二百九十九話
三度目ともなれば建築作業も慣れたもので、支援に来た建築班は物凄い勢いで防壁を作り上げていっている。
素材や道具も現状における一級品を使っているというのも有るけど、やはりダンジョン素材の食事によって基本スペックが上がってるのは大きい。どう見ても、道具の使い方を教えた町の人との作業効率が違いすぎる。
「いやはや……魔法で防壁を造らず簡易のモノだけと言う話を、影山さんや白河さんから聞かされた時は何故? と思いましたが、こういう事でしたか」
「ははは。どうせ作るのであれば、この素材の方が魔法で作った壁よりも良いモノでしてね。二度手間を防ぐ為にも我々の方針として魔法で壁は作らないのですよ」
海辺の街における責任者と守口さんが、出来上がっていく防壁を見ながら会話をしている。
因みに、この責任者は磯貝さん。実に……海といった感じの苗字だなと思ったのは内緒だ。……まぁ、本人はその手の事は言われなれてそうだけど。
そして、この場にはもう一人いる。まぁ、俺達以外の場所から被害者を連れてこの街に来た人。
さらに言うなら守口さんとは顔見知りで上野さん。守口さんと知り合いで戦えるという点から見ても解るように、元自衛官という訳だ。
「さて、壁の方は大丈夫そうだな。そうそう上野……君が例の輩を見たんだったな?」
「あぁ。守口が知らなかったという事は……そちら側には奴らは現れなかったようだな。となると、少し奴らが居る場所を絞り込めるか」
地図を広げて印をつけていく二人。
この地図には、俺達が調査した内容なども書き込まれている。……地図に直接でなく、上から透明シートを被せての書き込みだけどな。
「北上するルートは森で防がれている為に無し……今は道として使えるルートが限られているから、海沿いに移動する事になると思うが……」
「西は無いな。そっちにもうちの別動隊が調査に出てるが、被害にあった街などは無いそうだ」
「……となると、更に東か?」
四パーティーで移動してた俺達は海まで出てから二つに部隊を分け、それぞれ東と西に向かった。
で、その西側に向かった人達からは襲撃者の報告は一切無い。ただ、何が有っても良い様に直ぐ動ける様にしているらしい。
そんな訳で、地図にあるこの街から東の方へと目線を移す。
「襲撃を受けたのは此処か? となると、更に東から来たのか……それとも、北上するルートが近くにあるのかだが……」
海辺の街から更に東に位置する……襲撃を受けたシェルターが有る場所。
そこを中心に円を幾つか描く。まぁ、この円はあれだ。そこを中心にした直線状の距離をわかりやすくした奴。十キロ毎に円をとかそんな感じで。
そして、その円の中にシェルターを有していた街やら村やらが有るかどうか、その情報を探っていくが……うん、俺や美咲さんにそんな情報がある訳が無い。
ただただ見守るしかない状況だ。
「問題はなぁ……自前でシェルターを造っているパターンだよな」
「あー……白河の村みたいなパターンだな」
「おや? 白河君の故郷は自前のシェルターで乗り切ったのか……それはまた、凄い話だな」
「あー……上野。こいつの村は可笑しい集団の集まりだから。リアルチートってやつだ」
「まじか。ただ、そのお陰で俺達は随分と助かっているとかって話か?」
「ま、そうだな。俺の担当した街も随分と助けられたからな」
……助けられたと言いつつ、チート扱いは酷いんじゃないか? まぁ、その主力がなぁ。あの趣味人の集まりである研究所なんだけど。
……あの人達の事を考えたら、チートと言われても仕方ないか。
「えっと、俺達の村については横に置いてもらっていいですか? 今は、その襲撃者の事ですけど」
「お、そうだな。……何か気がかりな事でも有ったか?」
「まぁ、いくつもありますが、当面の防衛に関しては壁が出来上がるので問題ないとしても……果たして、どれだけの人が対人戦出来ると思いますか?」
「あー……それか。それなぁ……」
「上野さんの話からすると、襲撃者ってそれこそ、狂信者と言うか、昔の一向一揆みたいな人達ですよね? となると、普通と違って狂ったように突撃してくるなんて事も有るんじゃ?」
そう、上野さんが見た相手。彼らは何やら「我らが…………為に!」みたいなことを言っていたとかなんだとか。
