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勇者の復讐  作者: にけ
プロローグ
22/84

懐かしく感じた顔

少しずつ大事にしていたものが壊されている気持ちだった。団長は突然殺されマリアの様子も心配だった。組織も崩壊に向かっている、ミハイルはそんな気がしてならなかった。

 

通勤、通学のピークを過ぎ、警察官のいない東マルミス地区を特務警察がいないか警戒しながら歩いていた。向かう先は東アムサーラ地区だった。

 

まさかこんなすぐここに戻ってくるとは思っていなかった。おそらくニールの考えなのだろう。頭の中で最後に会った日から数えてみた。一週間は会っていない。しかしそれ以上にまだ二十歳にもならないあの少年のあどけない顔と頬に残るそばかすに懐かしさえ感じた。外見とは不釣合いのシャープな頭脳に幾度も助けられた。

 

東マルミス地区に入り手紙で書かれてあった場所を探した。ごちゃごちゃと迷路のように入り組んだこの地区を探すにかなりてこずるだろう。赤茶けたレンガ造りの二階建てアパート。東マルミス地区としては普通くらいだ。部屋は全部で六室。周囲のアパートも同じような建物で変な一体感があるように感じた。

 

ミハイルはアパートの階段を昇りミールがいる部屋へと歩いた。内部は暗く日の当たらない監獄のような秘密基地のようなアパート。そして鉄製の扉。ここなら強引にけり破って入ってくるような奴はいないだろう。

 

103号室の前で止まり紙に書いてあったことを思い出した。 ドアのノックを五回したあと、少し間をおいた後、四回、さらに一回間を置き叩いた。すると鉄製の扉は魔法がかかったかのようにゆっくりと開いた。扉が三割程度開いたところでニールが顔を出しささやいた。


「早く入ってください、兄貴」

 ミハイルは素早く部屋に入り込んだ。するとニールの片手に剣を握り締めていた。ミハイルの視線の先に気づいたニールは申し訳なさそうに頭をかきながら言った。


「念のためですよ。兄貴。どうぞ汚いところですが」

 窓一つない部屋はまさに牢屋といっても差し支えないほどの広さだった。粗末な椅子が数脚とテーブル。何年も使用していなさそうな暖炉。必要最低限のものしかない。つい最近ここに来たという感じだった。

 

 ニールは握っていた剣を鞘に戻しテーブルに置いた後、ミハイルに椅子を勧めた。

「聞きたいことがある」

 ミハイルは椅子に座り開口した。「今、暁の稲妻はどうなっているんだ」

 

 ニールはミハイルの向かいに座り少し沈黙した後、口重く話し始めた。

「兄貴がいなくなってから団長の死体が発見されました。すぐにミハイルの兄貴が団長を殺ったとの報が出回りました。兄貴が行方不明だったから余計だったのだと思います。まっさきに飛びついたのがカルサスの兄貴だったんです。いえ、もしかしたら、カルサスの兄貴が扇動したのかもしれません。カルサス派は団長の仇として俺たちミハイル派の粛清にとりかかりました。カルサス派に寝返ったのもいますが残っているのは俺を含めた数人です」

 ニールは悔しそうに下をうつむき両の手を強く握り締めていた。「兄貴……。兄貴は本当に団長を殺してはないんですよね」


「当然だ。そもそも俺が団長を殺す理由がない。団長とは義兄弟の杯をもらってるんだ」

「そう、ですよね」

 

 粗末な椅子の背にもたれかかり天井を見た。黒い玉模様がいくつもついている。真っ白の壁は薄く黒がかりっていた。

 窓から外を見ると白いキャンバスに水色の絵の具を塗りつぶしたかのような見事なくらいの晴天だった。


「それとシェンの兄貴ですがまだ何も行動に移していないかと思われます」

「あの性格の悪いシェンだ、きっと何かして策を練っているに違いない」

 常に笑顔だが狡猾で腹の中で何を考えているか分からない。


「兄貴がいなくなってすぐに派閥のメンバー集まったんです。しかし一人だけ来なかったのがいるんです」

 ミハイルは視線をニールに移した。  


「ピエール・ディノスです。集まる前にカルサス派に殺られてしまったのかもしれません。念のため耳に入れておいたほうかと――。もしくは、ピエールがカルサス派に寝返ったのかもしれません。不確定ですが」


「ピエール・ディノス……。ピエール・ディノス……」

 ミハイルは二度三度つぶやいたが、いまいちどんな男だったのか記憶にない。眉間にしわをよせ、首をかしげているニールが口を開いた。


「【暁の稲妻】に入隊してまだ数ヶ月なんです。兄貴が会ったのは数ヶ月前入ってすぐなんで覚えていないのも無理はありません」

 突然ドアが叩かれミハイルとニールは身を強張らせた。


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