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アプローズが戻ってくると部屋の空気がふっと緩んだ。
「何?どうしたの?何かあった?」
アプローズは感が鋭い。二組のカップルの様子の違いにすぐに気がつく。レクサスは拗ねて紫音はいたずらっ子のような目をしているし、ひかりとモビリオは思わず微笑ましくなるような雰囲気でお互いを見つめていた。
アプローズの疑問にはカムリが手招きして、そっと答えた。
「シオンちゃんとヒカリちゃんが二人で話してるときは俺たちにはわからない言語になるみたいでねぇ。内容を内緒にされちゃってレクサス様が拗ねてんだよん」
アプローズは、それを聞くと少女たちの後ろに立って何したのと聞いてみた。ひかりは、恥ずかしそうに頬を赤らめ、紫音はにやっと笑ってそっと耳打ちした。アプローズは、事の次第を聞いて、ぷっと吹き出す。
「さっきからなんなんだ?お前たちは」
隠し事をされてイライラしていたレクサスは三人を睨む。
「たいしたことじゃないわよ。ねぇ~」
アプローズは紫音とひかりにウインクしてみせた。うんと楽しそうに紫音が頷くと、ひかりもぎこちなく頷いた。レクサスは気に入らないと言わんばかりに、眉間に皺を寄せた。
「本当にたいしたことじゃないから、怒らないでよ」
「別に怒ってない」
「じゃあ、そんな顔しないの」
紫音はそういって、笑った。レクサスは小さなため息を吐いて、わかったといい、いつもの無表情に戻った。
「それで、王太子の件についてはどうするつもりなんだ?」
レクサスは、ひかりを見つめて言った。ひかりは、小さく息を吐いて、真剣な表情になる。
「はい、私がトリビスタンへ送り届けようと思います」
「モビリオと?」
「いいえ、彼にはこちらに残ってもらいます。あちらには、第二王子派という派閥があるのです。だから……」
「反乱を避けたいと言うわけだな?」
はいとひかりは力強く頷いた。
「駄目よ」
紫音が静かに言う。
「ひかりが一人で行くなんて、絶対ダメ。あたしも行くわ」
「でも、紫音はここにいたほうが」
「嫌よ。ひかりに何かあったら、どうするの?誰が助けるの?それに、あたし、王と王妃にはお仕置きが必要だと思うのよね。ていうか、あたしがそうしたい」
紫音は強い意志を瞳に宿して、ひかりを見つめた。ひかりは、少し泣きそうな微笑みを浮かべてありがとうと言った。レクサスは、紫音が何と言ったのかはっきりとはわからなかったが、おそらくついて行くと言ったのだろうと推測して小さくため息をついた。
「レクサス、あたしもひかりと一緒にトリビスタンに行くわ。いいでしょ?」
やはりと思いながらレクサスは頷く。紫音の表情には止めても無駄よと書いてある気がしたからだ。
「ただし、条件がある」
「何?」
紫音はきょとんとする。
「カムリかアプローズを同行させろ。二人だけでは、何が起こるかわからない」
「そうね。あたしか、カムリが行かないと心配よね」
アプローズはレクサスの気持ちを察して、そう言うと、ドアをノックする者がいた。レクサスが入れというと、ティーノが三人のお供をつれて食事を運んできた。紫音やひかり、モビリオはその量をみて驚く。軽食というには量が多い。大量のサンドウィッチとハムやソーセージのてんこ盛り、サラダは特大のボールにスープは大鍋に入っている。
「お待たせ」
ティーノはそういいながら、それぞれの前に皿を並べて食事を盛り付けていく。そして、なぜか一人分多く盛り付けをした。レクサスの皿は大皿だ。普通に軽い立食で数人が食べる量である。反して、紫音たち人間組には普通の食器に適量が盛られていった。カムリやアプローズ、もう一つの食事セットは人間たちの二人前か三人前の量が盛られる。そして、お付きの三人がボールや大鍋をもって退出した。
「あら、ティーノも参加するつもり」
「もちろん。なんだか面白そうじゃないか」
アプローズとティーノが微笑みあう。
「遊びじゃないぞ」
不機嫌そうにレクサスが言うと、ティーノはわかっているさと答えた。
「だけどさ、俺も召喚された身だ。少しは関わってもいいだろう?」
「好きにしろ」
レクサスは投げやりにそう返した。
「それでは、みなさま、主の許可が下りたので俺も参加ね。さあ、おなかがすいただろう。まずは、何事も腹ごしらえだよ。召し上がれ」
そう言って、ティーノは席についた。アプローズもティーノの隣に座った。
レクサスは、全員が着席したのを確認すると、不機嫌な表情を浮かべたままサンドウィッチをモグモグと食べ始めた。それを合図に全員が食事を始める。
「で?話はどこまで進んでるんだ?」
「ヒカリちゃんが一人で王太子を送るって言ったから、シオンちゃんがついて行くって言ったの。でレクサス様はあたしかカムリの同行を条件につけたとこ」
なるほどねとティーノは苦笑した。
「俺が行ってもいいんだけど、戦力になるかどうかねぇ」
