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吸血鬼ですが、何か? 第3部 訓練編  作者: とみなが けい
23/23

俺達は第1回の訓練を終了して屋敷を後にする…はなちゃんもマンションに付いて来るそうだ…

俺達は昨日と同じく東西南北の方角や現在位置を時々四郎に質問されながら屋敷の敷地と共に購入予定の親族の敷地の境界線まで歩いて行った。

その場所は敷地全体の一番奥地、小高い山々に囲まれて音が敷地外に聞こえにくい場所だった。

小銃と擲弾筒の試射には絶好の場所だろう。

四郎はまた太い木の幹の皮を剥ぎ的を作って俺達の弓の練習を始めた。


「あ、四郎。」

「何だ真鈴?」

「この弓矢もやっぱり…名前がついてるんだよね?」

「勿論だ、真鈴が持っているのはホーククロー、鷹の爪。

 彩斗が持っているのはイーグルクロー、鷲の爪だ。」

「え~私のは鷹の爪かぁ…唐辛子みたいで嫌だなぁ~」


真鈴はそう言って俺の鷲の爪、イーグルクローを見た。

俺はため息をついてイーグルクローを真鈴に差し出した。


「やったぁ!彩斗ありがとう。」

「彩斗は真鈴より10才もお兄ちゃんだからな。

 気持ちよく譲ってやれ。」


そうなのだ、真鈴は俺よりも10歳も年下だ。

しかし、時々俺より10歳年上のようなしっかりした事も言う。

四郎は年齢的に俺より3歳年上の35歳だが、見た目は四郎の方が若いにも関わらず話していると世慣れた初老の男のような風格を感じる。

俺はこの中でもやっぱり未熟なのかな?と寂しく感じながらも弓の練習に集中した。


今日は1時間30分程、四郎に姿勢や弦を放つタイミング、狙うポイントを教えてもらいながら黙々と訓練をした。

俺も真鈴も的の中心に5本中4本は辛うじて当てられるようになった。


「よし、真鈴も彩斗も呑み込みが早いな。

 だがこれは静止した的に過ぎない。

 次からはもう少し実戦的な練習をしよう。

 よし、次はこれを持ってわれに付いて来るんだ。」


四郎はリュックの中から双眼鏡を出して俺と真鈴に渡すと自分は九九式小銃と五発クリップに収まった弾丸を数個ポケットに入れると的を背に歩きだした。

俺達は四郎についていった。


「この辺りだな。

 的から300ヤード、ええと…」

「273メートルね。」

「真鈴は暗算が早いな、それは一種の才能だぞ。」


四郎が感心して言い、真鈴がえへへと舌を出した。


「よし、君らは双眼鏡であの的を見ていてくれ。」


四郎に言われて俺は遠くに見える的に向けて双眼鏡を覗き込んだが、なかなかピントが合わない。

もたもたしている俺に真鈴が声を掛けた。


「彩斗、視度調整ちゃんとした?

 この双眼鏡はCF方式だから視度調整しないとね。」

「え?CF?」

「センターフォーカス、中央繰出し式という意味よ。

 見ている対象の位置が変わっても真ん中のリングを回すだけでピントを合わせられる方式の双眼鏡よ。

 でも、使う前に視度の調整をしないと駄目なの。」


俺は真鈴に教えてもらいながら双眼鏡の調整をした。


「四郎、待たせてごめん、撃って良いよ。」

「よし、われ一人でも小銃の調整は出来るが君らには昨日教えた時計の針方式で弾がどこに当たったか教えてもらうとしよう。

 これはスポッター、観測手の訓練になるからしっかりわれに教えてくれよ。」


四郎はそういうと足で周りの草を倒してうつ伏せになり、小銃のボルトを引いて弾のクリップを押し込んでボルトを前進させた。


「おお、もうこれで撃てるのか、凄い時代になったものだ。」


銃身の口から火薬と弾を込める前装式の銃しか知らない四郎が感嘆の声を出した。


「それでは撃つぞ。」


四郎が撃つと的の4時方向に8センチほど離れて当たった。


「四郎、4時の方向に3インチ位ずれたね。」


真鈴が双眼鏡を覗き込みながら言った。


「初弾でこの距離で…なかなか当たる物だな。」


四郎は続けて撃った。

俺と真鈴でずれた方位と距離を言い、四郎はその都度狙いを調整しながら撃った。

4発目はほぼ的の真ん中に当たった。

四郎がまたクリップを押し込んで5発撃った。

全弾が的の中心に命中した。


「よし、こんな所かな?

