13.金欠
ボツ投稿、ラストです!
これにてストックは終了ですm(_ _)m
シモーネ姉さんとはそのあとも雑談し、23歳の独身女性だという無駄情報などをゲットしたりしてたんだけど、しばらくして仕事上がりの時間になったとかでさっさと引き揚げていってしまった。
ずいぶん長いこと俺と話してて仕事してるようには見えなかったんだけど、あれで大丈夫なのかな? ま、気にしても仕方ないんだけどさ。
一人に戻ったところで、途中になっていた読書を再開することにする。
本の第4章で語られているのは、主にナンバーズについての情報だ。
この本が書かれた時点のナンバーズ勢力は、おおきく分けて6つのチームに分類できるらしい。
第一勢力は、ご存知エル・エレ教会のスレイヤードら《 聖戦士 》チーム。どうやら彼らが現時点の実力ナンバーワンに認定されているらしい。近日中に聖女と呼ばれる女性をメンバーに加え──ってファルのことだな。そしたらチームが完成するので、いよいよ《 光のダンジョン 》の本格攻略を開始するとのこと。
続く勢力は、《 火炎のダンジョン 》を攻略中のホーレラント王国のチーム。
ホーレラント王国は、貴族にナンバーズが生まれることが多いことで知られ、ネクストカードによって家督の順序が変わるほどカードへの意識が強い国家であるらしい。実際、既に集まっているナンバーズは全員が当国の貴族であるとのこと。かなりお高く止まってそうで、あんまり近づきたくないな。
それから、いずれも商業利用が主に行われている《 水氷のダンジョン》と《 大地のダンジョン 》。
前者に関しては超巨大総合企業『マッサルカンド・カンパニー』が完全管理して取り仕切っており、全世界から有力な冒険者たちをスカウトして囲い込んでいるらしい。そしてナンバーズに関しても、なんと16人もの人数を抱え込んでいるとのこと。
でもその上を行くのが『オクトケイオス商会連合』。この街にある大きな三つの企業が中心になって管理しており、ナンバーズについても最多の28人を抱えているらしい。多すぎだろう、ナンバーズ!
残る勢力は二つ。
《 風雷のダンジョン 》を攻略中のテッダクレイゼス帝国騎士団と、《 闇のダンジョン 》を攻略中の和流会。どちらも秘密主義らしくナンバーズの情報はあまり開示されていない。
特に和流会のほうは閉鎖的で、独特の名前を持つ者たちが集まり、攻略状況はまったく不明とのこと。
その他に、要注意人物として二人のナンバーズが書かれている。
一人はゼルクナンバー『2』、【 力 】の《 獣王 》と呼ばれている獅子頭の獣人。
もう一人はゼルクナンバー『99』、【 道化師 】のラッキーラ・シャンバル。
ラッキーラのほうは、人をからかって愉しんでいるような変わり者らしいんだけど、問題はもう一人の《 獣王 》のほうだ。なんでもこいつは別名『治外法権者』とも呼ばれていて、制御しようとしても出来ないほど強いから、基本的に放置されているらしい。なんだよそれ、ヤバすぎるだろ。まぁこっちから近づかなければ害は無いらしいから放置しておくけどさ。
最後に、この本には親切にもオクトケイオスの街の簡易マップも付属していた。
それによるとダンジョンは街の八方向に存在しており、それぞれのダンジョンの近くに街が発展しているとのこと。へー、ダンジョン同士ってそこそこ離れてるんだな。
だから、街の中心部にある繁華街に行かなければ、あまり他のダンジョンを攻略している人とは出会わないみたいだ。地味にこれは助かる。なんとなくファルには顔を合わせづらいからさ。
続けて『冒険者新聞』の方を拡げてみる。どうやらこの新聞は、冒険者──主にナンバーズの最新動向を追いかけているみたいだ。
トップページを飾ってたのは、なんと″聖女ファルカナ″だ。というより一面ファル情報で満載だった。
俺たちより2日も早く到着した聖戦士一行は、注目の的になっていた。なんでもファルカナは″美少女″として写真付きで詳しく紹介されている。
あいつが美少女って柄か? よっぽど同じパーティのヒナリアって子の方がよっぽど美少女な気がするけどなぁ。
ファルたちは教会から専用馬車を出してもらっているから、俺たちより2日も早く到着しているらしい。そして早速今朝からダンジョンアタックを開始しているみたいだ。
さすがはエル・エレ教会、至れり尽くせりだな。
俺たちなんてアタックするダンジョンどころか、明日の生活費にすら困りそうだっていうのに。……べ、別に羨ましくなんてないもんね!
