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Schneiden Welt  作者: たる
第一幕
20/109

分水嶺


「ミラ?」


黙っているミラに対してラザァが怪訝な顔を向ける。どうやらミラとバザロフの会話の内容までは聞かれていないらしくとりあえず安心した。


この件、バザロフからのミラへの半ば脅しのような依頼について考える時間は無いのは承知していたが想像以上に早くタイムリミットが来てしまった。


ミラは今、この場で、この青年ラザァを殺すかどうか決めなくてはならない。


ラザァとガレン達この現場にいる人間を皆殺しにすればとりあえずはミラはヨランダと共に生きれる。そしてヒルブスの言いなりになる今までの生活に戻るだけだ。いや、それだとエリーを殺さなければならない。


ではバザロフの脅しに屈しなければどうなる?すぐにヒルブス邸の地下にいるヨランダは殺されるだろう。そしてテロ攻撃が済んだらミラとラザァ達を殺そうと刺客を送り込んでくるのは目に見えている。あのアルバード ヒルブスを敵に回して逃げ切れるとはいくらミラでも思ってない。


どちらも嫌な考えしか浮かばない。どうすればいい?こんな重大な決心をしなければならないなんて今朝まで考えてもいなかった。


「ミラ?」


ラザァの声が聞こえる。こいつは目の前の女が自分を殺そうかどうな悩んでるなんて思いもしないんだろうな。お人好しなこいつの事だ、本心から私を心配してくれているのだろう。


「あんた、、、」


とりあえずなんか言わなければ、時間稼ぎ程度にもならないのなんて初めから知っているがそれでも決意を先延ばしにしていたいのだ、そんな考えから特にあてもなく口を開いた。


「どうして、私を助けたの?それも2度も?」


特に考えずに話し出したミラの口から出てきた言葉はそんな言葉だった。


「えっ?2回?」


「2回よ、初めは車庫の外で見つかりそうになった時私を隠して1人で捕まったじゃない!2回目はあの金髪の男が私にナイフを向けた時あいつを撃ったでしょ!」


違う、私が言いたいことはこんなことじゃない。ラザァは間違いなく私を気遣うような事を言うだろう。それを聞いたらもう昔の自分に戻れなくなる気がする。いざ殺す時に迷いが生じてしまう。優しい言葉は人を弱くするのだ。


だがミラの口は自分の意思とは反してスラスラと言葉を紡ぐ。


「1度目は!その場で殺されていたかもしれなかった!それに、、、それに2回目は、、、あんた人を撃った事なんて無かったんでしょ?あんたが向こうの世界で何やってたなんかなんて私は知らない!でも人を傷付けた事も無いんでしょ!?私にはわかる、私自身が人を殺してきたから!私と違う、完全に違う世界の人だってわかるもの!そんな慣れないことまでして私を助けてくれた!最後の自爆の時も巻き込まれるかもしれないのに飛び込んで私を助けた!なんでなのよ!?なんで、なんで、、、」


「それは、、、」


「私なんてそんな価値もないのに、、、」


最後はほとんど涙声でつぶやくような感じになっていた。気がつくと頬を水滴が伝う。


自分のせいで他人が傷付くことばかりな人生を送ってきて諦めの境地に達した頃に現れた桁外れのお人好しにたいして複雑な感情を抱いているのだ。


助けてくれて素直に嬉しい感情ともう他人が自分のせいで傷付くのを見たくない感情が複雑に絡み合う。


そんな感情を内側に抑えておくことができなかった結果の涙なのだろう。


「価値だなんて、、、そんなこと言うなよ、、、ミラはなんだかんだ言ってこの世界に来て右も左も分からない僕を気にかけていてくれただろ!ミラが厳しい事を言う時はいつだって危険な物に近づかないようにしてくれている時だった、そんな優しいミラに価値がないわけがない!」


目の前のラザァが出会って1番の迫力で言ってきた。気の弱そうな雰囲気出しておきながら中々いい声してる。こんな場面でも突然見せたラザァの男らしさに感心してしまう。


「ミラがどう思っていようとも僕はミラに大きな恩を感じている、だからさ、ミラも僕の恩返しを素直に受け取ってよ。」


そう言ってラザァは一歩こちらに歩み寄る。


物理的な距離にして40センチとかそれくらいしかないのかもしれない、だがラザァのその一歩はミラにとってとても大きく感じられた。


誰にも見せたことのない、ミラの固く閉ざされた心に遠慮しながらも触れようと努力しているラザァなりの歩み寄りなのかもしれない。


あとは、あとはミラが少しだけ勇気を出すだけなのかもしれない。ミラの現状を変えてくれるかもしれない、白馬の王子様とは少し違う気がするがラザァは確実にミラに変化をもたらしてきた。あと一歩ミラが足を踏み出し、ラザァのその手を掴むだけで何かが変わるのかもしれない。


