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大好きな人。  作者: 薄桜
9/9

始まる時間

9話目です。


ではどうぞ。

公園に着くと葵姉は既に来ていた。

かなり広い公園なのに、具体的な場所なんか指定されていなかったので、着いてから探す事になるのかなと考えていたのだけれど、その心配は必要無かった。

葵姉はアーチをくぐったすぐ先にいて、何故か腕を組んで目を閉じ・・・何かを考えているらしい。

「5分前に着くように来たのに、葵姉早いね。」

「え、も・・・もう来たの!?」

なんだかとても慌てていて少しおかしくて、その仕草がかわいかったが、公園に立つ時計に目を向けた葵姉は、理不尽な文句を言い出した。

「もう、まだ早いじゃない、何で来たのよ!?」

「何でって呼ばれたから。そんな事で怒られてもな・・・待たせても悪いからと思って早く来たんだけど。」

葵姉は顔を赤らめ、ばつが悪そうに黙り込む。

「で、何の覚悟をしたらいいのか分かんなかったんだけど?・・・歯を食いしばって、しっかり立ってろ・・・とか?」

とりあえず悪い方の予測の1つを冗談っぽく口にした。別に殴って気が済むのならそれで構わない。それくらいで済むのならいくらでも殴られてやる。

僕は、嫌われて会えなくなるのが一番辛い。それだけは絶対受け入れられない。

「何それ、いつの時代よ?」

葵姉は吹き出して、何となくいつもの姿を取り戻したような気がする。入り過ぎていた力が抜けて自然体・・・って言うのかな? いつもの穏やかな感じが戻ってきた。

「あれ? 僕怒られるんだとばかり思ってたんだけど、違うの?」

そう、大半の予想はそんなものばかりだ。怒っている理由には心当たりが無いけれど、きっとどこかで怒らせたのだろうと、そこから考える事を始めていた。

「何で私が聡太に怒らなきゃいけないの?」

「さぁ、僕にも思い当たるふしは無いんだけど。」

「・・・私、怒ってないし」

葵姉は憮然として顔を背け、僕は少し安堵した。

「じゃあ、何で避けてたの?」

やっぱり分からないままの答えを彼女に促すと、消え入りそうな声が耳に届いた。

「・・・恥ずかしかったの。」

「え、足を踏み外したのそんなにショックだった? 僕は見ちゃいけないもの見ちゃったって事?」

「そっちじゃなくて!」

「じゃあ何!?」

そう全力で否定されると、不安でいっぱいいっぱいな僕は、声に険しいものが混じってしまい、葵姉を少し怯ませてしまった。

しまったと思った所で、もう取り返せない。

「・・・いつの間にそんなに大きくなってんのよ。」

再び消え入りそうな声で紡がれた言葉に、僕は困惑した。

「は? そりゃあ時間は過ぎてくもんだし、ずっとちっちゃいまんまって人は・・・」

「あぁ、もう!」

僕の困惑からくる正論を、途中で切りズカズカと近付いてくる。

「って、やっぱり怒ってる?」

「怒ってない!!」

言葉とは裏腹な表情のままどんどん近付いて来て、止まらない。

やっぱり殴るんじゃないかと、思わず目を瞑ると温かく柔らかいものに包まれた。

「葵姉?」

驚いて目を開けると、首に手を回されて抱きつかれていた。

・・・やっぱり訳が分からない。


直接肌を通して伝わる温かさ、触れる体の柔らかさ、そしてどこか甘い香りに頭が痺れ、益々混乱する。

思わず抱き返したくなる両手と本能を何とか(こら)え、まずはこの状況を整理しなければならない。

「・・・えーと、質問して良いかな?」

「うん。」

僅かに頷く葵姉は、こんなに小さかったっけ? と驚いた。

もちろん性差を考えれば当然なのだが、葵姉は僕の中でずっと大きな存在で・・・。

その彼女の背を抜いたのはいつだったか、はっきりとは覚えてないが、結構前の事だ。いつの間にか抜いていた背はまたさらに差が開いていて、今は20cm近くはありそうだ。

