分断された光と闇(下)
リノスの宣告から数分後、静寂は破られた。旧議事堂跡地を取り囲んだ数千の追跡部隊から、レドの技術によって強化された新型兵器が一斉に火を吹いた。それは、光を帯びた粒子兵器でありながら、ガイオスが設計した闇の技術のシールドを一瞬で侵食し始めた。
「シールドのエネルギー吸収率が限界を超えています!」中道の技術者の一人が悲鳴を上げた。「レドは、我々の技術を知り尽くしている。単なる突破ではなく、シールドを内側から崩壊させることを意図しています!」
ゼロスは冷静だったが、その厳格な瞳に焦燥の色が浮かんだ。「抵抗勢力は即座に建物内へ退避!ここでの犠牲は許されない。記録保管者、目標は情報だ。奴らが展開している兵器の制御ユニットを狙え!」
私は、ゼロスと共に、再興勢力に残った技術者たちを退避させつつ、戦闘の中心へと向かった。レドが開発した兵器は、シールドを破壊するだけでなく、悪意の残響を増幅させ、砦内部に恐怖と混乱を撒き散らしていた。市民たちは、光の依存から脱却したばかりの心に、再び猜疑心と憎悪が芽生え始めているのを感じていた。
「このままでは、精神まで破壊される!」
その時、ガイオスから緊急通信が入った。
「記録保管者、聞け!レドは、プロトコルを一つだけ使っていない。それは、私の技術の根幹に関わる、最も複雑な自立安定化コードだ」ガイオスの声は、いつもより微かに震えていた。「今、私が火星軌道上からそのコードを起動し、レドの兵器のエネルギーコアを一時的に逆流させる。時間は三十秒。これが、奴の技術に対抗できる最後の手段だ。」
「ガイオス!それは君の拠点の位置をリノスに晒すことになる!」
「構わない。私とレドの技術の優位性は、創造か破壊かで決まる。記録保管者、三十秒で奴らの制御ユニットから情報を奪い、直ちに撤退しろ!」
ガイオスの通信が途切れると共に、地上を覆っていたレドの新型兵器の光が一斉に青白く変色し、制御不能に陥った。三十秒間の猶予!
ゼロスと私は、この一瞬の奇跡的な好機を逃さなかった。私たちは、無力化した兵器の制御ユニットへ突進し、端末を接続してリノスの最終計画に関する情報を奪取した。警備部隊は混乱したが、リノスがホログラムで激しく怒鳴り散らし、部隊を立て直そうとしているのが見えた。
「ガイオスめ! お前も私に背くか!火星軌道の座標は把握したぞ!貴様らの方舟を先に破壊してやる!」
リノスの絶叫は、ガイオスの自己犠牲の決意が、リノスに恐るべき報復の機会を与えてしまったことを意味していた。私たちは、取り返しのつかない代償を払ったのだ。
三十秒が経過する直前、私たちは情報を抜き取り、地下へと繋がる緊急ルートへ飛び込んだ。砦は、レドの技術を再起動させた追跡部隊によって、無残にも炎上し始めた。再興勢力の象徴は、一瞬にして崩壊した。
地下深くの隠し通路で、ゼロスは奪取したデータチップを解析した。彼の顔色が、次第に蒼白に変わっていく。
「記録保管者…間違いない。リノスは、我々が火星軌道へ脱出する前から、すでにこの計画を始動させていた」
ゼロスがホログラムに映し出したのは、驚くべき光景だった。ティアマト星系から遠く離れた太陽系内の宙域、巨大なエネルギーフィールドに包まれ、加速軌道に乗せられた巨大な破壊の残骸が示されていた。
「これが…リノスが悪意の統合炉で得たエネルギーの全てを注ぎ込もうとしている最終破壊兵器だ」私は息を飲んだ。
ゼロスは言った。「奴は、数億の意識体を一つに統合し、悪意のエネルギー体を誕生させるつもりだ。そのエネルギーのほとんど全てを、この最終破壊兵器をティアマト星にぶつけるために使う。そして、その破壊を『上位の意識体』への献上物とすることで、自らの存在の永遠化を企んでいる」
「私たちが思っていたよりも遥かに、破滅は近い。そして、リノスはガイオスの火星軌道上の拠点を狙っている。奴にとって、方舟の完成は邪魔なのだ。」
抵抗の砦は失われ、ガイオスの拠点も危険に晒された。残された希望は、記録保管者(中道の知恵)、ゼロス(光の秩序)、そしてガイオス(闇の技術)の三つの力だけだ。
「この情報を持って、直ちにガイオスに合流しなければならない。この巨大な破壊の残骸の衝突を阻止できる技術は、今やガイオスだけが持っている」私は言った。
ゼロスは、炎上する議事堂跡地の方向を振り返った。彼の表情は、深い悲しみに満ちていた。
「私は、光の秩序を守るために残る。ティアマト星から脱出できなかった市民たちを、リノスの最終的な統合から守り、最後の避難経路を確保しなければならない。君は、ガイオスの元へ行き、奴の計画を阻止するのだ」
「しかし、それでは君が危険だ!」
「これは秩序の義務だ。君が奴の計画を止め、ガイオスが方舟を完成させることが、彼らに真の自立の機会を与える。私は、ここで光の統合を完遂し、最後の抵抗を続ける」
二つの意志が、破滅に向かうティアマト星の地下で衝突した。光の秩序を貫くゼロスの覚悟と、中道の知恵を活かすための離脱。
私は、ゼロスとの約束を胸に刻み、最終的な脅威を阻止するため、ティアマト星を離れる決意を固めた。
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