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ティアマト物語  作者: しゅう


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十日間の猶予

私は、ゼロスとの最後の別れを噛み締めながら、超小型潜入機を地下深くから発進させた。目指すは火星軌道上のガイオスの拠点。ゼロスが奪取したデータが示す最終破壊兵器の加速軌道を逆算すると、衝突までの猶予は十日と、もはや一瞬の猶予もなかった。

ティアマト星の大気圏を離脱する際、潜入機のセンサーは、地上で炎上する旧議事堂跡地と、都市全域を覆い始めた悪意の残響の粘着質な影を捉えた。リノスとレドによる悪意の統合が、刻一刻と進行している証拠だ。

「ゼロス…必ず、この脅威を止めてみせる」私は潜入機を最大加速させた。


火星への旅路は、孤独との闘いだった。潜入機は戦闘能力を持たず、推進力も限定的だ。私は、全エネルギーをステルス機能に割り当て、太陽系に広がるデブリ帯や小惑星の陰を縫うように、慎重に航行した。

最も恐れていたのは、リノスの追撃だった。ガイオスの自己犠牲により、リノスはガイオスの火星軌道上の拠点座標を把握した。当然、彼らは方舟の破壊を最優先するだろう。


その予感は的中した。

航行開始から二日目。潜入機の長距離センサーが、後方から迫る三機の高速追撃艇を捉えた。艇は、リノスの警備隊が使用するモデルではあったが、その推進システムと兵装には、間違いなくレドの闇の技術が組み込まれていた。

「レドめ、こんな短時間で追撃部隊を組織し、火星軌道まで送り込んできたのか」

私は、潜入機のステルス機能を最大限に活用し、デブリ帯の密集地帯へと機体を滑り込ませた。追撃艇は、デブリ帯の複雑な重力変動に戸惑い、一機がコントロールを失い始めた。


「私は、中道の知恵を使う」

私は、潜入機の外部センサーで捉えたデブリ帯の精密なデータを解析し、次の追撃艇の進路に、共振周波数が最も高いデブリを配置する計算を始めた。計算は成功した。二機目の追撃艇がデブリに接触し、船体の一部を損傷した。

残る一機は、それを学習し、私を追う速度を上げた。しかし、三機目の追撃艇の動きは、どこか不自然だった。まるで、レド自身が遠隔でその機体を操作しているかのように、執拗かつ正確に、私の機体の脆弱な箇所を狙っていた。


残る追撃艇との緊張したチェイスは続いていたが、ついに火星軌道へと到達した。

潜入機が火星の引力圏に入った瞬間、ガイオスから強い暗号信号が送られてきた。

「記録保管者!無事か!追撃艇がいる。火星の裏側、フォボスの陰へと急げ。私が残りのエネルギーを使って、軌道制御システムを一時的に攪乱させる」

ガイオスは、自身の拠点が露呈しているにも関わらず、その莫大な知識と冷静な判断力で、追撃艇の動きを正確に予測していた。

私は、言われた通りに機体をフォボスの陰へと突入させた。同時に、火星の軌道制御システムが予期せぬエラーを起こし、追撃艇は一瞬、制御を失った。その隙に、私は火星地下に掘られたガイオスの緊急退避用ドックへと潜入した。


ドック内部は、技術的な混乱の渦中だった。多数の闇の意識に連なる技術者が、シールドと推進システムを懸命に修復しており、その中心には、巨大な「アルテミスの方舟」の骨格が鎮座していた。


「記録保管者!」ガイオスが、疲弊した表情で私を迎えた。彼の体には、ティアマト星での自爆的な介入により、複数の端末が接続され、エネルギーを奪われていた。

「君の身を犠牲にしてまで奪った情報だ」私は言った。

私は、ゼロスから託された最終破壊兵器(マルディーク星の残骸)に関する情報を、直ちにガイオスのメインシステムに投入した。

ホログラムに映し出された巨大な破壊の残骸と、リノスの悪意の統合による新たな意識体の誕生計画を見たガイオスは、静かに頷いた。


「やはり、レドの技術は破壊を選んだか。この最終破壊兵器の軌道を逸らすには、方舟の推進システムと、私が今開発中の『自立共振パルス』が必要だ。しかし、時間が足りない。そして、リノスの追撃部隊は間もなく、この拠点のシールドを突破する。」


ガイオスは、端末を操作し、火星の地下深くにいる避難民との緊急通信を開いた。

「避難民たちよ、最終破壊兵器の衝突は回避が不可能となる状況にある。十日以内に、ティアマト星の運命を決する最終作戦を決行する。この方舟が、真の自立の地へ皆を導く最後の希望だ。」

私たちは、リノスの追撃と最終破壊兵器の衝突という二つの危機を前に、十日という絶望的な時間の中で、方舟を完成させ、最終決戦に挑む準備を始めた。

読んでいただきありがとうございます。

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