1話
タイトル考え付いていないので、後々変更すると思います。
フィオナは久しぶりに袖を通す体操着に違和感を感じながら愚痴をこぼした。
「どうして魔球技大会の練習をしなくちゃいけないの?」
「どうしてって、今までも散々説明したじゃないですか!」
きっちり準備体操まで行うエミリアはフィオナのやる気ない態度に喝を入れるように叫んだ。
「この魔球技大会の結果で、夏期休暇中のお出かけイベントに選べる相手が決まるのよ!」
「それが『カメコン』のルート選択イベントってやつなんでしょ?」
何度も聞いたよとフィオナは面倒気にため息を吐く。フィオナの言う『カメコン』とは、正式名称を『カメリア学園で今夜パーティを』という恋愛シミュレーションゲーム通称乙女ゲームのことだ。エミリアは前世でそのゲームを好んでプレイするイケてない日本人女子であった。
「こっちは前世喪女さまのために日夜あんたが恋愛するために頑張ってるって言うのに!当の本人がそんなでどうするんだ!」
「だってさ、おかしいじゃない」
前世では成人してから十数年、誰ともお付き合いをすることもなく不幸な死を遂げた喪女様であったフィオナがジト目で睨むと、エミリアも少したじろいでしまった。
「夏季休暇中のお出かけイベントに選べる相手が決まる。それは分かったよ。それで、何で私が優勝を狙わないといけないの?」
ゲーム内において、今回の魔球技大会では順位により夏期休暇の夏祭りに一緒にお出かけできる相手が決まるのだ。不参加でルーク。決勝戦にかすらなければハロルドかジョシュア。準優勝でサイラスかコーネリアス。優勝がエルバートとなっているのだが。
「エルバート殿下とは出かける気がないし。と言うか、エルバート殿下は今学園にいないし。こんな練習に何の意味があるの?」
「それは、ほら。もしかしたら優勝したら、繰り上がりでサイラス様とイベント発生になるかもしれないじゃない?」
嘘である。エミリアはフィオナの目下の思い人、知的眼鏡男子のサイラス・バリー・フィッツクラレンスの名前を出して釣ろうとしたが相手の反応は思わしくなかった。
エミリアは今、フィオナの恋愛ルート修正に必死なのだった。悪役令嬢は全く非が無いからこそ断罪も乗り切れるし恋愛も成就するのだが、今のフィオナ様はただの浮気野郎だった。婚約中の身でありながら他の男に現を抜かす最低女へと成り下がっていた。
それをさせてしまったのは他ならないエミリアであった。まさか彼女がイケメンに拒否反応を示す変わり者だったなんて計算外だったのだ。迂闊だったと今は反省している。だから、今回も優勝したら万が一にでもエルバート殿下とのイベントが発生してくれるんじゃないかと言う淡い期待をしていた。
「サイラス様が確実に優勝時のお相手になるかなんて、分からないじゃない」
全くもって仰る通りである。しかし、真意がバレれば今後が動きづらくなってしまうので悟られるわけにはいかない。エミリアは何とか誤魔化そうと必死で頭を回転させた。
「あ。それなら、不参加で良いよ。ルーク様なら、別に普段も昼食を一緒にとってるし、お出かけくらいしても構わな・・・」
「それは絶対にダメ!」
フィオナのまさかの発言に反射的に止めてしまった。しかし、エミリアは今、それだけはどうしても避けたかった。
ルーク・デリック・ピッツ。彼は商家の息子にして遊び人、関係を持った女子は数知れない百人切りの攻略対象No.3であるのだが、今個人的に一番避けたい人物であった。
なぜかルークは、フィオナとエミリアに秘密の花園めいた妄想を駆り立てられているらしいのだ。彼の中で2人は仲睦まじい友人以上の親密な関係にされている。
「(別に前世で、そういうのに否定的な考え方じゃなかったけど!)」
自分が対象となってしまうと話は別である。エミリアは前世も今世もカッコいい男の子が大好きである。イケメン万歳である。決して、そういう趣味はない。
「へぇ。そっか、ルーク様だけは絶対にダメなのね?エミリアは嫌なのね?」
だからフィオナにも近づいてほしくなかったのだが、そんなエミリアの心中など気づかないまま、なぜかニヤニヤと変な笑い方をされてしまった。エミリアがこの笑みの真相に気付くのはもう少し先の話である。
「そうなると、適当に参加だけしてジョシュと出掛けようかな」
フィオナが無難な選択だと言わんばかりにそう言った。と言うよりも、初めからそのつもりだったのではないかという物言いだ。
しかしながら、エミリアも考えた。この2人がよく一緒にいるところを見かけるが、大概ジョシュアの兄上でもあるエルバート殿下への嫌がらせを考えているばかりだ。2人はどうやら似た者同士なのだ。そう考えると、ここに恋愛フラグなんて立ちそうにないし、エルバート殿下も弟と婚約者が仲良しって言う図式は悪くないことかもしれない。
「まぁ、それが妥協策か。半分の確立でハリールート突入の博打だけどね!」
「え!?」
落としどころを見つけたつもりで冗談を飛ばしたら、フィオナは途端に顔色を失った。エミリアがルークを避けたいのと同じ様に、ハリーことハロルド・エドウィン・ガザードはフィオナが今最も避けたい人物であった。
彼は清廉潔白の少女である自分のケツと乳に触れたのである。決してわざとではなかった。『カメコン』においてハロルドは恋愛を進めるためにある属性が設定されていたのだ。それはラッキースケベという、自分の意思に関係なくちょっとエッチなハプニングを起こしてしまう属性である。まぁ、そんな事情はプレイをしたことのあるエミリアくらいしか知らないのでハロルドもフィオナも奇跡的な偶然の事故としか思っていないのだけれど。
しかし何であれ、偶然ではあっても触ったのである。気まずすぎてフィオナは顔すら合わせたくないのだ。
「(万が一に、ルートが発生したら!?)」
そんなの耐えられない。想像しただけで胃が痛んでくるようだった。フィオナはそんな想像を振り払うようにエミリアの両手を掴んだ。
「エミリア、仕方ない!」
「はい?何、どうしたの?」
「準優勝か優勝を目指そう。そうすれば、サイラス様か兄上のどちらかにはきっとルートが突入するよね?」
思い人のサイラス様と安パイの兄、コーネリアス・ロジャー・ボイル。どちらに転んでも痛くない選択肢である。フィオナはもうそこを狙うしか他になかったのだ。
「運動は苦手だけど、私、なんとか頑張ってみる」
「フィオナ様!それじゃ、がんばりましょうね!」
かくして、魔球技大会に向けての猛特訓が始まるのだった。