 やや反動が強いが充分な命中精度を持っているし、この弾なら大きな熊でも1発で即死させることが可能だな、威力も充分だ。

 的の所に戻ろう。

 あとは、このピストルだな。」


四郎は南部式小型拳銃をポケットから出して的に向かって歩いて行った。

的にした木から30メートルくらいのところまで行くと四郎はピストルのボルトを引いて装填すると歩きながら木に狙いをつけて1発撃った。

軽いが鋭い音が響き、弾は木の幹には当たったが的の中心から3時の方向に少し外れた。

四郎は歩きながらもう1発撃つと的の外れに当たった。

四郎は歩きながら無造作にピストルを撃ち続けた。

ピストルの弾は全て的の中心に当たった。

四郎は立ち止り、ピストルの弾を撃ち尽くした事を確認して弾倉を抜いてポケットにしまった。


「うむ、なかなか良いな、反動も軽い。」

「でも四郎、弾の威力は弱いよね。」

「確かにこのピストルはわれが持っているピストルと違って一撃でノックアウトと言う訳にはいかないな。」


四郎はそう言いながら木に近づきナイフを抜くと的をほじくってピストルの弾を取り出した。


「だが、悪鬼にまったく効果が無い訳では無いぞ。

 この大きさの弾であれば悪鬼のある程度体内深くにとどまる、朝の手榴弾の破片と違って体が自然に外に押し出すには大きすぎるのだ。

 だから異物として弾が体内にあるうちは傷の修復が出来なくなるし出血も止まらない。

 これを体から取り出すには爪や牙で傷口をほじくり出す必要があるぞ。

 今くらいの距離から連続して撃ち込めば悪鬼の動きを鈍らせたり悪鬼が傷を気にして隙が生じるだろうな。

 そこを日本刀など斬撃力が高い物で攻撃すれば勝機を掴めるな。」

「なるほど、いくつかの武器を工夫して攻撃すれば私達にもチャンスがあると言う事ね。」

「真鈴、その通りだ。

 われらが放った物が悪鬼の体内に留まる事は大事なんだ。

 実戦用の矢にも容易に抜けないように返しが付いているだろう?」

「そうか、その通りだね。」


俺が言うと四郎は大きく頷いた。


「彩斗、だからあまり心配はするなよ。

 われらでも悪鬼相手の戦いに勝つチャンスはいくらでもあるぞ。

 次に来た時は君らにもこの銃の撃ち方を教えよう。

 勿論弓の練習も進めながらな。」

「うん、判ったよ四郎。」

「私も希望が出て来たわ、頑張る。」

「よし、希望はわれらの重要な武器だからな。

 ところでどうする?

 ここで昼食をとるか、もう少し頑張って屋敷に戻って食事にするか。」

「屋敷に戻ろうか?

 食材も使い切りたいよね。」

「私も屋敷に戻ってゆっくり食事をしたいわ。

 今日マンションに帰るんでしょ?」

「よし、そうしよう。

 荷物を持て。

 出発するぞ。」


俺達はリュックと弓矢を担いで帰路に就いた。

木の的から歩いて行くと四郎が急に立ち止まった。


「おお、これを試すのを忘れていたな。」


四郎がリュックに括り付けた擲弾筒を叩いた。


「ここならあまり敷地の外に音も漏れないと思うけどね。」


四郎が的にした木を振り向いた。


「あの木を狙おう。

 今日の犠牲はあの木一本で充分だ。」


四郎がリュックを下ろし、擲弾筒を取り出すと九十一式手榴弾を筒から入れて底板を地面に押し付けた。


「大体200メートル、218ヤードという所ね。」


真鈴が木を見て行った。


「四郎、今装填した弾だと最大の射程だね。」

「うむ、判った。

 確か、かなりの放物線を描いて飛ぶとの事だな。」

「そうだね、狙うのは難しいと思う。」

「やってみよう。」


四郎が腹ばいになって木に狙いをつけた。

ポン!と軽い音がして九一式手榴弾が放物線を書いて飛んで行った。

木の数メートル手前で着弾、爆発して細い木の枝や木の葉が空に舞い散った。


「うむ、もう少し先かな?

