ミラの過去
ミラがゆっくりと口を開き、自分のこれまでの人生について語りだす。
「私ね、元々はパイリアではなくて、小さい頃だから国の名前も村の名前も覚えていないんだけどどこか遠くの場所に暮らしていたの。」
「といっても血の繋がった家族とかではなくて、身寄りの無い子供達を引き取って暮らしている地方のちょっとしたお金持ちのお爺さんとその家政婦のヨランダっておばあちゃんと一緒にくらしていたわ。他には事故で親を亡くした子供達が数人いたわね。みんな血の繋がりは無いけれども本当の家族のように仲良く暮らしていたの。」
「私が何度か聞いてみたんだけど、お爺さんもヨランダも私の家族については何も話してくれなかった、だから私は親の名前も顔も、兄弟や姉妹がいたとかも全く知らないの。だから一時期は家族というものを一切知らない事に嫌な感情を持っていたりしたわ、もっとも元々いた家族を奪われた人を失った人に比べればその失う苦しみが無い分私の方が幸福なのかもしれないわね。」
「それでも物心着いてからずっとその家で暮らして、本物の家族ではなくても確かにそこに居場所を感じていたの、そのまま大きくなって、大人になってもみんなで力を合わせて、寄り添って生きていくのも悪く無いって子供ながらに思っていた矢先の事よ。あいつが来たのは。」
そこまで言うとミラは口を一度つぐんだ、目には明らかに殺意や憎しみといった負の感情が浮かび、心なしか目が赤く変化しているようにも見える。
「あいつ、、、パイリアに住む富豪アルバード ヒルブス。
ヒルブスはお爺さんの家を部下と一緒に襲って、、、たくさん殺したわ、私とヨランダ以外はみんな殺された。産まれて間も無い赤ちゃんもいたというのに、、、ヨランダも殺されそうだったけれど私がしがみついてるのを見て使えるとか言いながら生け捕りにしていたわ。
そこからしばらくの事はよく覚えていないの、ショックが強過ぎたのかしら、気がついたら私はパイリアのヒルブス邸に連れてこられていた。」
そう言うとミラは口を固く結び、手に握りこぶしを作る。口や拳からなにやら音でも聞こえてきそうな程だ。
「ミラ、、、そのヨランダって人が生かされた理由ってもしかして、、、」
ラザァはミラのその異様なまでに人との付き合いを避けようとする姿勢の理由に薄々気が付き始めていた。
ミラは自分が何故かそのヒルブスという男に標的にされ、そのせいで周りの人間を殺された事に責任を感じているのだろう。そして2度と自分のせいで他人を傷つけまいとわざと他人にきつくあたっていたのだろう。相手の方から自分から離れていってもらえるように。
ミラはその小さな体でそんな十字架を自ら背負って生きてきたのだ。誰にも助けを求めることなく。
「そうよ、私が逃げたり言うことを聞かないってことが無いように人質としてヨランダは連れてこられたの。今もヒルブス邸の地下牢に閉じ込められているわ。私もたまにしか会わせてもらえないの。」
「その、、、なんでそのヒルブスって奴はミラを狙ったの?閉じ込めるとかでもなく、事実こうして自由に出歩いていたわけだし。」
聞いてはいけない気もしたが何か手がかりがあるかもしれない以上聞かない訳にもいかない。ラザァは意を決して怒りや悲しみや憎しみを浮かべて複雑なオーラを出しているミラへ問いかける。
「えーと、前に私が獣人の血が入ってるって言ったの覚えてる?それが珍しいらしくてあいつら定期的に私の血を採るのよ。それが理由なんだと思う。」
ミラは案外すんなりと答えてくれた、獣人ってこの世界では珍しく無いと思っていたのだが、ミラのように見た目は普通でも獣人の血が入ってるのは珍しいのだろうか?イマイチわかりにくいところだ。
「そんなわけで基本的に時々血を採られる以外は普通に暮らしてるの、まあ、あいつらは私のことを良く思っていないだろうから自分の家事は自分でしてたし居候みたいな感じになってるわ。
お金がもったいないとかで私は他の同年代の子がやってるみたいに学校には通わせてもらえなかったけどね。今になって考えてみれば良かったのかもしれないけれども、、、」
「そんなある日ね、私がその、路地裏で泣いてたら、、、泣いてたってのはその!ヨランダを助けられず、言いなりの自分が情けなくて泣いてたの!別に嫌がらせを受けたとかでは無いから!」
