本物の聖女と偽聖女
「――ねえ、ジュリアン様。コレット様って、本当にお堅くてつまらないおばさんですこと」
静まり返った王太子の寝室。
真紅のシーツの上で、私はジュリアン様の逞しい胸板に爪を立て、甘く、けれど軽蔑をたっぷりと含んだ声を漏らした。
昨夜も遅くまで、私の「夜のフルコース」で彼を何度も昇天させてあげたばかりだ。ジュリアン様はすっかり私に骨抜きにされ、もはや私の存在なしでは一日として正気を保てないほどに依存しきっている。
「ああ、まったくだ……。あいつは、国費の無駄遣いだの、王室の義務だの、口を開けば小言ばかり。私の隣にいるべきなのは、私をこうして、とろけるような快楽で満たしてくれるエルザ、お前だけだ」
ジュリアン様はまだ微かに熱を持った私の腰を、愛おしそうに引き寄せた。その目は完全に濁り、私の甘い毒に犯されている。
「嬉しいですぅ。でも、私、心配なんです。先日、コレット様が『殿下はエルザという女に惑わされ、国費を貢ぐのはおやめください』と、たくさんの家臣たちの前で殿下を諌めたのでしょう? 私、それを聞いて、殿下のプライドが傷ついてしまわなかったか、夜も眠れなくて……」
「何……? 私のために、そこまで悩んでくれていたのか、エルザ」
ジュリアン様は怒りと愛おしさが混ざり合った表情で、私の頬を両手で包み込んだ。
「気にするな。あの女はただ、自分が私に愛されない嫉妬から、お前を陥れようとしているだけだ。私を衆目の前で愚弄した罪、万死に値する」
「まあ、コレット様が嫉妬なんて……ふふ、でも、少しだけ可愛いところもあるのですね。私のような愛らしい女になりたくて、必死なのでしょうか」
私はくすくすと笑いながら、ジュリアン様の首筋にそっと歯を立てた。チクリとした痛みに、彼は「ひぅ、んっ……エルザ、お前は本当に、悪戯っ子だな……」と、甘ったるい喘ぎ声をあげる。
「だって、殿下がコレット様のことばかり考えるのが嫌なんですもの。……ねえ、ジュリアン様。コレット様がそんなに偉そうにできるのって、お仕事があるからでしょう? でしたら、私がお手伝いしてあげたらどうかしら」
「お手伝い? エルザが、あの女の仕事をか?」
「ええ。私、魔力は少ししかありませんけれど、神殿の細々としたお仕事ならできますわ。例えば……そう、コレット様がいつもお使いになっている『聖歌隊の編成権』や、『神殿の予算管理』を、私に分けてくださればいいのです。そうすれば、コレット様の負担も減りますし、殿下も私の頑張る姿を近くで見られますよ?」
私は上目遣いで、極上の甘え顔を作った。
もちろん、仕事を手伝うつもりなどサラサラない。ただ、コレットの神殿内での権限をじわじわと奪い取り、孤立させるための布石だ。
「なるほど……! それは名案だ。コレットから実務を奪い、神殿内での発言力を削ぎ落とす。エルザ、お前は本当に賢いな」
「ふふ、殿下のお役に立ちたい一心ですぅ。……じゃあ、ご褒美に、もっと私を気持ちよくしてくださいな?」
私はジュリアン様のパジャマのズボンの中に、容赦なく熱い手を忍び込ませた。
すでに固くなり始めている彼のモノを愛撫すると、ジュリアン様は「はぁっ、あ、エルザ、お前、さっき終わったばかりだというのに……! あ、ぅぐっ、そんなに、締め付けられたら……っ」と、再び理性を失って私にのしかかってきた。
シーツの上で、私たちは昼近くまで愛を貪り合った。
ジュリアン様が私の奥深くで「あ、あ、出す、エルザ、お前の中に、すべて……っ!」と喘ぐたびに、私は勝利の美酒を脳内で煽るのだ。
◇ ◇ ◇
数日後。
私の「おねだり」通り、ジュリアン様の命令によって、神殿の実務の多くが私に移譲されることとなった。
神殿の廊下でコレット様と出くわした時、私はこれ以上ないほど意地悪な、勝ち誇った笑みを彼女に向けた。
