表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/49

奇跡

ヴィクター殿下をひと睨みして、アグネス姿のレオンは火柱とその横で雄叫びを上げている魔獣に向かって、怯む様子もなくゆっくり歩いていく。

 後ろからセレーネの「アグネス嬢っ!」と叫ぶ声が聞こえるが、その声すら無視をして振り返らない。

 

 セレーネは今回、ヴィクター殿下の出陣が決まったときは死に戻る前のように討伐で殉職させないためにも留守番の予定だったが、あとからやはり一緒に来ると言い出した。言い出したら聞かなかった。

 確かに他の侍女をアグネスに帯同させるとなにかとアグネスの中身がレオンではいろいろと不便なため、セレーネの思惑通りとなったが、この野営地に一緒に来る条件として、「魔獣と戦わない」「危険が迫ったら逃げる」とレオンと約束をしている。

 本当なら騎士であるセレーネもすぐに参戦しなければならないはずだが、今回だけはどうしてもレオンはセレーネの運命を変えたくてこのような条件を出し、騎士団の方にも聖女アグネスの「侍女」として討伐に行くことで了承を得ている。だからいまはレオンとともに魔獣に立ち向かいたいが約束を守るためにも行けずに、セレーネは見守るしかできないのだ。

 

 火柱と火を吐く魔獣をどうにかしようと、たくさんの騎士達がその周囲を囲むように集まっているが、皆は成す術もなく距離を取って立ち尽くし、ただひたすら見ているだけだ。

 騎士団長と副騎士団長がアグネスの傍まで走ってきて、アグネスを守るように両脇に分かれて一緒に歩き出した。

 副団長が少し険しい顔つきでアグネスに話しかけてきた。

「聖女アグネス様、貴女の兄であるレオン殿と従者のノア殿がいま、魔獣の群れと戦っています。一時撤退のため、おふたりは殿を務められています」


 その言葉にアグネス姿のレオンはノアとアグネスはふたりが自ら殿を務めて人払いをし、なにかをしようとしていることだけは察することが出来た。

 (アグネスの魔法を使う気だな)


 ノアが必死にアグネスを守りながらもいまできる最善を尽くそうとしている仲睦まじいふたりをレオンは想像し、アグネスの恋をしたいという願いもレオンのアグネスの幸せという願いも叶ったことを実感する。そして火を吐く魔獣を目の前にしていることを忘れ、思わず頬が緩んだ。


 しかし、アグネスを見守っている騎士団長や副団長、騎士達には、アグネスの微笑みが魔獣すら手懐けてしまうぐらいの美しい余裕ある微笑みに見え、どよめきが起こる。


 そんなことは少しも意識していなかったレオンは目の前の火柱と魔獣の正面まで来ると、諦めにも近い気持ちで跪いた。

 (とりあえず祈るフリだな)

 婚約者のアグネスをひとりで祈りに行かせ、自分はアグネスに寄り添うことなく遠くの安全なところから何食わぬ顔で見物しているヴィクター殿下に、半分怒りが込み上げてくるが半分は侮蔑だ。

 (あいつにアグネスの婚約者を名乗る資格はない。後はとことん堕ちてもらうだけだな)


 ヴィクター殿下への怒りを抑え、60秒数えてたら聖衣に忍ばせている剣を取って、魔獣を正面からぶった切ろうとアグネス姿のレオンは段取りを考えながら祈るフリを続けた。

 59…58… … …  28…29…30…31…


 (?????)

 

 火柱から出るジリジリと感じる熱さを祈りながら、からだの前面で感じていたのに、急にその熱さが消えるように無くなった。

 なにが起きたのかと閉じていた瞳を開けて慌てて顔を上げると、目の前にあったはずの火柱の火は跡形もなく消え、白煙が出ているだけになっていた。


(な、なにが起きた?本当の奇跡か?)


 周囲を囲んでいた騎士達もあまりに突然のことに声を失っている。

 一瞬、魔獣の雄叫びさえなくなり静寂に包まれたが、すぐに騎士達の歓声にアグネス姿のレオンは包まれた。


「聖女様の祈りが女神様に通じたぞ!」

「奇跡だ!火柱が消えたぞ!」

「これで魔獣に攻めこむことができるぞ!」

 口々に聖女アグネスを称えながら、さすが訓練された騎士達だ。次々に魔獣と対峙の準備とばかりに剣を構える。


(これは奇跡なんかではなく、間違いなくアグネスの魔法の力だ。でも、どこからだ。アグネスとノアはどこにいる?)

 辺りを見回すが、ふたりの姿は少しも見当たらない。


(ノアのことだ。どこからか見ているな)

 信頼できる親友の気配を感じ、レオンは小さく笑った。


 「最後まで戦い抜こう!我々はこの困難を乗り越え、必ず勝利出来るはずだ!」

 アグネス姿のレオンは、訓練でよく騎士同士で掛け合う言葉を大声を張り上げて叫んだ。

 興奮した騎士達が「うおおおおおぉぉぉ!」と返す。

 騎士達の士気が高まったところで、それを水を差すようにヴィクター殿下がニヤニヤと笑い、拍手しながら出てきた。

 たちまち、その場が白ける。


「さすがは私の婚約者だ。よくやってくれた」

 アグネスを守るように傍にいた騎士団長と副団長がヴィクター殿下からアグネスを守るように立ちはだかった。

「お前ら、どういうつもりだ?」

 

 その時だった。

 魔獣が動き出し、いまにも飛び立ち、火を吐こうとする。

 それを見たヴィクター殿下は、誰よりも早く後ろに逃げ出した。

「アグネス、アイツをなんとかしろ!これは命令だ!」

 捨て台詞を吐き逃げていく情けない姿を大勢の騎士達に晒しながら、ヴィクター殿下は天幕まで後退した。


「聖女アグネス様、ここは私達にお任せください」

 一部始終その様子を見ていた騎士団長と副団長が剣を構え、そう言うとふたりは息ぴったりで魔獣に切り込んで行った。

 

(さすがは団長達。俺も負けていられない)


 聖衣に忍ばせておいた剣を取り出し、ふたりに後れをとらないようにアグネス姿のレオンも一緒に魔獣に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