円卓の騎士の初仕事
「というわけなの」
私は円卓の騎士へと向かうと、現在の自分の体調について説明した。
現在、私の話を聞いているのはアーサーと綾音先輩を除いた9人。その内、真っ黒な服装をした辻本くんだけが、少し離れた所にもたれて腕を組んでいる。
「だ、大丈夫なんですか! 熱とかは出てないですか! もしよろしければ看病しましょうか! 私は心配です!」
改造和服の結衣さんが詰め寄りながら質問してくる!
「待って待って! そんな畳み掛けられても答えられないから!」
「す、すいません……」
結衣さんは落ち込んだ様子で、申し訳なさそうに引き下がった。
「あ……別にイヤってわけじゃないのよ。ただちょっとびっくりしただけだから……」
私はすかさずフォローする。彼女が心の底から心配してるのは、経験則から分かっているからだ。
「また起こったのか。実に難儀な身体をしているな」
スーツを着崩した瞳先生が労るような口ぶりで言う。
「どうやら、この提案をするときが来たようだな」
「提案? なんでしょうか?」
さて、どんなトンデモが飛び出してくる?
「簡単なことだ。お前の護衛に私たちも参加させろ」
瞳先生が命令口調で提案する。もはや提案というより勧告ですよ、それ。
「護衛を? でもアーサーがいますよ?」
「忘れたのか? 2年生はもうすぐ修学旅行だ。お前が休むのは事情を考慮して仕方がないが、アーサーを巻き込むわけにはいかん」
瞳先生は教師の立場からその理由を説明してきた。そういえば、二週間後には修学旅行があったっけ。
「でも、アーサーが側にいてくれないといざというときに困りますし、なにより、私の体調が悪化する可能性があります」
しかし私の気は進まない。ショッピングモールのときはアーサーが近くにいることで、確かに体調がよくなったのだ。今ここで遠くに行ってしまうと、私の体調がどうなるか分からない。
なにより、私の知るアーサーはここで側にいると言うと思うのだ。
「そういえばそうだったな。うーむ」
どうやら見切り発車だったらしい。瞳先生は腕を組んで考え込んでいた。
「心配ありませんわ。アーサー様の愛には勝てませんが、私の祈りを持って、有希様に必ずやご加護を与えて見せましょう」
修道服のシスネさんが我こそはと声を上げる。確かに彼女は教会育ちだから期待できるかも。
「いいえ。武藤先輩は大和撫子。東洋の神秘の方が力になるかと」
対抗するように巫女服の深琴さんが割って入ってくる。どちらがと争ってるけど、どちらもというのは我儘でしょうか?
「あの……」
すると、軍服姿の美香さんが控えめに手を上げる。
「どうしたの?」
「えっと……アーサー王って、光の速さで移動できるんですよね」
「そうね。一瞬、本当に光になって……美香さんナイス!」
私はそこで意図を察した。確かに、今のアーサーならできるかもしれない。
「武藤、どうしたんだ?」
瞳先生がキョトンとした顔で尋ねてくる。
「つまり、アーサー王は光の速さで移動できるんだから、なんかあったらすぐに帰ってくればいいって話です」
「なるほど。それなら修学旅行と有希の護衛を両立できるか」
羽つき帽子と騎士服の紗友里さんの指摘に、瞳先生は感心するように言った。
「でも、ウチらが守るのはしたほうがいいっすけどね。そうすれば、アーサー王だって気兼ねなく修学旅行に行けるだろうし」
「ちょっといいか?」
半脱ぎ和服の彩華が手を上げる。なんだろう?
「できることなら、予め何度か進人と相対しておきたい。もし有希に何かあったときに、実戦経験があるかどうかは大きな差だ」
彩華の提案は最もだ。今でこそ特異な経験を積みまくってるが、アーサーだって最初は経験不足で怖かったぐらいなのだ。私に見惚れて手が疎かになってたこともあったし。
ただ
「流石にそれは……」
私としては、あまり彼女たちに進人狩りをしてほしくない。輝くんのときのように、元々人だった存在を殺す可能性があるのだ。
「分かってる。親父に頼んで仕事を斡旋してもらうつもりだ」
彩華は私の心情を察してくれていたらしい。清田のおじさんはシノギとして山の進人狩りをしている。彼に頼めばいい仕事を紹介してくれるだろう。
「……ありがとう。今度プリン奢るわね」
「べ、別にいらねえ! コレは私にしかできねえからやるだけだ!」
彩華がプリプリと怒っている。私もたまに言われるけど、彼女も十分にツンデレと言えるわよね。
「みんなもありがとう。でも、本当にいいの?」
「今さらソレ聞くんですか⁉ 私たちってそのために鍛えてたんじゃないの?」
強露出ストリートファッションのソソさんがびっくり! って感じで言ってくる。そうは言っても、この円卓の騎士は綾音先輩の提案で始まったものだ。当の本人はAO入試が近くて来れてないけど。
私は他のみんなの顔も窺う。全員がやる気に満ちた顔をしていた。ただ私を護衛したいというよりも、自分の力を試してみたいって人のが多そうだけど。
「わかった。一先ずは清田さんの仕事の手伝いをすることで経験を積みましょう。そしてアーサーが修学旅行に行ってる最中はよろしくするわね」
私はみんなに頭を下げる。まだ頼りない部分は確かにある。あるけど、それでもその気持ちがとても嬉しかった。
「こんにちはー」
「響也〜、遊びにきたぞ」
そうして修練を開始すると、仕事を終わらせたアーサーと田中くんがやってきた。
「まさか、真人まで来るとは思わなかった」
二人の到着に合わせて辻本くんが話しかける。
「実はな、今日武藤と秋山のランニングにアーサーが混ざるらしくてな。それでどうせなら、俺らも一緒にできないかって頼みにきたんだ」
なんか知らないうちに変なことになってるみたいね。
「と言ってるが、武藤くんはどうするのかな?」
「残念ながら交渉すべきは私じゃなくて楓よ。あの時間を誰よりも楽しみにしてるのは彼女なん──」
「羨ましいです! 私も混ぜてください!」
「ああ、さらにややこしいことに!」
話を聞いていた結衣さんが、羨ましそうな顔でこちらを見ていた。
そして、そうなるということは……
「どうせなら、私たち全員でやったほうがいい。……それが私たちの命に繋がる」
やっぱり。最後の言葉の意味はよく分からないけど。相変わらず、深琴さんは意味深なことを言うわね。
「私もたった今、同じ言葉を神から授かった気がしますわ」
さらにシスネさんが、対抗するように啓示を告げてきた。なんというか、神様フットワーク軽すぎません? もしかして女神と対決してる?
「いいね! どうせならみんなで有希を守ったほうが安全だろうしな!」
田中くんが楽しそう。あと、今の発言からするに私の事情を知ってるみたいね。
ただ
「言っとくけど! 私は楓の説得はしないからね!」
私は苦言を呈する。アーサーと一緒にやるのすら渋い顔してたのに、ここまで増えたらどんな顔するか……
「安心しろ。その交渉は俺がやるから」
田中くんがウインクしながら主張する。わりと様になってるけど、残念ながら私は受け取れないわ。
そして結局、私たちは円卓の騎士+田中くんで楓に交渉に行った。
鋭い眼光に交渉は難航するも、田中くんがビンタを張られることで、なんとか取り付けることに成功したのだった。