ファルたちとの格差を思い知らされつつ、パラパラと新聞をめくっていく。
どこそこのダンジョンでランクSのカードが見つかって、数千万で取引された。誰それがダンジョンから未帰還である。オクトケイオス商会のカンパニーに、新たなナンバーズが参加した等、様々なダンジョンに関する内容の記事を読み飛ばしていく。
──ふと、最後のページに気になる記事を見つけた。
『あの″無能姫″が、パトロンとして冒険者の募集を開始! 一体なんのために?』
あまりに酷い題名が気になって中身を読み進めてみると、なんでもホーレラント王国の第三王女であり《 無能姫 》と呼ばれているシェラーラ・マリアテレザ・ホーレラントが、突如オクトケイオスの街に現れて冒険者を募集し始めたとのこと。
シェラーラは庶子であり、優秀な二人の姉に比べて無能さが際立っていたことから、周りから″無能姫″や″愚か姫″などと呼ばれていた。
そんなシェラーラ姫が、気まぐれに冒険者のパトロンになるというので今後の動向が気になる、といった内容の生地である。
「いくら庶子だからって、無能呼ばわりは酷いよなぁ」
ちょっと前まで両親や周りの人から役立たず扱いされていた俺としては、新聞にまでこんな酷い呼ばれ方をしているこの姫様にちょっと同情してしまった。
「やっほーウタくん、待った?」
いつの間にか随分と時間が過ぎていたらしい。あらかた新聞を読み終わって放り投げたところで、後ろからアトリーの声がかかった。
「いや、そうでもない。俺も今来たところ──」
なにげなく振り返ると、両手いっぱいに書類を抱えたアトリーが、見たこともない可愛らしい格好をして立っていた。え、その服どうしたの?
「えへへ、可愛いでしょ? 服屋さんで安かったから買ったんだー」
「確かに可愛いけど……それ、どこからどう見ても女の子の服装じゃね?」
上はまだいい。ピンクのパーカーみたいな服ではあるが、別に男がピンクを着てもおかしくないだろう。
でも問題は下だ。どう見てもスカートだろそれ!
「大丈夫、見せパン履いてるから」
「あぁ、だったら安心だな……って、問題はそこじゃねーよ!」
「えへへ、怒らないでー。ちゃんとウタくんの分も買ってきたからさ」
そう言って袋に入った服を渡してくる。中身を確認してみると、シャツとズボンが2着ずつ入っていた。
「おお、こんなにたくさん! でも高かったんじゃないか?」
「ううん、そうでもないよー。ボクの分も合わせて全部でなんと3万カルド!」
「おおー、安い! ってコラー!なんで金無いのにばんばん買い物してんだよ!」
「えへへ、だって欲しかったんだもーん」
いや、可愛い顔してベロ出されたってダメだろ。
もう残金7万しかないじゃんか。……もしかして来た初日で早くも詰んだんじゃね?