「ねえ、あんた、、、もし、私があんたの思っているような人間でなかったならどうする?」


ミラの口から出た言葉、今回は無意識のうちではなくミラが自分自身で考えた言葉だ。その通りの意味だ。


これはミラなりのけじめのような質問だ。ラザァの答え次第ではそれなりに考える事がある。


ラザァは「えっ!?」と小さく言うと「うーん」と唸りながら宙を仰ぎ思案顔になる。


質問の文面自体はそんな複雑な事では無いので、なにもそんなに真剣にならなくても、、、だがラザァがそれだけ真面目に考えてくれるのはミラとしても内心嬉かった。くすぐったいほどに。


「それでも、、、それでも僕はミラを助けたと思うよ。」


ラザァが静かに口を開いて吐き出した言葉はそんなものだった。


ほとんど予想していたような答え、恐らくミラの質問の意図の半分にしか気がついていないのだろうが。それでも底抜けにお人好しで優しいラザァの事だ。きっと本心からの言葉なのだろう。


「、、、どうして?」


相変わらず予想通りな回答しか、または呆れるほど優しく、そしてミラからするとぬるいような事しか言わないだろうとしても聞かずにはいられなかった。


「ミラが悪い奴でもいい奴でも、助けてくれた人に恩返しをするのは当然の事だと思うし、それに、、、」


「それに?」


「それに、そんな事後から知っても特になんとも思わないよ。だってもし人をどうしようもないくらい好きになって後からその人の悪い面が見つかっても簡単にはその人自体を嫌いになんてなれないだろ?それと同じだよ。」


ラザァは言い終わってから自分の微妙に恥ずかしい例えに気がついたのか顔を真っ赤にして手を振り回しながら慌てて


「べべべべべ、別にこれはそういう意味じゃなくて!その!例えだから!例え!別に深い意味とかは無いから!!」


「そそそそ、それくらいわかっでるわよ!もう!」


ミラも顔が熱くなるのがわかる、そのせいで思いっきり噛んだ。しばらく2人でギャーギャーと騒ぐ。


「「ぷっ!!」」


「「はははははははははは!!」」


2人して顔を真っ赤にして手を振り回しながら何を言ってるのかわからない事を口にしていた事に気がつき2人同時に吹き出し大笑いだ。


一通り笑い終えた後、ラザァが目の涙を拭いながら口を開く。そこにはさっきまでの少し不安そうな表情は無かった。


「でも良かったよ。」


「え?」


「ミラがさ、初めて本当に心から笑ってくれたような気がしたから。何があったのか僕にはミラの事情はわからないけれども今まではなんというか、、、無理に他人と距離を取ろうとしていたように見えたから。僕は少しだけ近くに行けたのかな?」


ラザァが柔らかい笑みを浮かべ、ミラをしっかりと見つめて言ってきた。その目はまやかしなんかではない。見たものと真剣に向き合い、そして決して見捨てたりはしない目なのだろう。そしてそれは今、ミラをしっかりと見据えている。今まで見捨てられ、虐げられてきたミラを。


正直言って体がさっきの例え話の時よりも熱くなるのがわかる。ミラはそれを決して悟られないように極めて冷静さを装って話し出す。


「あんたって本当にお人好しよね。心配になるくらいよ。それでさっきの電話なんだけど、、、」


「話してくれるの?」


ラザァが真剣な顔になる。さっきの電話があまり良い内容でないのはなんとなく察しているのだろう。


「ええ、その前に、私の昔話を聞いてくれる?」


そう言うとミラは思い出したく無い、ミラの過去へと思いを馳せて口を開いた。


ラザァがこんなにもミラに歩み寄ろうと努力したのだ、ミラも分かり合う努力をするべきなのかもしれない。




久々のあとがきです。

タグはつけてたけど今までそんな雰囲気が少しもなかったけれど20話目にしてようやくメイン2人の恋模様というか少しだけどそういう描写入ってます笑

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