変なところで意地をはるミラさん。
「1人の女の子がね、エリーが私に話しかけてきたの。
初めは馴れ馴れしくてとても嫌な奴だと思ったわ、でも何日も私が心配だとか言って付きまとってきて、色々と言い合いもしたんだけどね、この人は本当に私の事を想ってくれてるんだって、本気で心配してくれてるんだって思ったの。
それがもし私の勘違いでも構わない、私のためにこんなに頭を悩ませて、喜びを分かち合って悲しみを癒そうと努力してくれてるエリーに出会ってかなり救われたわ。
だから私はエリーを命に代えても守るって決めた。
私のこの体のせいでお爺さんの家のみんなは殺された、でもその体のおかげでエリーを守ることが出来ると思ったの。」
そこまで言ってミラは再び俯向く。目からは怒りというよりは悲しみが見てとれる。
「でも、守れなかった。あんなに私に良くしてくれたエリー1人も私は守りきれなかった、、、それに、、、」
「それに?」
「さっきの私を見るエリーの目、、、とても怖がっていた、、、当たり前よね、、、目の前で人を殺したんだもの、それにこの怒ると赤くなる目も見られた、、、ずっと隠してたのに、、、もう、今までみたいな関係に戻れないのかな?」
そこまで言うとミラの目に涙が浮かぶ。「あれっ?」とか言いながら拭うが涙は目に次から次へと浮かび止まるところを知らない。
「どうしよう、、、私、、、エリーにまで見捨てられたらまた1人になっちゃう、、、嫌、嫌、エリー、、、」
涙を止める事を諦めたらしいミラが涙声で聞き取るのもやっとな声で呟く。今まで強がっていたのが途切れ、感情をコントロールできないのだろう。
ラザァは気がつくと目の前で「どうしよう、どうしよう、」と泣き噦る女の子を抱きしめていた。そして頭を優しく撫でていた。ミラが「えっ!?えっ!?」という驚いた声をあげる。
「大丈夫、エリーはきっと驚いただけだから、そんな事でミラの事を嫌いになったりはしないよ。それに、出会ってまだ2日の僕でもミラの良いところはわかっているつもりなんだよ?ずっと長い時間を一緒に過ごしてきたエリーはミラの良いところをたくさん知ってるはずだよ。そんなエリーが簡単にミラの事を嫌いになったりするはずなんてないよ。」
そう言いながらミラの頭を優しく撫で続ける。さっきもだが後で思い返すと結構恥ずかしいセリフをスラスラと言ってる自分に戸惑うばかりだ。
「だから安心して?ミラはもっと自分に自信を持って。ミラが思っている以上にミラを大切に思っている人はいると思うよ?少なくとも僕はミラを大切な恩人だと思ってる。」
だんだん落ち着いてきたのか腕の中から泣く音が小さくなる。鼻をすする音は相変わらずだが。
初めて会った時などはラザァにナイフを向けていたミラがラザァの腕の中で泣いているなど人生とはわからないものだ。
ラザァはそんなことをぼんやりと考えながらミラが完全に落ち着くまで撫でることをやめなかった。
しばらくして鼻をすする音も完全に止み、ミラがもぞもぞと動いたかと思うと自分でラザァの腕から出る。
「あんたってさ、恥ずかしい事平気で言うのね?なんか意外。」
「なっ!」
ラザァはつい先ほど自分で思っていたことを口に出されとっさに対応できなくなる。
「そんなこと女の子に簡単に言っちゃダメよ。本気にしちゃう人がいるでしょ。」
そう言うとミラは意地悪そうに笑う。
良かった。軽口が言えるくらいまで落ち着いたらしい。
ラザァはミラに聞こえないくらいの小さい声で「元気そうで何より。」と呟いた。
もっともミラの地獄耳にはしっかりと届いていたようだが。
ミラはバツが悪そうにもぞもぞとラザァの目の前に来ると
「その、、、恥ずかしいところ見せたわね、ごめん。」
と俯きがちに謝る。
「でも、おかげで少し楽になったわ、ありがとう!」
それはラザァが出会ってから1番の笑顔だった。
「僕も恥ずかしいセリフ言ってなんかごめんね。」
「そこは別に謝るとこじゃない気が、、、まあいいや。」
「色々と省いたところもあるけどこれが私の今までの人生。それで電話の話だったわね。」
ミラは再び真剣な顔に戻ると先ほどの電話の内容をラザァに詳しく聞かせ始めた。




