その2
彼女からの論文への投稿――正確には批判文をもらう前から、私は彼女の存在を感じていた。この国で青を探す人間は限られている。彼女はその数少ない一人で、しかも私同様、相当熱心な部類だった。青を探すという作業は、地道で地味な行脚である。わずかな資料を頼りに失われたものの光明を探す。伝承や民話を頼りに寒村の老夫婦を訪ねた折など、彼女の存在を感じることがままあった。
「あれまぁ、こないだも、あんたと同じように、青がどうのと聞きに来た娘さんがいらしたよぉ」
都会じゃそんなもん探すんが流行ってるのかねぇ。渋い茶などをいただきながら、彼女の足跡を知る、そんな具合だった。青に関する伝承はけして多くはなく、私たちはニアミスで同じ情報を辿る事も多かったのだ。
「突然のお手紙、失礼します」彼女の手紙の書き出しはこんなだった。
「私は幻の青を探しているものでございます。偶然から、高原さんの書かれた論文を読み、筆を取りました、ご無礼をお許しください」
慇懃な彼女の手紙は丁寧に、しかし容赦なく私の論の脆弱な点をついていた。耳が痛かった。まさに私が売らんかな記事に仕立てるべく、軽薄に創作した箇所ばかりだった。彼女は私の執筆態度に、静かながら激しく憤っているのだ。自分が探している青を侮辱されたように感じたのだろう。彼女の指摘はいちいち当を得ており、そして正確だった。彼女の知識と研究量に並々ならぬものを感じ、私は自分の研究態度を恥じた。丁寧に謝罪を返信した私に、面会を申し入れてきたのは彼女の方だった。青を巡る共同研究。私はやがて、青だけでなく、彼女自身にも惹かれていくこととなる。
(つづく)
【追憶】
青からの着想を探していた私の頭の中には、早くから一組の男女の姿があった。青い闇、青い海。青の前では、男女は暗くて、何も見えない分、純真に感じられた。
青を巡る冒険が男女を結びつける事は私の中では自然だった。青は、自然をさす色でもある。自然の前では、いや我々男女は元々自然な生き物であるけれども、お互い惹かれあう仕組みをもっている。
私は青を介して出会う男女を描きたかった。しかし、彼らの内面や心情、事情、状況には興味は持てなかった。出会いは必然であっても偶然で、そこに説明は不要である。ただ出会った。青を介して。私は主人公のいまいち頼りない教授崩れや、エキセントリックな研究に取り憑かれているオールドミスにも興味はない。大事なのは、そこに青があることだ。
青臭い? 無論、それでかまわない。
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