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「平民は愛されない」はずなのに、雲の上の第一王子様から溺愛されています!?  作者: 東明時裕夜


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第一話 王子様との出会い

 私の名前はレレナ・アティリア。今年で17歳になる。

 特徴といえば、少し長めの桃色の髪くらい。仕事中もお出かけの時も、いつも邪魔にならないよう飾り気のない一本の紐で後ろで一つに束ねている。黄色い目をしている、どこにでもいるただの平民の娘だ。


 今着ているのも、洗いざらしの簡素なブラウスに、すっかり着慣れた茶色のエプロンという、いかにも平民らしい地味な仕事着。自分自身では特別可愛いと思ったことなんてあまりないのだけれど、愛想よく立ち回っているせいか、お店のお客さんたちからはよく「可愛い」と声をかけられる。


 両親はここから遠く離れたのどかな村に住んでおり、私は今、王都の外れにある大衆レストランで給仕として働いている。

 特別な才能もなければ、裕福でもない。何者でもない「ただの人」である私は今、絶対に叶うはずのない恋をしている。


 そのお相手は、このアルスリーア王国の第一王子、ナセド・アルスリーア殿下。

 雲の上の存在である王族に、なぜただの町娘が恋をしてしまったのか?


 それは、今から一カ月前の出来事に遡る。

 その日、私はいつも通り、レストランで給仕の仕事に追われていた。王都の中心部からは外れているとはいえ、安くてボリュームのある料理が自慢のこの店は、いつも常連客で賑わっている。


 お皿がぶつかる音や、お客さんたちの賑やかな笑い声が響く店内。私は出来立ての料理をトレイに乗せ、テーブルを回っていた。


「お姉さん、今日もかわいいねえ」


 声をかけてきたのは、よくこの店にやって来る中年の男性客だった。酒が入っているのか、顔が少し赤い。


「……はい、ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」


 仕事柄、こういうからかいには慣れている。私は貼り付けたような愛想笑いを浮かべてその場を離れようとした。

 しかし、そのおじさんはニヤニヤと平気な顔をしながら、私の腰のあたりにさりげなく手を回してきたのだ。


 ゾワリと背筋に嫌な感覚が走る。


「あの、困ります。やめてください」


 キッパリと言葉に出して拒絶したものの、男は手を離そうとしない。


「いいじゃないの、少し減るもんでもなし」


 周囲のお客さんは自分の食事に夢中で、誰も私のピンチに気づいていない。振り払おうにも力が強く、私は恐怖と諦めがないまぜになった感情で俯きかけた。

 その時だった。


「――おい。その子が困っているだろう。手を離せ」


 周囲の喧騒を切り裂くように、低く、けれど絶対的な威厳を持った冷たい声が響いた。


「ひぃっ……!」


 ただならぬ気配に圧倒された男は、慌てて手を離すと、逃げるように店を出ていった。

 私も弾かれたように声の主を振り返った。


「えっ……」


 そこに立っていたのは、目立たない灰色の外套マントを羽織った背の高い人物だった。


 彼は邪魔そうにため息をつくと、目深に被っていたフードに手をかけ、ファサリと後ろへ脱ぎ去った。

 フードの下から現れたのは、この場にはあまりにも不釣り合いな、光を閉じ込めたような美しい金髪。


 そして、射抜かれるような、凛々しく深い青の瞳。

 地味な外套の隙間から覗くのは、緑と青、そして純白を基調とした、一目で王族とわかるような気高く洗練された服装だった。


 その青年は、お祭りのパレードの遠目からでも誰もが目を奪われるという、間違いなくこの国の第一王子、ナセド殿下その人だった。


(な、なんでこの国の王子様が、こんな王都外れの庶民のレストランに!?)


 店内の空気が一瞬にして凍りつき、誰もが信じられないものを見るような目で彼を見つめている。

 そういえば、ナセド王子の噂を耳にしたことがある。とても真面目な性格で、女性にはあまり興味を示さないらしい。その代わり、頻繁に城を出ては自ら各地の視察に赴く姿がよく見かけられているのだとか。


 そんな私たちの戸惑いを受け、彼は「……お忍びの視察のつもりだったが、目立ってしまったな」と小さく呟くと、涼しい顔でこう言い放った。


「気にするな。ただの暇つぶしだ」


(いやいやいや! 真面目な視察中に、ただの暇つぶしでこんな辺鄙へんぴな場所にある大衆食堂に来るわけないでしょ、普通!)


 心の中で全力でツッコミを入れたものの、声には出せない。

 呆然とする私を、彼――ナセド王子は静かに見つめ返した。


 その青い瞳に真っ直ぐ見つめられた瞬間、胸の奥でトクン、と大きな音がした。


(……でも、すっごくかっこいい)


 見惚れている場合じゃない。私は慌てて居住まいを正し、深く頭を下げた。


「あ、あのっ……! 助けていただいて、本当にありがとうございました」

「……お安い御用だ」


 彼は短くそう答えると、ふっと口角を上げ、少しだけ優しげな表情を見せた。真面目で冷たそうだと思っていた彼の、思いがけない柔らかい表情。

 その瞬間の出来事だ。

 ただの平民である私が、絶対に手の届かないこの国の王子様に、どうしようもなく恋に落ちてしまったのは――。

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