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好転の星  作者: ベン マウント
2/10

ヘッドハンティング

半年が過ぎた、俺の幸運は続いている、担当する得意先の景気が良い、運が良いのだ、決して俺の営業の手腕が良いせいだ、とは決して思っていないが、なぜか、俺の一言が参考になったと、喜ばれる事は多い

「進藤君はこの二つの製品、客観的に見てどちらが良いと思う」

そう聞かれて

「俺としてはこっちですかね」

言われた製品の一つを指さす

「ああ、そう、こっちね、やっぱりこっちか」

それだけである、こっち、総言っただけで感謝されたのだ、どちらにするか迷っているとき、たまたま外部の俺が訪ねた、そして俺の言った方の製品に会社が力を入れた、それがヒットしただけなのだ、鉛筆がどっちに倒れるか、と同じじゃないか、それなのにその会社は、新製品が出るとを呼ぶようになった、そして企画会議に参加させられ

「良いですね、これはいいと思います」

そういっただけだ、前回呼ばれたときは

「ちょっと、私にはピンとこない、分かりません」

そう言って帰って来たのだが、今回は製品の意図がハッキリ分かったので、そう言っただけだ、それだけで取引を増やしてくれた、なぜかいくつもの会社が俺を企画会議に呼ぶのだ、課長は

「お客様が望んでいるんだったら、行ってあげてください」

ということで、営業の一部とみなしてくれた

そんなこんなで、ここ半年営業成績は、俺がダントツでトップだ、そうなると荒木が面白くないのは分かっている

「進藤ばかり良い顧客を抱えている、成績が上がるのは当たり前だ、不公平だ」

荒木のそういう発言に課長も

「マンネリ化もよくないから、担当地区の配置替えをしますか」

営業会議の結果、担当地区の変更が行われた、そして一か月が過ぎた、前の担当地区の時は、通常営業の他に、企画会議に出席の依頼が多かったが、担当地区が変わっても、依頼の電話が多い、直接はないが会社を通して言ってくる

「担当が変わりましたので、うちの荒木が伺います」

そう言って断っていった、俺の担当していた地区は荒木が担当している、俺はまだ新しい担当地区の、挨拶回りが終わっていないのだ、だから忙しいを通り越している、担当地区は荒木と交換したようなものだった、挨拶回りをしながら、いろいろと情報を集めていく、荒木の評判は、知識はあるが親しみにくい、商品の説明が理屈っぽ過ぎる、というのが大方の評価だった、一流大学卒業を自慢しているようにとられている、というか受け取られているのではなく、明らかに自慢しているはずだ、顧客としては上から目線に感じて、親しめないのは無理もない、逆に俺は高卒と言っただけで、親しみが湧くといわれた、世間というのは、単純なようでいて難しいのだ、高学歴も出す場所を考えないと、相手に劣等感を与えるだけだ、商売には持ち出さない方が無難だと、俺は思っている

近頃、前の担当顧客から直接電話の数が増えている、企画会議に出席要請だ、その度に

「担当が変わりまして、荒木が伺う事になっています」

そう伝えると

「荒木さんじゃ駄目なんです、進藤さんでなければ、硬貨がないのです」

「どういう事ですか」

「進藤さんが出席してくれると、売り上げが上がるのです、荒木さんでは駄目でした」

皆同じような話だ、商売は(げん)を担ぐというが、たまたま俺が出席したとき、売り上げが上がったのだろう、その時の世間の景気にもよるのだから、景気も良かったのだろう、ただ、それによって士気が違ってくる、この人がいれば良くなると思えば、士気は上がる、商売にとって重要な事だと思う事、だが会社の方針には逆らえない、客の意に沿うのが上手な商売だと思うが、客の意に添わなくても会社の方針を通す、というなら俺は何も言えない

一日を終えて会社に帰ると課長が

「君の前顧客たちは、君に戻ってほしいそうだが、君は何かしたのかね」

そういわれたが

「特別に何も、課長もご存知のように、企画会議に出席したくらいですか、あれも課長が要望に応じろというから、出席したのですが」

「そうだったね、まあ、そのうち静かになるでしょう」

結局俺に過剰に客と親しくならないように、という訓告があった、荒木が担当して半年、受注は半減したが、それも、俺の悪影響のせいで、そのうち戻るだろうという見解だった、全部高卒のやる事だから良くない、悪いのは全て俺のせいになった、高卒でも俺の成績はいい方だったが、他の高卒の営業部員は、つらかった事と思う、ただでさえ高卒というだけで、肩身の狭い思いをしているのに、悪いことをしたと思う

だがそれも下火になっていった、俺は運が良いのか、荒木の地盤を代わったのだが、荒木の時より売り上げは上がっている、それも荒木が地盤を、育ててあったお陰ということになっている、全て大卒有利な判断だが、そこまで言うかという気、がするが、この会社ではどうしようもない、気にしてもしょうがないのであきらめの心境だ、豪にもやるせない気持ちで、今日も一日を終え家路につく、外の明るさより、店やオフィスの明かりが勝っている、陽が短くなっているのを感じるこの頃だ、いつものように、帰宅ラッシュの人ごみの中、駅に向かって歩いていると

