嘘つき聖女
これは、二人の聖女の争いの物語。
コレット・フォン・アルベルト。
由緒正しき公爵令嬢であり、神に選ばれし強大な魔力で国境に結界を張る、この国の「本物の聖女」。そして、王太子ジュリアンの美しき婚約者。
そして物語のヒロイン、
エルザ。
魔力は一般人並み、神への信仰はゼロ。神殿で雑用をこなすだけの、卑しい平民上がりの「見習い巫女」。
身分、能力、品格。そのすべてにおいて、二人の間には天と地ほどの差があった。
――本来であれば、交わるはずすらなかった二つの運命。
しかし、神殿の片隅で泥水をすすっていたはずの偽物は、自らの内に眠る唯一にして最強の才能に気づいていた。
男を狂わせる「あざとさ」と、骨の髄まで溶かす「夜の技術」。
以下、何一つ持たない偽聖女が、その肉体と嘘だけで王太子を寝取り、本物の聖女からすべてを奪い取ろうとした、愚かな愛欲の記録を記す。
◇ ◇ ◇
「――エルザ、あ、う、お前は本当に……私の、心を安らげてくれる、唯一の、存在だ……っ」
耳元で途切れ途切れに囁かれる、熱を帯びた吐息。
私の腰をミミズ腫れができるほど強く抱きすくめる逞しい腕は、この国の次期最高権力者である王太子、ジュリアン様のものだ。
天蓋付きの豪奢なベッド、乱れた絹のシーツの上で、彼はプライドも何もかも投げ捨てて、子どものように私の胸に顔を埋めて荒い息を吐き散らしている。
私は彼の湿った金色の髪を優しく撫でながら、これ以上ないほど甘く、とろけるような声を紡ぎ出した。
「嬉しいです、ジュリアン様。私、ジュリアン様がお辛そうな顔をされているのを見るのが、一番悲しいのですもの。私のようなしがない見習い巫女が、殿下のお役に立てるなんて……まるで夢のようですぅ」
「見習いなどと……っ、自分を卑下するな。お前こそが、私の傷ついた心を癒やす、本物の聖女だ……。あ、はぁ、エルザ、お前のそこ、どうして、そんなに……っ」
その言葉に、私は心の中で思いっきり吹き出しそうになるのを必死でこらえた。
(あはは! 本当に馬鹿。ちょろすぎる。この男、本当に一国の王太子なの?)
そう、私はエルザ。
神に愛された本物の聖女、コレット様の足元にも及ばない、ただの見習い巫女。
魔力? そんなもの、街の安食堂のコンロに火をつける魔石以下。
神への信仰心? あるわけがない。あんな目に見えないものに祈る暇があったら、自分の肌を磨く泥パックの時間を増やした方がマシよ。
けれど、私には「本物の奇跡」よりもずっと役に立つ、最強の武器がある。
男なんて、どれだけ高貴な身分だろうが、中身はただの獣。
ちょっと泣きそうな目で見つめて、「殿下、私、怖いですぅ……」と怯えて見せ、いざベッドに入れば彼らが想像もしないような「極上の奉仕」を叩き込んであげる。
それだけで、どんな堅物な王子様だって、私の足元に跪いてハアハアと喘ぐ従順な犬に成り下がるのだ。
「ジュリアン様、そんなに硬くなって……ふふ、私のこと、そんなに求めてくださるの? 嬉しい……」
私は彼の耳朶をちろりと舌先で濡らし、ふう、と熱い息を吹きかけた。それだけで、ジュリアンの肩がビクッと大きく跳ね上がる。
「ひ、うっ……エルザ、お前……っ」
「いいですよ、もっと力を抜いて、私に全部あずけてくださいね?」
そう囁きながら、私は巧みに彼をシーツへ押し倒した。王太子をベッドの上で『下』に敷く。この背徳感だけでも、男にとっては極上のスパイスなのだ。
私は彼の引き締まった腹筋を指先で愛撫しながら、滑るように下へと手を伸ばしていく。
男を狂わせる最初のテクニックは、決して焦らないこと。じらすように、けれど確実に急所へと迫る。
彼の熱源を手のひらで包み込むと、ジュリアン様は「は、ぅあ……っ!」と、およそ社交界では決して出さないような、情けない艶声を上げた。
「あ、つい、だろう……? エルザ、早く、お前の、温かいところで、私を……」
「だめですよぉ、まだそんなに急いじゃ。ほら、ここがこんなにピクピク震えて……可愛いですね、ジュリアン様」
私はいたずらっぽく微笑み、指先で先端を軽く弾くように弄んだ。同時に、濡れた太ももを彼の内腿にそっと擦りつける。
男は「じらされている」という事実そのものに興奮し、私の指の動き一つに支配されている感覚に陶酔していくのだ。
And、私の真骨頂。
おねだりするように上目遣いで彼を見つめながら、彼のペニスにゆっくりと唇を寄せた。
「ん、むぅ……れ、あ……」
あえて濡れた音を大きく立てながら、包み込むように吸い上げる。
ただ咥えるのではない。舌の裏側の柔らかい部分を巧みに使い、ジュリアン様が最も敏感な筋の部分を執拗に、優しく、時には強く押し潰すように指で固定しながら這わせるのだ。
さらに、空いた手で彼のふたつの秘球を優しく転がすように揉みほぐす。
「ひ、ぐっ……あ、あああ! エルザ、それ、は、だめだ、頭が、おかしくなる……! あぁっ、はぁ、はぁっ!」
