七百一話
映像は見せず、ショゴスの事はAIに文字に書き起こさせた物を提出しておく。
必死に考えた結果。これが一番良い方法だと判断したからだ。……実際、俺が口頭で説明したとしても抜けている部分とかもあるだろうからな。
そして、その文字情報を基にし、この湖のダンジョンをどう扱っていくかを考える訳なんだけども……。
「一応、実際に行った身としては入り口付近にて、ウツボを狩る程度で使うなら問題ないかと」
「奥にある鉱石を採掘するのは止めた方が良いと?」
「えぇ、下手に近づけば、色々な意味で戻って来れなくなる人が出ると思います」
肉体的に戻れない人物も居れば、精神的な意味で戻って来れない人も出て来るだろう。
ウォルと言う存在のお陰でノーダメージに近い俺が居るのだから、精霊契約者であれば可能性はあるのだけど……精霊の位が違う事を考慮すれば、何処までの人物が耐える事が出来るか不明だ。
そうである以上、下手に人を送る事はしない方が良いだろう。
俺はそう判断し、品川さんへ献策しておく。
正直な話。美咲さんやペンギン達は、本体を直視しなかったから助かったと思っているしな。
これ、もし直視していたらどうなったのだろうか? そもそも、美咲さんのレベルはかなり高いはずなんだよ。身体的にも精神的にも。その彼女が奴の脅威に対してレジスト出来なかった時点で……。
「魔王とも遣り合った美咲さんがこの状態ですから……高レベルな探索者とかそう言うのは関係ないかと」
「抱えているペンギンを見ても、人間やモンスターと言った区別も無いと言った感じね」
本気でやり合うならば、研究所が変態能力を発揮し、最高傑作と言えるガーディアンを作り上げる事だろうか。
ただ、ガーディアンのAIには元にになったモンスターの魔石を使っているからな……その魔石にもSANチェックが入るなんて可能性があれば、下手をすればそのガーディアンが暴れるだけの存在になり、人類の敵みたいな感じになるパターンもあり得る訳で。
「触れるな危険ってやつですかね」
「君は大丈夫だったのよね?」
「一応直接本体を目視しなかった事と〝ウォルの加護〟が有ったからですけどね」
今は上位精霊レベルに収まっているとはいえ、半分神の領域にその足を突っ込んだウォルの加護だ。
普通に考えても普通ではないと言える……うん、一体何を言っているんだと言いたくなるような言い方だけどな。それぐらい他の精霊とは違うという話。
「確か、白河君の家の裏にウォルちゃんを祀っている社があるのよね」
「ウォルと言うか、ウォルが持っていた神核とでも言えば良いんですかね? もしくは龍の魔石でしょうか」
俺達が人として生きる為にナーフされた時だけど、俺の場合はウォルの力に制限を掛けるという手段だった。
そしてその際、ウォルの力を削ぐ方法として取られたのが、ウォルの力を二つに分けるという方法だった。……と、其れは全てあの場に残っていた一柱がやってくれた訳だが。
力を分けられたウォル。その意思と精霊としての存在は俺と共に、龍の魔石を取り込んだ際に手に入れた物は意思のない玉に。
こうして分けられた事で、今は普通にウォルと共にいる事が出来、その力を全力で振るう事が出来るようになった。
そして、玉の方はと言うと、この力のお陰で魔王の侵略を阻止できたという事で、守り神として社を建てて祀っているという訳だ。
「それ、拝んだら加護でも貰えないかしら?」
「さ、さぁ……どうでしょうか? と言うよりも、そもそも社に近づく事が出来る人って限られていますから」
例え分けられたとはいえ、元はウォルの力だ。
その玉がある社に近づくことが出来るのは、ウォルから認められた人物だけである。そうでないと馬鹿が阿呆な事を考えて、玉を手に入れようなんて動く事もあり得るからな。
「ウォルちゃんに加護をくださいって祈るのも一苦労と言う事ね」
「いやいや、それで何とかなるなら、美咲さんはこの状態にならなかったと思いますよ?」
