その1
失われた青を探し求めていた私が、幻の青を追う彼女と出会ったのは、おそらく必然だった。今はそう思う。そして恋に落ちた事も。
私は高原重行、考古学を専門とする学者だ。そう名乗ってはいるものの、教職を追われた今の立場では、ただの考古学好きと自己紹介した方が正しいであろう。古い文献に記された「失われた青」にとり憑かれてしまった私は、仕事も家庭も省みることなく青の探索に全精力をそそぎ、当然の結果としてその両方から捨てられた。生活能力や社交性に欠ける私が、それなりにも社会生活を営めたのも妻の甲斐甲斐しさ由縁だったのだろうが、私は青を選んでしまったのだった。
「浮気は女性にするものだと思っていたけれども」
彼女の最後の言である。女ではなく、あるかないかもわからない得体の知れないものに心を奪われてしまったのでは、取り乱す気持ちにもなれない、という事だった。考古学上の恩師の紹介による見合い結婚は、子もなく六年で、特に話し合いもせずに終了した。私には青の事以外、妻と満足に話す内容さえなくなっていたのだった。もう過ぎた話ではあるが、機会があれば一言謝りたいとは思っている。
今は残されたわずかな私財の切り売りと、寄稿する論文のわずかな収入で生計を立てている。論文、と言っても、偏執的で狂信的な私の論が学会で相手にされるわけもない。わずかな読者に売れるマニアックな雑誌に、興味をあおるよう多少の脚色と、テレビドラマ的なくだらないストーリーを加えて、買い取ってもらっているという有様だった。研究成果と言うよりは出来の悪いSF小説と言った方が近い代物だ。六畳一間の、二十一世紀では骨董品のような木造ボロアパートで、そんな幼稚な作品を作家志望の学生のように書いているのかと思うと、四十も過ぎてるのに情けなくなってくる。しかしそんな半端なフィクションが、彼女と出会うきっかけを生んでくれたのも事実だった。
(つづく)
【付記】
青、と聞いて思い浮かぶイメージとはなんであろう。例えば安全性とか、日常性とか、安逸、無難、平易。
青を探し求める男を主人公とした物語だけに、奇をてらうことも無く、淡々と出来事は進んでいくことだろう。身近なものから、それほど逸脱することはないと思う。
「青の冒険」などと題そうにも、どうも大人というのは活発さに欠けるというか、躍動感に足りないというか、大体ハリウッド的な元気な中年ばかりではない。アクションあっての冒険ということなら中年バツイチ男には荷が勝ちすぎている。
しかし、何かを追い求めることが冒険である、というのであれば、まさしく今は冒険の途中。小さな物語ではあるけれども、今後に期待していただきたい。
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