「コレット様、ごきげんよう。殿下のご配慮により、これからは私が神殿の一部を管理することになりましたの。コレット様は、お年を召されていますから、少しはお休みになられた方がよろしいかと思いまして。ふふ、特にお気に入りの聖歌隊は、私の趣味で全員若い男の子に入れ替えちゃいました」
実質的な嫌がらせだ。コレットが長年大切に育ててきた聖歌隊の少女たちを全員クビにし、私のハーレム用の美少年たちを詰め込んだのだ。
さらに、彼女の私室を神殿の最奥にある薄暗い「物置部屋」へと強制的に変更する手続きも済ませてある。
並の令嬢なら、悔しさのあまり泣き出すか、ヒステリックに怒鳴り散らす場面だろう。
けれど、コレット様は相変わらず、表情一つ変えなかった。
彼女は手に持っていた古い魔導書をそっと閉じ、ただ静かに、私を冷たく見下ろした。その瞳には、私の言葉など一切届いていないかのような、底知れない「深淵」があった。
「エルザ。あなたが何をして、殿下に何を囁こうが、私の知ったことではありません。……ただ、これだけは警告しておきます」
コレット様の声は、低く、神聖な静寂を伴っていた。
「国の結界を維持するには、神聖魔力の循環が必要です。それを怠れば、遠からずこの国は魔獣の餌食となるでしょう。あなたが殿下と夜な夜な貪っている『一時的な蜜』が、この国を滅ぼす毒であることに、なぜ気づかないのですか」
「あら、そんな脅し、私には通用しませんわ。結界なんて、殿下が新しい魔石を国費でたくさん買い込んでくだされば済む話ですもの。コレット様こそ、私を羨むあまり、そんなみっともない嘘を吐くのはおやめなさいな」
私はフンと鼻で笑い、彼女の肩をわざと強くぶつけて通り過ぎた。
「お堅いおばさん。殿下は夜、私のことを『私のすべてだ』って言って、何度も何度も求めてくださるの。あなたの冷たい説教なんて、もうあの人の耳には届かないわ」
去り際に、耳元で吐き捨てるように囁いてやった。
コレット様はやはり、怒ることもなく、ただ一言、ぽつりと呟いた。
「――そう、ですか。後悔なさいませんよう」
その冷ややかな、まるで私の死期を予言するかのような響きに、私は一瞬、背筋がゾクリとするのを感じた。
けれど、すぐにそれを頭から振り払う。
(何よ、ただの負け犬の遠吠えじゃない。力があっても、男一人引き留められない無能な女が!)
私にはジュリアン様という、絶対的な盾がある。
そして、彼を縛り付けるための、極上の肉体とあざとさがある。
あの本物の聖女が、どんなに清らかに祈りを捧げようとも、私がシーツの上で一度甘えるだけで、その祈りはすべて泥の中に打ち捨てられるのだ。
「待ってなさい、コレット。あなたをその神聖な玉座から、一番惨めな方法で引きずり落としてあげるから」
私は暗い神殿の廊下で、ウサギのような愛らしい瞳を邪悪に細め、クスクスと不敵に笑った。
◆◆◆
「――ん、ふ、あ……ジュリアン様、すごいですぅ……っ。今日も、そんなに激しく私を求めてくださるなんて……」
王宮の執務室。神聖な国務を執り行うはずの机の上で、私は上半身の衣服を乱し、ジュリアン様に組み伏せられていた。
昼間だというのに、彼は私の甘い香りと、太ももを絡めるあざとい愛撫に理性を狂わせ、獣のように息を荒くしている。
「はぁ、はぁっ……エルザ、お前が、お前が愛しすぎるのがいけないのだ……っ。コレットとの退屈な会議の後だ、お前のその、甘くて、柔らかい肌に触れていないと、私はどうにかなりそうになる……!」
「ふふ、お疲れ様です、私の大切な殿下。あの鉄仮面のお説教、今日も長かったのですね。可哀想に……。よしよし、私がたくさん気持ちよくして、癒やして差し上げますからね?」
私は彼の頭を胸に抱き寄せ、その耳元にそっと舌を這わせた。
ジュリアン様は「ひぅ、んあ……っ!」と情けない声を漏らし、私の豊かな胸に顔を埋めて貪るように吸い付いてくる。
国務の書類が床に散らばるのも気にせず、私たちは机の上で淫らな音を立てて絡み合った。
私の指先が彼のシャツの下に入り込み、背中を強く引っ掻く。