「最終手段としては手持ちのゲートカードを売るか……」
でも俺のゼルクネクストの特性上、それだけは出来れば避けたい。こりゃ極貧生活を送らなきゃいけないかもな。
「ウタくん、ご心配しなさるな。この可愛いアトリーちゃんがお仕事を持ってきましたよ?」
「仕事?」
ニコニコ顔のアトリーがテーブルの上に置いたのは、なにかのパンフレットだ。
「どれどれ……マッサルカンド・カンパニー、クインビレッジ商会、スマイルカードカンパニー、商社エグザイム。これって全部ダンジョンの管理権限持ってる会社の求人広告じゃないか」
「そ、人のよさそうなお兄さんに聞いたら、働き口を斡旋している場所を教えてもらったんだよ」
アトリーの話によると、街の出入り口に近い場所に《 冒険者支援機構ハローワーカー 》ってのがあって、そこで随時冒険者を募集しているんだとか。
「日雇い、契約社員、正規社員いろいろあるみたいだね?」
「ほほー、日雇いだと1万くらいが相場って感じだな。正社員だと未経験者でも月15万か。経験者なら30万以上も可。ほかにもレアカードをドロップしたときには臨時ボーナス有り」
「ウタくんこっち見てみて! ナンバーズなら最低でも50万を保障だってよ!」
どこも条件は似たり寄ったりだったけど、冒険者はそれなりに募集しているみたいだ。
福利厚生が充実とか、臨時ボーナス有りとか、特別有給休暇有りなどいろいろな条件も記載されている。
なるほど、これなら確かに食いっぱぐれることは無さそうだな。とはいえサラリーマンになるとドロップしたカードは基本的に会社のものになるから、本来の目的の一つである『たくさんのゲートカードを手に入れて強くなる』って目的の達成は遠くなりそうだ。だけど……餓死するよりマシかな。
「今日はもう遅いから、明日あたり聞きに行ってみるか。泊まるところを探しに行こうぜ」
「自信満々だけど、良い宿に心当たりあるの?」
「ふふふ、このウタルダスに任せたまえ」
◇
シモーネさんに紹介してもらったのは《 ホテルハッピー 》という実に可愛らしい名前のホテルだ。
少し外れた場所にあるのでダンジョンアタックには不便だけど、そのぶん安いと聞いていた。
「いらっしゃいませ! ホテルハッピーへようこそ!」
出迎えてくれたのは、10歳くらいの可愛らしい三つ編みの女の子だ。どうやらこの宿の看板娘らしい。実に愛想がいい。
「二人で泊まりたいんだけど、いくらかな?」
「はいっ、ご夫婦さんですと、一泊二食付きで9800カルドです!」
「いや、俺たちは夫婦でもなんでもないから部屋別々で頼む」「え? ウタくん遠慮しなくても……」
「別々でしたら一人5800カルドですー」
確かに安い。この街の物価の相場からすると一泊二食付きでこの値段は激安の部類に入る。
「アトリー、ここでいいか?」
「えっと、二人一部屋だと一緒なのかな?」
「だったら9800円ですよ!」
「じゃあそれでよろしく」
「ちょ、待てアトリー! 何勝手に決めてるんだよ!」
二人一部屋なんて拷問、勘弁してくれよ。反抗しようとしたものの、「でもお金無いんだよ? 贅沢は控えなきゃ」と言われたら、ヒモ生活中の俺としては引き下がらざるを得ない。でもさー、だったら服とかカードとか無駄な買い物は控えて欲しいよな。
「あ、ウタルダスくん本当に来たんだ……って、彼女連れ!」
「あれ、シモーネ姉さん」
宿泊の手続きを進めていると、後ろから声をかけられた。振り返ってみると、さっき喫茶店で親切にしてくれたウエイトレスのシモーネ姉さんが立っていた。
「姉さんはなんでこの宿に?」
「言ってなかったっけ、ここあたしの定宿なんだ」
いやいや全然聞いてないし! ビックリしたし!
「それにしても君、こんなに可愛いい彼女がいたんだね?」
「えへへ、アトリーです。ウタくんの妻です」
「ゴラァ! トンデモないウソさらっと言うんじゃねぇ! 姉さん違いますよ、こいつはただの幼なじみです」
とりあえず必死に誤解を解いて、お互いを改めて紹介しあわせる。
「あたしはシモーネ、あなたたちの先輩にあたるフリーの冒険者よ」
「よろしくお願いします。あ、でもウタくんはボクのものですからねー? オ・バ・サ・ン」
「なっ!」
一瞬にして凍りつく空気。
「サービスのお茶です、よかったらどうぞー」
「悪いわねハイビス。」
少し困ったような顔をしたアトリーと、その横に見たことのない男性の姿があった。
男は、落ち着いた感じの雰囲気を持つ二十代くらいで、かなりキチンとした身なりをしていた。商人かなにかだろうか。ただ、なんでアトリーと一緒にいるのかが分からない。
「こんにちは。あなたがウタルダスさんですね。私はマッサルカンド・カンパニーで営業担当をしているロイ・ウォーケンと申します」
「は、はぁ。ウタルダス・レスターシュミットです」
「実はですね、私はあなたとアトリーさんを我らがマッサルカンド・カンパニーにスカウトしに参ったのです」
驚いてアトリーに視線を向けると、なんとも微妙な表情で苦笑いしている。どうやらアトリーはアトリーのほうで、なにやら手段を見つけて来たようだ。
申し訳ないですが、ここでネタ切れ終了となりますm(_ _)m
ウタくんたちの次の戦いは…どこかでサブキャラで復活してるかも??