「進藤さん、お久しぶりです」

突然声をかけられて、少しどきっとして相手の顔を見る、見覚えのある顔だが、どこであった人だ思い出せない

「あっ、どうも」

曖昧に答えながら思い出そうと、頭をフル回転させる

「サンセの須藤です、その節は」

ああ、あの時初対面の俺に、親切に応対してくれた、担当さんだ

「ああっ、いえっ、こちらこそお世話になりました」

思わずシドロモドロニなってしまった

「お時間、宜しいでしょうか」

「はい、何か」

何だろう、偶然ではなく、待っていたのだろうか、そんなことを考えていると

「突然で申し訳ないのですが、うちの原元がお話ししたいと申しまして」

「専務さんですか」

「はい、そうなんです、宜しかったら、ご一緒願えますか」

「ええっ、別に予定もありませんから、良いのですが」

「では、こちらへ」

そう言って先に立って歩きだす、つられて後をついていく、しばらく無言で歩き会社から少し離れた場所にある、落ち着いた雰囲気の喫茶店に入った、探すまでもなく、奥の方の席に原元麗子が待っていた、いかにも品のある、落ち着いた服装だが、ひときわ目立って見える、なんだか気後れしてしまう、向かいの席に座ると

「ごめんなさいね、突然で、私が直接でもいいんだけど、私を知っている人がいたら、進藤さんに迷惑が掛かってはと思って、須藤にお願いしたの」

「いえ、気を使ってもらってすみません、ですが何かあったんですか」

「仕事の事ではないのよ、進藤さん個人の事、すみません、ちょっと待ってね」

そう言った後、須藤に

「ありがとう、後はいいわ、悪かったわね進藤さんの顔を知っているのは、貴方しかいなかったから、ごめんね」

「いえ、飛んでもありません、では、私は帰ります、失礼します」

そう言って帰って行ってしまった

「実はね、単刀直入に言うわね」

「今の会社を辞めて、うちに来ない」

「ええっ、どういう事ですか」

「どういう事って、言った通りよ、貴方をヘッドハンティングしたいの」

「こんな俺を、どうしてですか」

「興味を持ったのは、祖母を送ってきてくれた時、でも、どこの誰ともわからなかった、今の時代にこんな親切で、お人好しな人がいるのかと思っただけ、帰り道が同じで、ついでにだ、なんて嘘言って」

「バレて」ましたか

「バレバレよ、でも嬉しかった、母が大切にされて、でもそれだけだった、ところが翌日、会社であったでしょう、何かの縁を感じたわ、それで、通り一遍で帰すのも何か物足りなくて、工場を案内したのよ、ところがその後、貴方が言った一言で、我社が急成長する切っ掛けができたの、完璧に運命を感じたわ、だから貴方には悪いけど調べさせてもらったの」

「何をですか」

「あなたの事をです」

「俺の事」

「そう、貴方の事、そうしたら驚いた、貴方よくあんな会社で働けるわね」

「はぁ、何の事でしょう」

「貴方は、酷い待遇を受けているわよね」

「と言いますと」

「高卒高卒と馬鹿にされて我慢している」

「事実ですからしょうがないんです」

「営業成績が良くなると、大卒より良くなるのはおかしい、顧客が良いせいでお前の力じゃない、そう言ってせっかく努力して育てた地区を、取り上げられる」

「会社の方針には逆らえないのです」

「新しい地区で売る上げを上げたのは、前任者が育てた成果が実ったから、て言うのも納得しているわけ」

「納得してませんよ、全部大卒を光らせるため、高卒は肥やしになっているんですよ、分かっていますが、サラリーマンの宿命ですよ」

「あ~ああ、完全に社畜の考え」

「社畜ですか、言い得て妙ですね、そうですそうなんです」

「転職は考えないのですか」

「ほかに能力があるとは思えませんので、今の仕事があっているのですよ」

「分かりました、では、社畜から抜け出してください、うちの会社は社員をそんな社畜な扱いはしません」

しばらく考えた、どうでもいい人間として使う会社、是非来てほしいと言ってくれる会社、考えるまでもない、会社に未練など全く感じない、こんなにあっさり決めて良いのだろうか、でも考える余地などない

「ありがとうございます、よろしくお願いします」

「目が覚めた、良かった、良いんですね」

「はい、こんな俺を評価してくれる、そんな会社に行かない手はありません」

「進藤さんは、自分を貸す追う評価し過ぎですよ」

「そうでしょうか」

「もう少し自分に自信をもってください」

「では、サンセに移ったら、自信を持てるよう頑張ります」

「そうしてください」

喫茶店から出て空を見上げると、あの星が見えた、何時もよりもやけに明るく見えた

「何を見ているんですか」

麗子にそう尋ねられ、星を見ているなんて、何となく恥ずかしくて

「いえ、天気はどうかなって思って」

そう答えておいた


お読みいただきある瓦当ございました

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