第17話 ご褒美と王家の対応
叔母様と従兄が少しでも謝罪するのなら廃嫡して市井に放つか、ひと思いに殺してしまおうと思っていたのだけれど、思っていた以上に性根が腐っていた。
(同じ血が通っているとは思いたくないわね)
話し合いの結果、地下牢獄で罪人として生涯働き続けるという執事長のハンスの提案を採用。すでに叔母たちが雇った狙撃手は対応済みで、先程の射撃は他の使用人が代理で撃ったらしい。
「いくら作戦とはいえ、お嬢様の命を狙う不届き者を、野放しにするなどできませんからね」
(ハンスも過保護に拍車がかかったような?)
いつも伯爵家のことを考えて動いてくれる司令塔。そんな彼に今回の騒動など色々大変だっただろう。
「(他の皆を労おうとは思っているけれど、ハンスは何がいいのかしら?)……今回はハンスのおかげでスムーズに、当主継承手続きと親族問題が解決しそうだわ」
「もったいないお言葉です」
「それで今回の報償とは別に、みんなに個人的に贈物をしようと思うのだけれど、ハンスは趣味の釣り竿か栞か刺繍入りハンカチのどれが良い?」
まずは執事長に聞くべきと声をかけたのだけれど、尋ねた時にはすでに号泣していた。
「お嬢様っ……ぐすっ、立派になられて……!」
(あー……)
「ご当主様、最近使用人たちの情緒クラッシャーとなっているので、発言には気をつけてくださいませ」
「あ、はい。ごめんなさい」
ヨハンナの指摘に素直に謝った。確かにここ最近、クラウスやロルフなどの反応も可笑しくなっているのは把握している。ハンスは昔からよく泣いているので、想定内だと思う。
「話が進まないとダメだものね。今後からは話し合いが終わってからにするわ」
「そのほうがよろしいかと。……ちなみに私はお嬢様と買い物にお供することです」
「ヨハンナ」
私を窘めつつ、自分の希望をいうヨハンナに口元が綻んだ。この屋敷で一番冷静かつそっと支えてくれるのはヨハンナだと思う。それとちゃっかりしているのも。
ハンスは涙ぐみつつも、すぐに持ち直した。そのあたりはやっぱり最年長かつ執事長だわ。クラウスだと現実に戻ってくるのに時間がかかるもの。
「失礼しました」
「ハンス。叔母様の所有していた屋敷を即座に解体し、身体的、肉体的、経済的、性的などの暴力によって虐げられていた使用人たちの保護、ケアもするように」
「承知致しました」
報告書を読む限り、親族たちはお父様が存命な時からすでに好き勝手やっていたようだ。
(まあ、ギャンブルに、女、密猟や密輸……本当に救えないわね)
「……親族の方々も似たようなことばかりしているのですが、同じく地下牢獄送りに?」
「大人組みはそうね。まだ分別の付かない子供たちは廃嫡して孤児院に入れて、強制的に性根を叩き直す形に留めていて。万が一、私に子が残せないことも考慮してナイトメア家の血筋は絶やしてはいけないもの」
ふう、と溜息を漏らす。
貴族にとって血を繋げることは義務に近い。今は当主代行として動きつつ、スフェラ領の当主となった暁には婚約あるいは結婚問題が出てくるだろう。
(結婚――っ! はわわわっ……今けっこう凄いことを言ったような!?)
思わず今朝見た夢の内容を思い出し、慌てて頭を振った。
「お嬢? もしかして気分でも悪いのか?」
「私の愛しい人、顔色が……。やはり寝不足でしたか?」
グッと顔を覗き込むロルフとクラウスに私は頬に熱が集まる。二人の距離感がやはり可笑しい。
(ち、近い! そしてクラウスは自分から顔を近づけるのに関しては、照れないのね! なんとなく分かっていたけれど、こうぐいぐい来ると……!)
