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死者たちがあまりにも悲しそうだったので手を伸ばしていたら、いつの間にか精霊に愛されていました  作者: ちょこだいふく


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16.シアとノア

その夜。

別荘は静かな眠りに包まれていた。


昼間の暑さはすっかり消え、窓の外では涼しい風が木々を揺らしている。

遠くから、湖の水音がかすかに聞こえた。


リシュアは窓辺へ座り、膝を抱えて外を見ていた。


橋の下で感じた感情が、まだ胸の奥に残っている。


——怖かった。

——助けてほしかった。

——生きたかった。


思い出すたび、胸が締め付けられた。


「……眠れない?」


不意に後ろから声がした。


振り返ると、ノアが扉のところに立っていた。

寝間着姿のまま、少し眠そうな顔をしている。


リシュアは小さく笑う。


「ノアこそ」


「なんとなく」


そう言いながら、ノアは部屋へ入ってきた。

以前なら遠慮していたはずなのに、最近は自然とこうして側へ来る。


ノアは窓辺の隣へ腰掛けた。


しばらく二人は何も言わなかった。

夜風だけが静かに吹いている。


すると、ふわり、と。

小さな風の光が窓辺を漂った。


今日は昼間より穏やかだった。

精霊たちも、あの怨霊の女性が消えたことで安心しているのかもしれない。


ノアがぽつりと呟く。


「……怖かった」


リシュアがゆっくり顔を向ける。

ノアは窓の外を見たまま続けた。


「橋の下も怖かったけど」


「それより、シアが泣いてるの見てる方が怖かった」


リシュアは小さく目を見開いた。


「……私?」


「うん」


ノアは苦笑する。


「シア、すぐ自分のこと後回しにするから」


その言葉に、リシュアは何も返せなかった。

否定できないと思った。


あの時も、怖いよりも先に、“彼女を一人にできない”と思ってしまったから。


ノアは少しだけ視線を落とす。


「俺さ」


「最初、この家に来るの怖かったんだ」


リシュアが静かに聞く。


ノアは分家の男爵家から迎えられた養子だ。

今では当たり前みたいに家族になっているけれど、最初からそうだったわけではない。


「父様も母様も優しかった」


「でも、それが逆に怖かった」


夜風が静かにカーテンを揺らす。


「本当にここにいていいのかわからなかったんだ」


「シアのものを、俺が取っちゃったんじゃないかって」


その声は、とても静かだった。


リシュアは目を瞬く。

そんなこと、考えたこともなかった。


ノアは少し困ったように笑う。


「子供だったからさ」


「変なこといっぱい考えてた」


「でも」


そこでノアは、ようやくリシュアを見る。


「シアだけは、最初から普通だった」


「普通?」


「うん」


ノアは少しだけ笑った。


「“一緒に遊ぼう”って言ってくれて」


「“家族だよ”って、当たり前みたいに笑った」


リシュアはきょとんとする。

そんなことを言った記憶は、ぼんやりとしか残っていない。でもきっと、その時の自分にとっては自然なことだったんだろう。


ノアは静かに続ける。


「だから救われたんだ」


その言葉に、リシュアの胸が小さく揺れる。

前世では、自分が誰かを救ったなんて思ったことがなかった。


人の役に立てたか。

迷惑をかけていないか。

ちゃんと必要とされているか。


そんなことばかり考えていた。


けれど今、自分の知らないところで、誰かの支えになっていたのだと知る。


ノアは少し照れたように視線を逸らした。


「だから今度は、俺がシアの側にいたい」


「怖い思いする時、一人にしたくない」


まっすぐな声だった。


リシュアはしばらく何も言えなかった。

胸の奥が、じんわりと温かい。


うまく受け取れない。

でも、嬉しいと思った。


窓の外では、小さな光たちが夜風に揺れている。


リシュアはそっと笑った。


「……ありがとう、ノア」


するとノアも、小さく笑った。


その瞬間ふわり、と風が吹く。


まるで精霊たちまで嬉しそうに笑ったみたいだった。

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