ウォルに一番近いのは間違いなく俺だ。ただ、その次にと言われると、常に俺と行動を共にしている美咲さんやイオ達モンスターズとなる。次点で家族に、最近行動を共にしているソラやサキ達だろうか。
ただ、一番共にいる美咲さんがこの状態だからな……いや、もしかしたらウォルが何とかしてくれたからこそ、この状態程度で収まっている可能性だってあるか。
「やっぱり下手に近づかない方が良いかと」
「そう……ね。残念だけど鉱石は諦めざる得ないわね」
ただ一つ懸念があるとすれば、ペンギンや人魚が何を考えているかだな。
彼等には何か目的が有り、その目的の為に俺達と水中へと潜っていたと思われる。思われるのだけど……その情報源となりえるペンギンの一匹が、現状美咲さんの腕の中で錯乱している訳で。
さて、どうやって話を聞きだすべきか。他のペンギンや人魚達はあの孤島に残ったままだしな。
何やら逃げ出そうとか考えてはいたみたいだけど、あのダンジョンからどうやって逃げ出すかが問題になる訳で。何せ、ダンジョンの外には水辺がある訳では無いからな、人魚が行動できずに干からびてしまう。
そして、その事を理解しているペンギン達は、人魚達を置いていく事が出来ず一緒に残っているという状態。
ただこれは、俺の予想なんだけどね。
とは言え、その予想は恐らく外れていないと思う。
何せペンギン達は空を飛ぶことが可能だ。当然だが、ダンジョンの周辺はその脳内に入っているだろうし、俺達がダンジョンから出る前も、ペンギンと人魚達で「どうするどうする?」と、困ったと言わんばかりの動きをしながら会話をしていた。
これは、此方で動いてあげるのが良いだろうか? ともクラーケンと戦った訳だしな。
「あー……そのですね。一つだけ思う事が有りまして」
「何かしら?」
「ショゴスの事をペンギンや人魚達も認識していまして、その彼等はダンジョンから逃げようと考えていると思うんですけど……」
と、俺がペンギンや人魚の事について会話をし始めた。その時! 美咲さんの抱いているペンギンの目がクワッ! と見開かれ。
「クエェェェ! クェ! グワァァァァァ!!」
何かを訴えるかのように叫ぶペンギン。
余りの剣幕さに俺と品川さんは「何事!?」と思いながらペンギンを注視し、そんなペンギンを抱えている美咲さんはと言うと……。
「え!? えっと……ああぁぁ。ここは? ってか、どうしたの!?」
ペンギンの叫びで正気を戻したのか、現状を確認しつつ、腕の中に居るペンギンに「大丈夫? 痛いの?」と声を掛けている。
「あー……そのなんだ。双葉何を言っているか分かるか?」
「んーっと「皆を如何にかして欲しい」って事を言っているの。きっとますたーがペンギンさんや人魚さん達が逃げるみたいな事を行ったから、それに反応したと思うの」
なるほど。これは何というか、ふと思いついて口に出したことだったけど、それが良い感じにペンギンを覚醒させたという訳か。
そして、そのペンギンのお陰で美咲さんもまた復活した……と。であれば、彼等の救出は行うべきだろうな。
「少しびっくりしましたけど。品川さん、どうにかなりませんかね? 正直、俺達だけで行っても全員を連れて行くのは無理ですから」
「人魚と言う事だから、陸を歩いてってのは無理って事なのよね……うーん、輸送車を出すとしても……」
ぶつぶつと考え始めた品川さん。
とりあえず、どれだけ頑張っても俺や美咲さんだけではどうにも出来ないからな。ペンギン達だけなら空を飛べるから問題無いけど人魚達がな。
そんな訳で、人魚達の移送方法は協会に考えて貰うとして……報告はもう大丈夫かな。とりあえず、話すべき事は全て話したと思う。
さて……ただあれだ。美咲さんのペンギンも、復活したとはいえ精神的なダメージは残っているはず。
なのでやはり、少しばかり休ませてあげたい処ではあるのだが、その申請は通りますかね?
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます(*'ω'*)