吐息が頬に掛かる。この二人ワザとじゃないか。そう思いつつも悪女の仮面を被り直し、平静を装って答える。
「大丈夫よ? ……それと親族と叔母様たちの中に、父様殺害を目論んだ者は?」
「虎視眈々と当主の座を狙ってはいましたが、行動に移した者はいませんでした」
「複数から狙われていた──という感じではないのね。となるとエル・ファベル王国だけ……」
そう言えば王国からの返答がない。もっともアトラミュトス獣王国やティリオ魔王国と異なり、エル・ファベル王国は王族派と貴族派、そして反政府活動が活発化しており国として中々に複雑な状況にある。即断即決はできないだろうし、私たちの独立宣言をして一番困るのは、かの国だ。
「(エル・ファベル王国こそお父様が亡くなって一番困るはずよね。スフェラ領がただの土地じゃないって分かってない馬鹿がいるわけ……)あ」
「どうした、お嬢!」
「私の愛しい人?」
「いたわ。……《《ここの領土を軽視している馬鹿が》》」
「ああ。あの馬鹿王子でしたらありえるでしょうね。なにせ《《辺境地に住む伯爵令嬢》》としか認識していませんでした」
ヨハンナは私が学院に通っている間、お父様の命令で王都の情報収集を行っていた。定期報告をする際に、私も報告書を読ませて貰ったので間違いない。
(公爵令嬢のシーラ、嫡男のティーダ。そして宰相は公爵家当主。お父様に魔女を派遣したのは、公爵家がレオルグ王子を唆して、加担させた。……でも、目的が分からないわ。そんなことしても王国にメリットなんてないのに。それとも我が家の代わりにこの土地を収めようと画策していた? それこそあり得ないわ。この土地がどういった所なのか、宰相であれば知らないはずないでしょうに)
頭をフル回転させるが、どうにも点と点が繋がらない。だからこそ暗殺以外に何か別の目的があるのではないかと思ったのだが、それも思い浮かばない。
(うーん)
「……あ。あのパーティーにいた、頭の悪そうな馬鹿王子ですか」
「お嬢の魅力が一ミリも分からなかった奴ならありえる」
「姫さん……。元の姿に戻ってもいいか?」
「あら」
私のソファの傍に寝そべっていたロベルトが、のそのそと起き上がった。真っ黒な毛並みはモフモフしており、猫とは違うものの癒しを求めて「えい」と、抱きつく。
「ひ、姫さんんんん!?」
「元の姿になる前に、もふもふさせて」
大きなヌイグルミ感覚で飛びついてみたが、思っていた以上に毛並みがモフモフしているし、温かい。ロベルトはあわあわしているものの、尻尾がもの凄く揺れ動いているのが見えた。そんなところも可愛い。今回の作戦で威圧感を出すため、獣の姿になって貰っていたのだけれど、すごく可愛らしい。
(なぜこの姿にならないのかしら? チャムやレオ、ミーやニーとはまた違ったモフモフ感……)
悪女の仮面なんか一瞬で消え去っているが、この可愛さの前ではしょうがないだろう。
「姫さん、くすぐったい……」
(癒される~)
「私の愛しい人、……浮気は……許しません」
クラウスが目を潤ませているのを見てハッとした。いくら獣とはいえ、人の姿になる異性のロベルトを抱きしめるのは、たしかに恋人であれば嫌だろう。
ついチャムやレオたちと同じようにしていたが、それはクラウスにもロベルトにも失礼だった。
「あ、クラウス。そうね、軽率だったわ。ごめんなさい。ロベルトも」
「いえ……姫さんが喜ぶのなら」
「ふふ、ありがとう」
「……私の愛しい人なのですから、もっと自覚をもってください」
クラウスは頬を膨らませて拗ねるので、彼の手を掴んで「ええ」と答えた。手の甲にキスを一つ。男性から女性にするのが通例だが、好きな人に好きだと伝える愛情表現でもある。
「気をつけるわ。でも、私の好きなのはクラウスだから安心して」
「繝槭□□繝上シ縺□□■■ュ繧ケ縺?■■!?」
案の定、言語化不可能な言葉を放ち、固まってしまった。
(しまった。これは会議の後にすべきだったわ)
「ご当主様……」
「ヨハンナ、つい癖で」
「仕方ないですね」
「お嬢、毛繕いしてほしいにゃ」
「してほしいにゃー」
「ミーにチャムまで」
「え」
その後、「頑張った者には、お嬢様から頭を撫でて貰える」と言う情報は瞬く間に屋敷内に広がり、結果的に長蛇の列になってしまった。これでは話し合いどころではない。幸いだったのは捕縛した親族や、暗殺者の後処理であり、私の裁決はほとんど必要なかったことだ。ハンスたちを含めた有能な使用人たちが良いように計らうだろう。
(さて、アトラミュトス獣王国やティリオ魔王国の会合の前に、王国問題も片付けておいたほうがよさそうね)
***
気づけば結構な時間が経っていた。あの後、朝食を取り、当主としての政務を執りつつ、使用人たちを撫でるという謎イベントを並行していた。
(そ、そんなに頭を撫でられたいものなのかしら?)
「私の愛しい人、少し休憩を挟みましょうか? 三時はとっくに過ぎておりますよ」
「あら」
経営状態やら領地などの報告書に目を通していたら、あっという間に時間が過ぎていた。窓の外を見れば日が傾きつつある。
「そうね。いったん休憩しましょうか」
「それと……私の愛しい人からもっと……触れて欲しいです」
キャッ、と乙女度が増していくクラウスに、ロルフもヨハンナも突っ込むことを諦めたようだ。執事の完璧有能モードから照れ屋でもじもじする落差が激しいが、それ以外はいつも通りだ。
「ふふっ、じゃあ休憩時間中は膝の上に乗るのはどうかしら? それともクラウスにスイーツを食べさせるのは?」
「…………愛い」
「ふふっ、楽しみなようで良かったわ」
「お嬢様、こちらを」
声を掛けてきたのは、退室していた執事長のハンスだ。話に割り込んでくるなんて珍しいと思いながら手紙を受け取った。
(この手紙は……)
宛名からして嫌な予感しかなかったが、手紙の内容を読んで憂鬱な気分に逆戻りする。手紙の主は私の《《元》》婚約者であるレオルグ殿下だったのもあるが、頭が痛くなったのは内容のほうだ。
(ひっどい内容ね!)
私が溜息を漏らしたことで、その場に居た皆が手紙に視線を落とす。
彼らに見られても問題は無い――はず。
「『反逆者になりたくなければ、弁明しに王都まで来い』ですか、ああ、これだから王族は……」
「『不貞の証拠が嫉妬』だ? 頭おかしいんじゃないか」
「『今謝罪をすれば愛妾にしてやる』……うわぁ」
クラウス、ロルフ、ロベルトの表情が強張っていく。殿下の挑発めいた文章を見せないようにしていたが、意味はなかったらしい。後悔したが、もう遅い。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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