかなりスピードで、いくつもある。ナニソレ、怖い。
「ええっと……ヨハンナ、リーンも何をしているの?」
「お嬢様の領地に来られることを見越して、関所外観に串刺しにして飾っておこうかと」
(ナニソレ。怖い!? 串刺し公とか異名が付きそう!?)
「面白い趣向ですね。魔界で昔見た呪いの藁人形を思い出します」
「魔族名物か、妖精にも似たようなものがあったな」
(また不穏当なワードが……)
ひとまずスフェラ領当主としての品性を疑われそうなので、串刺しにするのはダメだとヨハンナとリーンを説得した。人族ならまだしも、魔族や妖精たちの呪いはガチなので洒落にならない。
「いい、物理的に王家にダメージを与えるのだから、精神攻撃は控えなさいね!」
「お嬢も十分に過激だぞ」
ロルフの小言が聞こえたが、とりあえずスルーすることにした。私は平和主義なのだ。わざわざ渦中に赴くことなど考えない。屋敷の中でぐうたらに過ごしたいから──などが本心なのは秘密だが。
「……さて、私の愛しい人。エル・ファベル王国に手紙を送るのなら、私が当主代理として行って参りますがよろしいでしょうか?」
「そうね。エル・ファベルの国として頂いた伯爵を返上し、スフェラ領地当主として愚か者に劇薬を送ったほうが効果的のようね。クラウス、私の代理を任せます」
執事のクラウスは恐ろしいほど美しく、悪戯を思いついた子どものように艶然と笑った。すでに色々と考えているのだろう。どうすればもっとエル・ファベルの国の王侯貴族にダメージを与えられるか──を。
(クラウスも過激派の最たる者の一人だもの)
「私の愛しい人は、酷いですね。私が劇薬など。もう少しオブラートに包んでください。照れます」
「……照れるところが可笑しいのだけれど」
「ああ、そうだ。私の愛しい人を狙っていた魔女から面白いものを手に入れました。これを使ってみては?」
差し出したのは折りたたみ式の手鏡のようで、遠方に居る相手と会話ができる魔導具のようだ。魔族では念話が可能なのであまり使われていないらしいが、人族であればかなり貴重な代物にあたる。
「まあ、これは便利ね」
「そうでしょう」
クラウスは再契約をしてからずっと楽しそうだ。無理もない。彼は退屈を嫌う。平穏を憎み、常に刺激を求める。
だから最初、お父様が亡くなった時に、クラウスも事故に関与しているのでは無いか、と疑った。私が当主となれば、より楽しいと思ったから。
(でも三年でクラウスの変わりようを見るに、直接関わっている線は薄そう。あるいは計画の全容をお父様から元々聞いていて、計画通りお父様の事故死を容認していた──のほうがしっくりきそう。でもその賭けは私が失敗したら、クラウス自身の存在の喪失に繋がる。クラウス自身も自分の命運を賭けしたってこと? うーん、ありえそう)
公爵家が一枚噛んでいるところから、かなり飛躍してしまったが、今はエル・ファベル王国の対処が先だ。
リリーウム公爵家がどう考えていたとしても、レオルグ王子と宰相は私を殺そうとしたのだから、それ相応の報いは受けてもらう。
(私がシーラ公爵令嬢を疎んだ悪女だと思い込んでいるのなら、ご希望通り、悪役令嬢として次の舞台を演じきって見せましょう!)
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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