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淡いとうめいのざくろ色の水に、ぼくは手をゆっくりとひたした。

ちゃぷん、とゆらゆらした音が鳴って、世界全体が共鳴する。

「くらあい」

「くらあい」

「こわあい」

遠くで、あのこがつぶやいている。

痛い、いたいとこころが叫ぶ。

くらやみのなかで、視力がないぶん聴覚が発達したのだろうか。

いつもはきこえない、自分のこころの声までがまっすぐに響いてくる。

「あ」

そうつぶやいたとたん、ぼくはざくろ色の水の中に、なにかひかるものを見つけた。

くらやみのなかで、それだけがまぶしくひかりかがやいている。

ひとさしゆびと、くすりゆびで優しく、夜店の金魚を掬うようにぼくはそれを掬いあげた。

ぽたり、ぽたりと腕をつたってざくろ色の水がしたたって、おちる。

ふと耳をすますと、あのこの声はきこえない。

ただひゅるる、と風がぼくを感情もなくすり抜けていくだけだ。

「みどり」

ぼくが掬ったのは、どうやら指輪のようだった。

さきっぽにちいさな緑色のきれいな石がくっついている。

「らぴすらずり」

その石の名をつぶやいてやると、石はまた、きらきらと喜ぶように輝きをましていった。

「…こわして」

急に、やんでいたあのこの声がまたくらやみから聞こえてくる。

声は風にかきけされ途切れとぎれでよくわからない。

「して…こわして…壊して!」

その声はだんだんと大きくなった。

これを、壊せといっているのだろうか。

まるで意思をもつかのように、らんらんとひかりかがやくこの石を。

「どうして」

「…こわして…こわして…」

声はぼくの問いには答えずに、ただただ嘆願するばかりであった。

「…これを…こわせばいいの?」

「…」

返事はない。

ぼくは深呼吸をしてから腕をおおきくふりあげて、一気にそれを床に打ち付ける。

刹那、ぱりんと何かが壊れた音がした。

そしてそこからあまりにもつよい緑のひかりがあふれだして、ぼくは目を開けていられなくなった。

「…うわ…」

だんだんと、意識がうすらいでいく。

消えゆく意識の中で、誰かがぼくに、ほほえんだ気がした。





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