 彩斗、真鈴、音は大丈夫かな?」

「距離があれば打ち上げ花火みたいな音だから大丈夫だと思うわ。」

「よし。」


四郎が手榴弾を装填してもう1発撃つと木の根元辺りに着弾して、木はゆっくりと根元から倒れた。


四郎は立ち上がると倒れた木にこうべを垂れて手を合わせた。


「的にして申し訳ない。」


俺達も四郎につられて倒れた木に向かって手を合わせた。


「だけど、やっぱり威力はあるね。」

「そうね、悪鬼が何匹か固まっていたら結構効果があると思うわ。」

「そうだな、だが、動く的に当てるのはかなり練習しないとな。」

「四郎でも?」

「当たり前だ、われはこの時代の武器にまだ慣れていないからな。」


そう言いながらも四郎は小銃ピストルなど俺達から見たら凄い達人に見えた。


「俺達も四郎位武器を使えるようになれば良いな。」

「彩斗、効果的に練習すれば希望はあるぞ。」

「うん、そうだね!

 希望は大事だな!」

「希望は凄く大事よ!」


俺達は笑いあって屋敷に戻った。


屋敷に戻ると安全の為に武器庫の大量の弾薬を屋根裏に通じる階段、地下に通じる階段を下りた場所に分けて置いた。

武器庫に残っていた擲弾筒の弾薬箱も3個ほどになった。


「ん?何か書類があるぞ。」


四郎が残った弾薬箱の隙間から顔を覗かせている封筒を引き出した。

中を見ると長い年月で色褪せた古い書類がぎっしり入っていた。


「何だろう?

 マンションに帰ったら調べてみるよ。」


俺は四郎から封筒を受け取った。


昼食は四郎が残ったチキンや野菜を使ったチキンジャンバラヤとサラダ、朝のスープの残りを温めなおしたものが出た。


「やっぱり四郎が作った料理は美味しいね~!」


真鈴がとろけそうな顔で料理を食べている。


「そうか、それは良かった。

 今度はキャンプをして素朴な料理でも作るか。」

「それ良いね!

 せっかくキャンプ用具持ってきたのに使わずじまいだったからね。」

「賛成!今度はキャンプもしようね!

 はなちゃんも一緒にキャンプしようね。」


真鈴は隣の椅子に座らせているはなちゃんの頭を撫でた。


「わらわはカマワンゾ。」


「ところで真鈴、はなちゃんをどうするのかな?

 またここに来るのは1週間以上かかるかも知れないぞ。」


真鈴は考え込んでしまった。


「そうね~はなちゃんどうしたい?」

「ちかの市蔵もテンにのぼったようだし、わらわもひさしぶりにミヤコをみたい。

 みたいみたいみたい、わらわもツレテ行け。」


真鈴が笑顔で俺と四郎を見た。


「だってさ~!

 はなちゃんもマンションに連れてって良いよね~?」

「まぁ、はなちゃんが良ければ。」

「われも問題無いと思うぞ。

 われが外に出ている時もはなちゃんが彩斗や真鈴を守ってくれるかも知れないしな。」

「やった~!

 はなちゃんも一緒にマンション行こうね~!」

「マンションマンション!ケケケケケケ!」


はなちゃんは首をかくかくと動かしながら喜んでいるようだった。


…少し不気味だった。


「彩斗、ナニカ?」


俺の心を読み取ったのか、はなちゃんが俺の方に顔を向けて少し白目になった。


「いや、何でもないよ。」


食事を終えて俺達はシャワーを浴びて着替え、ランドクルーザーからキャンプ用具などを下ろし、食材の残りなどを積み込んだ。

そして四郎が武器庫から日本刀を2振り、手槍を3条だけ取り出して車に積み込んだ。


「彩斗、危ない物を積んでいるから運転は慎重にな。」

「うん、気を付けるよ。」


そして俺達は秘密の出入り口が判らないように2階主寝室のベッド、屋根裏の家具、地下の棚などを元に戻した。

それからランドクルーザーに四郎が助手席、真鈴とはなちゃんが後席に乗って、見送りに窓から手を振っている屋根裏の死霊達に手を振って屋敷を後にした。






第3部終了



次回第4部 人間編

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