七百二話
家に帰宅すると、玄関先にてソラとサキさんが俺達の事を待ち構えていた。
「やぁ、戻って来たって話を聞いたから顔を見に来たんだけど」
「〝美咲どうしたの? 何か物凄く疲れている〟」
復活したとはいえ、美咲さんのダメージは抜けてはいない。なので、当然だけどその疲労は顔に出ている。
「あはは……少し大変だったから」
「クェェ」
思い出したくもないのだろう。遠い目をしながら「大変だった」と告げる美咲さんと彼女に抱えられているペンギン。
そんな一人と一匹を見て、ソラ達の頭の上にはクエッションマークが一杯だ。ただまぁ、それもそうだよな。誰が一体、ショゴスなんてバケモノと遭遇したなんて想像が出来るだろうか。
他の探索者ならまだしも、俺達は共闘をした仲だ。それも魔王を相手に。であれば、多少の戦闘で此処まで疲労するなどと思うはずもない。
「もしかして、〝堅殻イカ〟レベルの存在が大量に居た?」
そう問うて来たのはソラだ。
現状、俺達が疲労するレベルの敵と考えると、大樹防衛戦で見たような〝堅殻イカ〟レベルが大量に押し寄せるパターン。
そう想像するのが一番単純だ。何せ、ここ最近に戦った相手な訳だし、俺達が向かったダンジョンが湖のダンジョンと言う事を考えれば、その発想になるのはある意味当然と言える。
確かに、クラーケン達の事だけを考えれば、その問いは当たらずとも遠からずと言ったものだっただろう。
ただ、「俺達が接触したのは……」と口に出しかけ、其処で俺はふと考え直す。
何故なら、美咲さんが居る場所で〝ショゴス〟と言うワードを言って良いのだろうか? 彼女はペンギンのお陰と言うのもあるが、漸く錯乱状態から復活した。だと言うのに、そのワードを耳にしたら、フラッシュバックでも起こしてまた錯乱するのではないだろうか。
協会内の話だけど、復活した後の美咲さんは抱えているペンギンに対して必死に声を掛けていたからな。だから、俺や品川さんの会話は耳に入っていなかったのだと思う。
多分〝ショゴス〟というワードは、美咲さんが復活した後一度も出さなかったとは思うけど。
そう言う訳で、今の美咲さんは問題無く精神を維持したままなのだけど……正直、現状導火線に火が付きそうな爆弾の様な精神状態であるのは間違いないだろう。
「あー……とりあえずそう言った話は後にして貰うとして、まずは家に入らないか? お茶でも飲みながら縁側で駄弁るのが良いと思う」
「確かにそうだね。戻って来たのに玄関先で立ったまま話しをするってのもね」
適当な理由をつけて、俺は話を先延ばしにする。
ただ、その先延ばし方法に関しても、全く狙いが無いという訳ではない。
狙いは単純。縁側にはもふもふパラダイスが待っている。そして、そのもふもふ達は間違いなく心を癒してくれる効果がある。
なので、美咲さんとペンギンを縁側へと連れて行った後、そのままもふもふ達の中へ投げ込む予定だ。
もふっとしたもふもふベッドに埋もれてしまえば、彼女は心地よい眠りに誘われるはず! そして、そうなれば、俺やソラ達の会話など耳に入ってこないだろう。うん、これぞ一石二鳥な良策だ。
お茶とお菓子を用意し、俺達は庭が見える縁側へ。
其処から見える光景と言えば、イオを筆頭としたネコモンスターにウサギモンスター。木にある巣箱からは風とその同類なトリモンスター達が顔を出している。
しかしここで予想外の事が起きた。
「ピュィ! ピュィィィィ!!」
「クェ!? クェクェ」
そう、風と美咲さんが抱えているペンギンが、何やら口論でもしているかのような状況になってしまった。
「えっと……これはどういった状況だ?」
「風ちゃんが「ママは僕の! その位置は誰にも譲らない!!」と幼さを発揮しているの。で、ペンギンさんが「ママ!? 種族違うよ」って言ってるの」
「あー……なるほど。風が嫉妬心を発揮したのか」
なんて事は無い。それは風による独占欲と言うもの。彼にとって美咲さんは、刷り込み効果もあって母親だと思っている部分があるし、今まで行動を共にして来たという自負がある。
なので、美咲さんの相棒と言えるモンスターは今まで風だけだった。しかしそこへ、ペンギンと言うモンスターが、その腕の中にすっぽりと埋まっているのだからさぁ大変。
