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美沙子へ

美沙子へ


 最後までちゃんと読んでくれてありがとう。

 一番はじめに、それだけちゃんと書いておきます。




 拓也が死んで、ずいぶん経つね。

 今まで読んできたいろんな話の中では、どんなヒロインもわりと早めに新しい恋に歩んでいたのに美沙子といえばほんとにさ。

 別に俺がここで長々と書かなくても、自分が一番わかっているだろうけれど。



 この小説(に限りなく近いなにか)を書いている中で、俺は何回も筆を置きたくなりました。文豪的なオサレな表現を使いたくてこう書いたんじゃなくて、わりと本気でね。


 それくらいに、あの時の美沙子と拓也の事を思い出すと辛かった。自分の無力さを数年越しにまた実感するようで、辛かった。それはおそらくきみもだろうけど。

 拓也の死んだ、あの日の事を数行で終わらせてしまった自分がふがいない。

 俺の人生の中では、数行で済ませることができるような出来事ではなかったんだけれど、あれ以上に掘り下げて書く事ができなくて。



 それにしても自分で何度読み返しても、昔流行ったケータイ小説の後半戦みたいだなって笑えるね。ただ非常に残念な事に当の本人の拓也が残した手紙がドラマチックポエムじゃなかったからよくなかった。そこはマイナスポイント。愛空並のベストセラーを目指して書いたけど無理そう。






 この数年間、俺はきみに何度も何度も拓也の残した手紙の事を伝えようと思ってた。

 まぁ何年引っ張っても言うことができなかったから俺の意気地なさはお察しという感じ。

 





 俺は、この数年間、何度も何度も君の弱みに漬け込もうとする男を見てきた。

 大きな支えを失った人間は、どうにも魅力的にみえるらしいね。

 さっさとそんな男に心を開いて苗字でも変わればよかったのにきみは本当にさ。

 もういない人間と比べるなんて、相手からすればこれ以上に辛い事はない。


 そんなきみの背中を押すわけでもなく、だからといってきみを自分の元に寄せるわけでもなく、ただただきみが涙ながらに話す言葉をタバコをふかしながら聞いていた数年間だったね。



 新しい人を探さなきゃなぁ。なんて笑うくせに、次の日には何が悲しいんだか泣いててさ。

 本当に美沙子は何がしたいんだよ、って思ってた。いやこれは本気で。

 あと、何人も紹介してやったんだから紹介料くらい払え。焼肉おごるくらいでいいから。




 




 勘違いしてほしくないからちゃんと書いておくけど俺はきみの事が全然好きじゃない。

 小さなころからずっとずっと喧嘩ばかりしてきて、いつもどっちが拓也を味方につけるか合戦をしてたのにある日突然拓也を「彼氏」という名の最強カードに仕立て上げたからだ。あの日から拓也が「まぁ八尋もそこまで美沙子に言わずにさ~」派になったせいで、きみのクソみたいなわがままにどれだけつき合わされたことか。


 ただ、クソみたいなわがままも言わなくなってしまった今ではあれが少し懐かしくもあるけれど。





 拓也が死んですぐは、かわいそうだと思った。

 でも何年経っても、拓也を忘れられないきみはバカだと思った。

 一番綺麗な自分でいれる時代を、悲しみに暮れて過ごすきみは本当に本当にバカだと思った。

 きみと結婚せずに大規模コスプレパーティーの開催だけでとどめておいた拓也の気持ちを汲まないきみは、本当に本当に本当にバカだ。俺は、そんなバカなきみの事が好きじゃない。




 たとえ後書きといえども、拓也の書いた手紙を一言一句丁寧に公開するつもりはない。

 だからなんとなく、さらっとそれとなく紹介しておく。実は俺もいまだにあの手紙を見るとちょっと涙が止まらなくなるから。



 拓也は、大層ロマンチックな言葉で美沙子の今後の幸せを願ってた。あと、何度も何度もきみの人生の一部を奪ってしまったことを悔いていた。

 俺の手紙にも書いてるくらいなんだから、きみももう知ってるに決まってるけど。 

 だからこそ、俺はきみの事が好きじゃない。




 拓也のロマンチックレターから引用する。ここから先は俺の言葉じゃないからそこの所は注意。





 美沙子には、たくさん辛い思いをさせた。

 でも、俺と過ごした時間なんて長い人生で見ればほんの少しの時間でしかない。

 だからこそこれからの人生は、本当に幸せな人生を送ってほしい。





 ほんとにさ。俺がロマンチックレター講座の赤ペン先生だったら花丸100点あげてる文章だよ、これ。

 なのに、きみってやつは本当に。




 この数年間、きみが何度も何度も涙を流したことは俺が一番知っている。

 私は拓也を忘れたくない、なんて言葉も何度も何度も聞いている。

 前に進もうとしても進めなくて。どうしようもなくて、苦しくて泣く事しかできなくて。

 今回は大丈夫かも、なんて言ってる数日後には俺の車の助手席で号泣していたり。

 俺はいつだってそんなバカなきみを見てきた。

 そしてそんなバカなきみに何かをするわけでもなく、ただ黙って話を聞いていた。



 ここまで新しい人生を歩まないきみのdis後書きを書いておきながらカミングアウトもおかしいが、僕は美沙子を世界一番幸せにできるのはどう考えても拓也しかいないと思う。

 拓也は、本当にいいやつだったよ。あいつ以上の人間はいないと、本気で心の底から思うよ。



 きみは世界で一番自分を幸せにしてくれるであろう人を失った。

 同じレベルの人間を求めるなんてやめたほうがいい。だからこそきみは、妥協という二文字を覚えるべきだ。



 また誰かを紹介してやってもいいよ。焼肉をおごってくれるなら。




 拓也大先生は、ここまでの展開を見越してかずいぶん前に妥協案を提案してくれてたけどね。

 拓也大先生のロマンチックレターの最後になんて書いてあった文だけどさ。



 八尋、その時は美沙子をよろしく。



 昔あった映画のタイトルに寄せてる所も、ロマンチックレター講座赤ペン先生が喜びそうな内容ではある。俺はこの文章をはじめに読んだときふざけんなよ。って思ったけれど。いろんな意味で。



 俺はきみを見ていると胸がとても痛くなる。

 はじめは、出口のない暗いトンネルの中に閉じ込められた人を見ているようで。

 いまは、違う意味で。




 何百回でも言うけど、きみを世界一幸せにできるのは拓也に違いない。

 何百回でも言うけど、俺は多分きみより早く死ぬ。




 この小説っぽい何かを書き上げるのに、かなり時間がかかってしまってごめん。

 あとこの後書きにかなり迷っていて、渡すのに時間がかかってしまってごめん。



 それじゃあ、ここから先の言葉は目の前に座っている俺が言うはずなので顔をあげてください。

 もし、目の前に座っている俺が泣いていて、何も言えずにいたらもう一度視線をこの後書きっぽい何かに戻してください。





 



 美沙子がこれを読んでるってことは、俺が泣いてるって事だと。

 それじゃあ。




 ずいぶん長くなってごめん。

 最後は端的に書いておく。

 拓也が死んでから今までも、そしてこれからも

 俺はずっときみの傍にいる。



 このままの関係でもいい。

 それ以上でも、以下でもなんでもいい。

 俺はずっと美沙子の傍にいる。

 これからの人生で、どんな時もずっと。


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