そんな状態で、血眼になりながら攻めてくる相手だ。普通に相手するなんて無理な話。……いや、普通に対人戦ですら無理なんだけど。
「まず、探索者ベースの俺達は基本、対モンスターとして動いている訳で、軍事行動ができるかどうかと言えば無理です。更に、精神的な面で戦えるかと言うのもまた問題で」
「だよなぁ。ダンジョンを一般に公開した時も、人型モンスターと戦うだけで大量のリタイアやら、精神をやられた人が出たからな……」
「……守口。割とやばい状況だな。ぶっちゃけ、この街は探索者の割合は多いが……元自衛官や警察官は少ないぞ? それに、その少ない奴らも人相手に戦えるかと言われたら」
普通の精神の人が人を撃つなんて行為は出来ない。それを可能とするのは……戦争時、それも徹底的に訓練と言う名の……洗脳。まぁ、その洗脳って有名どころで言うならハートマン軍曹なんだけど。
あれって、映画やドラマだからって話じゃないんだよな。人は、あそこまで追い詰められないと銃を人に向けて撃つ事なんてできない。いや、威嚇や足止めの為に足を撃つ……ぐらいならまだできる。
だけど、命を奪う射撃。ヘッドショットや心臓を狙った銃撃はストッパーが掛かる。まぁ、本来なら掛からなかったらアブナイ人だ。
そんな訳で、まず間違いなく……。
「俺や美咲さんに探索者の人は足手まといになりかねないですよね。最初は良くても……恐らく死に直面した場合。モンスター相手と違って精神的にチェックが入ると思うんですけど」
「奪っても奪われても問題だよな……この街に精神科医は居たか?」
「一応居るが……数は少ないぞ」
「最悪、精神科医に頼るとしてもだ、なるべく前線には出さない方が良いよな。今後を考えると……ダンジョン探索や街周辺の警戒に狩りも必要になる訳だし」
「とは言え、手足らないぞ? その辺りはどうするんだ?」
「そうだな……戦車に頼るしかないか……とは言え、今ここにあるのは全部で五両だが」
相手の数も質も解らない状態だからな。解るのは精神的にやばそうな相手と言う事。
そして……他にも懸念はある。それが。
「そいつらが、能力を上げていたらあの戦車でもどうしようもないからな」
と、守口さんが言うように、実は戦車の機動性は強化された探索者に負ける。
まぁ、その分ハリネズミ式弾幕を張ればいいのだが、ガトリング砲で一秒に着き二~三発だ。しかも、一両につき一基しか搭載されていない。
他はと言うと、手動タイプのライフル銃が設置されているが……実弾タイプだとボルトアクション式なので連射には不向きで、魔法銃はそもそもチャージ時間が必要。
この点から、ハリネズミ弾幕を張るというのは土台無理な話。
「戦車を使うのならば、それこそ正面から突撃してくるだろう相手に撃つしかないが……うちに所属している上位の探索者なら、避けるなりガードするなり出来ちまうんだよな」
そのクラス相手に、銃弾を命中させようと思ったら、不意打ちかつ長距離狙撃のアンチモンスターライフルでもない限り無理だろう。
だが、それを試す訳にはいかない。……うん、威力が高すぎるからな。
「武器の優位性で何とかできれば良いんだがな……」
「正直、こんな戦車やら銃を造ってる時点で驚きなんだがな。それを避ける事が出来るとか……どれだけ能力アップしてるんだよ」
「おいおい上野……これからはそれぐらい出来ないとやっていけないぞ?」
「まじかよ……」
最悪のパターンを想定して話し合いを進めるけど、個人的には其処まで能力を上げているとは思えない。
一体、どのタイミングで外に出て活動して来たのか……まぁ、早く出たとしたら、どれだけ準備に時間を掛けたんだ? と言う話。
何せ、襲撃を受けた場所は現状確認する限り一ヶ所。そして、そこから比較的近い、この海辺の街へと奴らは来ていない。
そして、上野さんが隠れて様子を見ることが出来たという点からしても、隔絶した能力差と言うのは無いと思う。
とは言え、最悪の想定は必要だからな。もしかしたら、上野さんが見たメンツがただの下っ端なんて事もあり得る訳だし。
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こういった対策って本当大変ですよね。