ただそれなら、イオや双葉にこの庭に居るモンスターはどうなんだ? と言う話だが、彼等のマスターは俺か俺の妹達なので例外。
そしてペガサスの天ちゃんはと言うと……風にとって天ちゃんは、美咲さんの足と判断している処がある。と言うのも、美咲さんと大空を散歩する際、天ちゃんの協力が無いと出来ないからな。
「ただ、愛玩動物と言ったらあれだが、可愛がられるという意味だと自分が一番と言う位置だったからな」
「同じように可愛いモノで抱えられるサイズで言うなら、ペンギンさんは風ちゃんの天敵なの」
自分が一番美咲さんにとって可愛い仲魔なんだ! と、そう訴えている訳だ。何とも可愛い嫉妬心だろうか。
とは言え、これでは休まるどころか疲れてしまう話である。なのでここらで少し論点をずらすとしようか。
「風よ。お主にはそのペンギンが出来ない事が出来るだろう? さぁ! 今すぐ美咲さんの肩に乗るんだ。そして、美咲さんの頬に頬擦りをして可愛さをアピールするが良い」
「ピュ、ピュィィィィィ!?」
風は「我、天啓を得たり!」と言った感じで、直ぐに美咲さんの肩に飛び乗り、すりすりすりすりとその体を美咲さんの頬に擦り付け始めた。
よしよし、これで可愛いモノ同士が争うなんて事が無く、実にいい光景だ。
「美咲さんや。庭の所で他のもふもふ達も待ってるよ」
「え? あ、うん。ちょっと行ってくるね! あ、サキも一緒に行こう!」
「〝へ? あ、ちょっと!?〟」
サキさんの手を引っ張りもふもふの群れへと突撃する美咲さん。
ヒャー! と言った感じで攫われていくサキさんだが……一体どうやってあのボードあんな文字を……。
「とは言え、まぁ上手くいったな」
「物凄い誤魔化し方をしただけにしかみえないのだけど……」
「ま、可愛いモノ同士喧嘩はせずの方が良いだろう? 其処に美人二人がそろって実に良い絵になるじゃないか」
「……大量のもふもふに囲まれて、その美人の顔は全く見えないけどね」
あー……うん。猫達をベッドにしながら、うさぎの毛布。何だろう、凄くぐっすりと眠れそうな状況だな。
少しうらやましい処ではあるが、これで美咲さんとペンギンの精神回復に少しでもブーストが掛かるのではないだろうか。
とりあえず。少し予定外の事が起きたモノの、結果としては目的通りの状況になったな。
「さてと……そしたら、何故美咲さんが疲れていて、ペンギンが抱えられているかなんだけど」
サキさんも知りたいだろう内容だけど、彼女には後からソラに聞いてもらうとして、俺はソラに対して湖のダンジョンで起きた事を説明していく。
面白いぐらいソラの表情がコロコロと変わる。ソレを見ていて少し楽しい気分にはなるものの、起きた事を考えれば決して楽しいと言えるようなものではない。
「あー……うん。色々と状況の変化が激しいのは分かったけど、そっかぁ、最後の最後で〝ショゴス〟なんてバケモノが現れたのか」
「そういう事。有れと敵対はしない方が良いだろうからな……まぁ、本体を見なかったけど目玉と視線が交わってしまったからな」
「それはなんとも……ご愁傷様としか言いようがないかな」
「そうそう。異世界には〝ショゴス〟等の神話生物って居なかったのか?」
「クラーケンは戦ったけど、神話生物とは一度も相まみえた事なんて無かったかな」
なるほどな。それならソラ達にも〝ショゴス〟の対策なんて分からないか。
何もかも、異世界に有ったのと同じでは無いという事だな。まぁ、魔法自体何やら違うものになっているってソラも言っている。
モンスターもこっちの世界で、独自の進化をしていても可笑しくはないという事なのだろう。
「〝もふぅ!? うもれふぅぅぅぅ!!〟」
何やらサキさんが埋もれて大変な事になっているみたいだけど、ふと見えた表情が実に緩んでいて見せたらいけない顔になっていた。……気がする。
ま、美咲さんの事は一緒にもふ祭り状態のサキさんに任せるとして、俺はソラと一緒にお茶でも啜りながらまったりとさせて貰うとしますかね。
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