カムリがそういうと、ティーノが問題ないだろうと言った。
「黒狼のでっかいやつとかになってついて行けばいいんじゃないか。向こうはいまだにこっちが魔物を操ってるって思ってるはずだろう?」
それに対して、モビリオは一応の誤解を解いたことを説明した。
「それでも、半信半疑だろうな。戦力としてはアプローズの方がいいだろうけど、インパクトならそのほうが大きいと思うよ」
「そうね。女三人なんて相手になめられかねないものね。それに、あたしがいないと師団の連中がなまけるから。鍛え直すのに苦労するのよね」
アプローズは何かを思い出したようにくすくすと笑った。
「救護班がなげいてたな」
ティーノもくすくすと笑う。どうやら、紫音の家庭教師をしていたあとに、いろいろあったようだ。
「まあ、二人がそういうなら、俺がついていくけどねぇ。レクサス様はそれでいいのかなぁ」
「かまわん」
本当は自分が行きたいのはやまやまだったが、国を守るという重責からは逃れられない。もし、そんなことをすれば、紫音が気に病むこともわかっていた。レクサスは紫音を好きだと自覚してから、王であることの不自由さに歯がゆさを覚える。幼いころは角がないことで言いようのない孤独感を感じたこともあったが、それ以上に今はこの国から動くことのできない辛さに苛まれていた。
紫音はそれを察したのか、彼の手を取ると約束すると言った。
「絶対に無茶はしないわ。必ず帰って来る。お願い、行かせて」
そこまで言われては、レクサスも許すしかなかった。心配と不安を抱えながらも、わかっていると頷いた。
「じゃ、シオンちゃんのしたいお仕置きっていうのを聞いておきたいねぇ。お供としては」
カムリがおどけて言うと、紫音はう~んと考え始めたが、腹の虫がなくのでサンドウィッチを方張りながら考える。トリビスタンの王は、すでに軟禁されているし、王妃も後宮から出られないようにしてあるとカムリとアプローズは言っていた。
「まずは黒の剣を壊したいな。そうしないといつまでもひかりが白の剣を側に置いておかなくちゃならないでしょ」
「うん、そうだねぇ。王妃をおびき出すなら、王太子の帰国したことが分かれば大丈夫なんじゃないかなぁ」
なるほどとカムリの言葉に紫音はそうだねと考えをまとめながら答える。あとは王様を軟禁から助ける形にはなるけれど、二人そろわなければお仕置きの意味はない気がした。
「一番の策士はバレンシア公爵だったよね?」
「そだよん」
「じゃあ、最初にその人についての話を聞かなきゃ。一番の危険人物だもの」
「王太子に聞くのかい?」
「うん、他にその人のことわかる人はいないでしょ?」
レクサスは、黙ってカムリと紫音の話を聞きながら、食事を進めていたが手を止めた。
「なら、とりあえず、食事をきちんとしろ。向こうは感情的になって何をするかわからないぞ。もちろん、俺が立ち会うが」
「そうだね。魔法もつかえなくなってるっていっても、モビリオさんとあんなに激しい戦闘をしたひとだもん。それに、窮鼠猫を嚙むっていうし」
「キュウソネコカムとはなんだ?」
「えっとね、追い詰められたら鼠でも猫にかみついて抵抗するって意味だったと思う」
「なるほど。弱者の反逆という意味だな」
「うん、そんな感じ」
「それなら、シオンは俺の側から離れるな。いいな」
うんと紫音は頷いた。
「ディオンは魔力をなくしたんですね」
モビリオがぽつりとつぶやく。
「そだよん。白の剣を手放したときにそうなったようだよ。白の剣も、使用者の力を吸い取っちゃう可能性があるってことかなぁ」
「じゃあ、ヒカリがこのまま白の剣を持ち続けることは、やはり危険なんですね」
「その可能性、高いと思うよぉ」
「だったら、白の剣も破壊しちゃったほうがいいわね」
アプローズがそういうとレクサスが難し気な表情をのぞかせた。
「二つの剣は、同時に破壊しなければならないんじゃないか?片方だけ壊そうとしても、無理な気がするが……モビリオ、お前はどう思う」
「おそらく、レクサス様の言う通りかと思います。二つの剣は見えない魔力でつながっている。ならば、片方だけを壊そうとしても無駄に終わるかもしれません」
「もし壊れても、ヒカリちゃんの魔力が黒の剣に吸収されてる以上は慎重にしないといけないわね」
アプローズがそういうと、ティーノが頷く。
「同時に破壊するっていうのがベストだろうな」
そうなるとやはりひかりはトリビスタンに行かないという選択肢はなくなる。ひかり自身ははじめからトリビスタンに行くことにしているので問題はない。問題は二つの剣をどうやって同時に破壊するかだった。
「きっと、アプローズさんの言っていることが正しいと思います。壊し方が分かればいいんだけど……」
「その辺りも王太子にはかせてみようよぉ。案外、いい解決法がみつかるかもしれないねぇ」
カムリはソーセージを頬張りながらそういった。
「では、食事を終えたら王太子のところに行くとしよう」
レクサスがそういうと全員が頷いた。