ジュリアン様は狂ったように腰を突き入れ、私の奥深くに熱い塊を叩き込んできた。
「あ、あ、あああっ! エルザ、エルザァ! お前こそが私の聖女だ! あいつ(コレット)など、お前の足元にも及ばない……っ!」
「ひゃうっ、は、はいぃ……っ! 私は殿下だけの、可愛いお人形ですぅ……っ!」
何度も繰り返される、脳を溶かすような絶頂。
事切れたように私にすがりつく王太子を見下ろしながら、私は彼の耳元で、甘い、甘い猛毒を囁き始めた。
「ねえ、ジュリアン様……。私、実はコレット様に、とっても悲しいことをされてしまったのですぅ……」
「何だと……!? あの女、またお前に何かしたのか!?」
ジュリアン様はすぐに体を起こし、怒りに目を血走らせた。よし、この怒りの温度こそが、私の最大の武器だ。
「コレット様が大切にしていらっしゃる、あの神聖な金色のロザリオ……。神殿の創設期から伝わる、とても価値のある聖遺物だそうですね。私、コレット様のお役に立ちたくて、あのロザリオを綺麗に磨いて差し上げようとしたのです。そうしたら……」
私はまた、大粒の涙を瞳に溜めて、おろおろと震えて見せた。
「コレット様に『薄汚い偽物が、神聖な聖遺物に触れるな』って、冷たく突き飛ばされてしまって……。私、畳に頭をぶつけてしまって、とっても痛かったんですぅ。それに、私を突き飛ばした拍子に、コレット様ご自身の手で、あのロザリオの鎖がちぎれてしまって……」
もちろん、全部真っ赤な嘘だ。
実際には、コレットが大切に持っているそのロザリオ(コレットの亡き母の唯一の形見でもある)を見つけ、私が面白半分に奪い取り、床に叩きつけて踏みにじって壊したのだ。
泣き崩れるコレットの顔を見て、私は脳汁が出るほどの快感を味わった。だが、ジュリアン様への報告は「私が被害者」でなければならない。
「何ということだ……! あの傲慢な女、私の大切なエルザに暴力を振るうだけでなく、神殿の聖遺物まで自ら破壊したというのか! 許せん、絶対に許せん!」
「ジュリアン様、私、怖いです……。コレット様は国を護るお仕事があるから、何をしても許されると思っていらっしゃるの。私みたいな弱い女は、コレット様に逆らったら、いつか本当に殺されてしまうかもしれませんぅ……。ねえ、殿下、私を助けて……?」
私はジュリアンの首にすがりつき、彼の太ももを自分の足でゆっくりとなぞりながら、最大の甘え声を出した。
「私が……私が聖女になれば、もっと殿下を一日中、こうして気持ちよくして差し上げられます。結界なんて、コレット様がいなくても、殿下が国費で魔石をたくさん買って、国境に埋めればいいだけじゃないですか。コレット様は、殿下を苦しめるだけの邪魔者です。……ねえ、殿下。あの女を、早く捨てて?」
私の「おねだり」は、ジュリアン様の残ったわずかな理性を完全に粉砕した。
彼は私のあざとい肉体と、都合の良い甘い囁きに支配され、コクコクと狂ったように首を振った。
「ああ……そうだ。エルザの言う通りだ。結界など、魔石を埋めれば済む話。あんな可愛げのない、暴力を振るう偽聖女など、我が国には不要だ。私がコレットとの婚約を破棄し、お前を新たな王太子妃、そして国の筆頭聖女に据える。エルザ、お前が私の隣で、この国を支配するのだ!」
「まあ……! 嬉しい! ジュリアン様、大好きですぅ……っ!」
私は彼に飛びつき、その唇に激しい口づけを贈った。
その裏で、私はコレットの絶望する顔を思い浮かべ、極上の愉悦に浸っていた。
(あはは! 聞いた? コレット。あなたが必死に守ってきた『聖女』の座も、お母様の形見も、全部私がめちゃくちゃにして奪い取ってあげたわ。国中の人間が、私のあざとい笑顔と、この淫らな体にひれ伏すのよ!)
何の魔力もない私が、あざとさと寝技だけで、ついに一国の頂点へ。
完璧な勝利へのカウントダウンが、今、始まったのだ。
第4話へ続く。