「・・・今、抱きついてるよね?」

「うん。」

「・・・あのさ、僕ドキドキするんだけど?」

「・・・うん、私も。」

肯定の意思は示されるものの、やはりその理由は示されない。

「・・・何で抱きついてるの?」

「ばか。」

遠回しに聞く事を止め、直接的な質問をすると、首に回された腕に力が加えられ少し痛い。しかしやはり、明確な答えは返って来ない。

「・・・えーと。」

「察してよ、ばか。」

しっかりと抱きつかれた状態では、真横にある彼女の顔を窺い知る事はできないけれど、でもきっと・・・僕の希望の予測が叶ったと考えていいのだろう。

ごく低い可能性として考えていた、理想の予測だ。

僕はゆっくりと彼女の背に手を回し、力を込めた。

「これで正解?」

「・・・うん。」

僕の恐る恐るの質問に、微かな嬉しそうな声で答えてくれた。



「ところでさ、さっきから「うん」とか「ばか」とかしか聞いてないんだけど・・・言いたい事を纏めて来たんじゃないの?」

僕は耳元で囁いてみた。

この感触は忘れようが無いけど、やっぱりきちんと言葉で聞かないと不安が残る。

それだけこの会えなかった時間はきつかった。

同じ想いを抱えてるなんて考えもせずに、ただただ不安だけを募らせて、段々病んでいくような気がしていた。

だから言葉はとても大切で、きちんと伝えていかなければならないと思う。

「・・・ずいぶん意地悪ね、聡太。」

「そう? 言葉で聞きたいだけだよ。さぁどうぞ。」

葵姉を促すと、耳元で甘美な言葉を囁かれた。

「・・・好き。多分ずっと前から。」

「うん、僕も。」

「聡太ずるい・・・」

思わず肩から顔を離して抗議してきた瞬間にキスをした。

唇を離し、真っ赤になっていた葵姉に、

「僕も、ずっと前から好きだったよ。」

そうきちんと伝えると、

「・・・よかった。」

と、そう微かな声がして涙がこぼれるのを見た。


その時ようやく言葉の意味が分かった。

『パズルのピースは他のじゃ駄目。決まった形でないと嵌まらない。』

正直、途中からそれ所じゃなくて美晴さんの言葉すら忘れていたけど、不意に思い出して納得した。

僕達はお互いに、お互いからの言葉を求めあっていた。

だから、他の誰からの告白にも応える事はなく、よって心配する必要も無い・・・と。

葵姉の言葉が僕の中に嵌ったように、僕の言葉が葵姉の中で嵌った。


さすが悪魔だ。

人の心の中までお見通しで、あえて惑わせる言葉を用いる所がまさしくそれだ。

あの人にはどうやっても敵わないな・・・


葵姉の涙を拭いながら、これからの事に思いを馳せた。

とりあえず今日は、まだお昼にもなっていない。

僕達の関係が変わった最初の日。

「じゃぁまたね」って、ここで葵姉と別れる気なんかもちろん無い。

今迄のように、少し言葉を交わすくらいでは、もう満足できないから。


これからの時間を思うと、僕は嬉しくて嬉しくて仕方がない。


読んで頂きありがとうございました。

楽しんで頂けたなら、幸せに思います。


最初に書いた時は、キャラが今ほど固まってなかったので、

今回書き直してみて、聡太くんは随分とリアリストで、計算高くて、理屈っぽくて、臆病だなと再発見。

でも、大きく逸脱してはいない筈なので、最初からそんなイメージだったのかな?


ほかで使った台詞は、変えないようにしようと思ったんですが。どうしても気に入らない所を、1文字だけ変えました。

被って無い所は、内容変えずに表記を変えた所多数です。

まったく触らずは、さすがにちょっと無理でした。


聡太の妹の理佐が、美晴と組んで何やってたかは、「大人になるまでに。」の最終話をごらん下さい。

そこに書いてあります。


では、次もがんばります。

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