ジュリアン様はシーツを強く掻きむしり、腰を浮かせて悶え始めた。
彼の端正な顔は歓愉に歪み、目元は涙で潤んでいる。この至高の支配感。国で一番偉い男が、私の口元ひとつで狂わされている。
「ん、ぷは……っ。ふふ、まだ行っちゃダメですよ? ちゃんと、私の中で気持ちよくなってほしいですもの……。ね?」
私は口の端から溢れた蜜を指で拭い、それを自分の太ももの間に塗り拡げた。
そして、彼が待ち望んでいた「神聖な交わり」へと移行する。
ゆっくりと、けれど確実に彼を私の中に迎え入れながら、私はわざと大袈裟に、けれど最高に可愛らしい声をあげて彼の首にしがみついた。
「ん、あぁ……っ! ジュリアン様、すごいです、おっきくて……私、壊れちゃいそう……っ!」
「は、はぁ……っ、エルザ! お前の中、どうしてこんなに……あ、熱くて、私を締め付けるんだ……! 離したくない、このまま、お前を、融かしてしまいたい……っ!」
ジュリアン様は我を忘れて激しく腰を振り始めた。
私は彼の動きに合わせて、体内の筋肉を細かく「締め、緩める」という高度な技術を繰り返す。
男のモノを根元から先端まで這うように締め付けるこの技術は、どんな男も一撃で虜にする。
さらに、彼の耳元で「ひゃう、あ、そこ、すごいですぅ!」「もっと、もっと激しくしてぇ……っ!」と、喘ぎ声をこれでもかと浴びせかける。
「ああ大! エルザ、エルザァ! お前は、私の、私のものだ……っ! はぁ、あ、あ、出す、出すぞ……っ!!」
ジュリアン様は私の体を壊さんばかりに強く抱きしめ、何度も激しく腰を突き入れた。
そして、「う、おおぉぉぉっ!!」という野太い、けれど甘い喘ぎ声と共に、私の奥深くに熱い生命を何度も注ぎ込んできた。
しばらくの間、二人の荒い呼吸の音だけが、豪奢な寝室に響き渡る。
ジュリアン様は精も根も尽き果てたように私の上に覆いかぶさり、心地よさそうに目を細めていた。
「エルザ……お前は本当に、私のものだな……?」
「はい、ジュリアン様。私は殿下だけの、可愛いウサギさんです。殿下のお優しい愛で、いつもいっぱいにしてくださいね……?」
私は彼の胸に顔を押し当て、声を押し殺して泣くフリをしながら、暗闇の中で冷たく笑った。
(あはは、これで完全に縛り付けたわ。もうこの男は、私の体なしでは生きられない。あの鉄仮面のコレットに、こんな真似ができるわけないものね)
本物の聖女コレット。
彼女は確かに優秀だ。国のために身を粉にして働き、民を魔獣の手から守っている。
けれど、女としては「最悪」の部類に入る。
常に背筋をピンと伸ばし、表情一つ変えず、正論ばかりを口にする。
ジュリアン様が少し公務をサボろうとすれば、「殿下、王位継承者としての自覚をお持ちください」と冷たくたしなめる。
夜の営みだって、きっと「神聖な儀式ですから」とか言って、服もまともに脱がずにマグロのように寝転がっているだけに違いない。
男がそんな「お堅い鉄仮面」を愛するわけがないのだ。
男が求めているのは、自分を全肯定して、甘えさせてくれて、夜になれば淫らに乱れて自分を天国へと導いてくれる「可愛い雌」なのだから。
「殿下、そんなにコレット様を悪く言わないでください。コレット様は国を護る素晴らしい聖女様ですもの。私みたいな、ただ可愛いだけしか取り柄のない女とは違うんです」
「ただ可愛いだけだと? とんでもない! エルザ、お前のその愛らしさ、私の言葉を素直に受け入れてくれる純真さこそが、何よりも尊いのだ。コレットには、爪の垢ほどの可愛げもない。あんな女、義務でなければ顔を見るのも忌々しい!」
ジュリアン様はまだ火照った体を私に擦りつけながら、吐き捨てるように言った。
(ふふ、言ったわね、ジュリアン様)
私は彼に見えないよう、最高の笑みを浮かべた。
すでにジュリアン様の心も、そして肉体も、コレットから完全に離れている。
あの冷たい鉄仮面が、どんなに国のために尽くそうとも、婚約者である王太子の体と心がここにある以上、彼女の敗北は決定しているのだ。
「ねえ、ジュリアン様……。明日の夜も、私、殿下をたくさん気持ちよくして差し上げますね? だから……明日もコレット様じゃなくて、私のところに来てください……?」
「ああ、もちろんだ。明日も、明後日も、私はお前のものだ、エルザ……」
ジュリアン様は私の首筋に甘えるように顔を寄せ、再び浅い眠りへと落ちていった。
私は彼の背中を優しく叩きながら、暗闇の中で冷たく笑った。
(よく見ておきなさいよ、コレット。あなたが汗水垂らして、お堅い聖女様を演じている間、私はこのベッドの上で、あなたの未来も、王太子妃の座も、聖女の称号も、すべて奪い取ってあげるんだから)
こうして、哀れな王太子を甘い毒と極上の夜の技術で骨抜きにした私の、華麗なる略奪劇の幕が開いたのだ。
第2話へ続く。




