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08 夢想交友/無双戦機:Ⅱ

 マルレ乗りは死ぬ。


 死んではじめて戦歴が始まるくらいのもので、あとは再製回数が物を言う。何しろクローン人間も強襲索敵艇も製造にそれなりのコストがかかる。死んでも死んでも再び戦わされるやつは、コストをかけるだけの価値を軍に認められているんだ。


 今回、俺たちは殊勲部隊だから。


 第二小隊「白兎」の隊員は漏れなく再製された。新型DeFAを足止めしたと高く評価されてのことだと聞いてる。昇進した者すらいる。


 それで全てを納得できる……そんなはずもないけれど。


「うお、そこで前へ出るのかよ。安地もねえのに」

「早回しなんだろうけど、あそこでやるかねえ」

「フウン? 今の操作は無茶なんだね? そんな気はしたんだ」


 スクリーンに投影された画面をチラと見て、すぐまたプレイに集中。いや、少しも集中していないか。ほとんどルーチンワークだ。


 ASUKAインフィニティ……飛鳥無限って、平成の頃のゲームなんだよな。


 自機のパワーアップ要素がなく無敵ボムもない、いぶし銀な縦スクロール型シューティングゲーム。フィールドが手前と奥の二層構造となっているのが特徴だ。


 中学校の昼休み、友達に旧型携帯ゲーム機ごと貸してもらってやりこんだ。やればやるほど上手くなるのが面白かった。皆のやるアクションゲームは装備の性能差が露骨で、課金どころか自前のゲーム機のない俺には敷居が高かった。


「詰む、詰む……切り返した! マジかよ矢城」

「あれで嘘避けじゃないんだよなあ……これだから矢城は」

「素人である僕の目から見ても異常な動きだ。なるほど矢城くん」


 ターゲット破壊。豆鉄砲でもチマチマと当て続ければ倒せるというのはいかにもゲームだ。甲殻イソギンチャクは熱核融合弾頭を叩き込んでも落とせやしない。


 味方の砲撃で殺されることもない。操舵を奪われることもない。


「うっわ、あのスコアであの表情だよ」

「ミッションタイム最長設定で八周だぞ。すげえ集中力」

「おや、もうこんな時間か。軽く様子を見るつもりだったのに」


 物足りない。強敵がほしい。あの新型のような、ギリギリの駆け引きを必要とする敵とのシミュレートがしたい。


「静かにしてください。先輩がプレイ内容を省みてます」

「そ、そうだね。ごめん黙ります……姫怖え……」

「……七井姫の矢城信仰は相変わらずだなあ」

「やっぱり姫扱い……でも想像していたのとは違うな……フフ、ストイックだ」


 さて、ゲームパッドを置こう。平和な時代の日本を模したこの場所で、サークルが定めたところの挨拶をしよう。


「ただいま戻りました」

「ご苦労様です! 全一!」


 皆で敬礼ポーズ。現実のそれは帽子を前提としたこんな勇ましいものではなく、肩の軍籍番号に触れる服従のポーズだ。


 こっちの方がいい。バカバカしくて、いい。


「お疲れ様です、先輩。素晴らしい機動でした」

「ん。まあまあだ」

「おや、つれない態度だね。折角七井さんが褒めているのに」

「んん? 何でいるの……ええと……シクなんとか。シクマル?」

「斬新な間違い方だね。紫呉だよ。君はゲームが上手なんだねえ」

「……部外者が評価しないでください。失礼です」

「やあ、七井さん。僕は褒めたのだけれど?」

「シューティングは真剣に取り組むべきものです」

「ああ、こういうのもシューティングゲームなんだ。僕もFPSはやるからね」

「これが元々のシューティングです。そんなことも知らないで」

「どちらにせよゲームはゲームさ」

「そうやって遊びと軽んずるような人が……」

「遊びだよ、七井」

「え……先輩?」

「ゲームだ。楽しい遊びでいいんだ」


 携帯が震えている。スマートフォンを再現すればいいものを、何のつもりかガラパゴスタイプのこれ。


「あ、あの、先輩……」

「次は七井の番だな。ハイスコア順だし」

「はい。今日こそは先輩のスコアに迫ってみせます」

「頑張れ……右舷後方、低層からの敵に気をつけろよ」


 きょとんとした顔を見切って、扉へ向かう。


「先輩、どこへ」

「呼び出しを喰らった」


 講義サボって飛び出したからかも、と嘘をついた。廊下を行き交う学園生に交じってエレベーターに詰め込まれる。七階には図書室がある。その奥の教務室へ。


「矢城くんですね。こちらへ」


 いかにもそれらしい人相風体と立ち居振る舞い。AI制御の教務員たちは、俺というイレギュラーを常に監視している。


 さて……いつもながら暗い部屋だ。悪の秘密結社が好みそうなところだから。


「ヒヒヒ、まあた不景気そうなツラしてんなあオイ」


 こいつが待っているわけだ。


 小学校低学年といった見た目とゴシックロリータのファッション。悪趣味なアバターだ。幼さを装ったところで、表情には老いた悪辣さがにじみ出ている。


「どうせ仮想現実なんだ。適当にパコりまくって憂さを晴らしてりゃいいもんを、ヒッヒ、戦闘訓練に明け暮れるとかマゾかよオメエ」

「八四六番斥候准尉、出頭いたしました……金閣寺閣下」


 修学旅行先のような名前はどう工夫しても数字で表せない。それがつまりは「有権者」であることの証左だ。


「見るも哀れな敬礼なんざやめろ。座れやクソガキ」


 座れるものじゃない。相手は環太陽系連邦政府お抱えのエリート科学者にして、要塞においても少将待遇の技術将校だ。直立不動で壁を見る。


「……フン。面白みのねえヤツだ。ブレザー姿でよ?」


 視界の端にチラチラと光るもの。医療メス。わざとらしく手遊びしやがって。


 要塞にあるこいつの研究室には、最初の俺……この時代に目覚めたばかりの俺の標本が飾ってある。見せつけられた直後にまた殺されて、心底から思い知った。


「そういやオメエ、先だっての戦でよ、まあた突破を成功させたそうじゃねえか」


 こいつのオモチャだ、俺は。生殺与奪の権を握られていて。


「主力艦隊の方は乾杯してたもんだが、特殊戦略軍の方じゃ怒号が響いてたぜ? 連中、久方ぶりに『次元震動爆弾』を炸裂させるつもりだったからな。それこそタマヤカギヤってなノリでよお」


 ケラケラと鳴る笑い声。マッドサイエンティストめ。


 きっとそんな風に、モルモットを迷路に閉じ込めたり解剖したりするんだろう。俺を戦場に落としたり再製したりするようにして。


「いっそオメエも死んでりゃあ、ちょっとした検証ができたんだがなっ」


 メスが頬をかすめていった。それが壁にぶつかった派手な音と、カーペットの床へ落ちた地味な音。鋭い痛みと、血の伝い落ちる感触。


「おお、悪い悪い。本当は肩を狙ったんだ」


 ニヤニヤと近づいてきて、俺の頬をひと撫で。それで血も傷も消える。手品でも魔法でもない。ただ仮想現実のデータが書き換えられただけのこと。


「さあて、と。感謝しろ。今日はオメエにいい話を持ってきてやったぞ?」


 再び椅子にふんぞり返ったこいつには、老人どもには、俺たちの地獄もある種のエンターテイメントなんだろう。数字で競う戦略ゲームや何かのような。


 もう、それに憤る気力もない……そのはずなのに。


 どうして俺は拳を握っているんだ。震えるほどの力を込めてまで。

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