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11 夢想交友/無双戦機:Ⅴ

 迫り来るミサイル群へ向かって、加速。


 直進回避。アクティヴホーミングの混乱を背にして旋回、撃破目標を射程内へ。中距離ミサイルを選択。シーカーオープン……一秒、二秒、三秒……遅い。


 警告音。またレーダー照射を受けている。


 サイドスラスター乱噴射。進路そのままにスライド移動。上下左右不規則に思うままに……クソ、身体が振られるな。操舵がブレるったら。


 電子音。ようやくだ。ミサイル四発を同時発射。試験用模擬弾が飛んでいく……命中判定。よし。船体をロール。発射ガスを振り払ってからインメルマンターン。視界が歪む。吐き気を噛み潰す。


 前方、ミサイル砲台は六台。動きは遅いが直掩機をそれぞれ三機随伴している。コバエのように飛び回る浮遊砲塔。宇宙サソリを完封するその性能。


 ドッグファイトスイッチ、オン。


 メインスラスター、出力七割。高速機動。ガトリング砲発射。ペイント弾を命中させいく。一機、二機、三機目はスルー。照準が間に合わなかった。急旋回して再攻撃……横合いからぶつかっていくビームアタックの形勢……クリア。


 さて、砲塔本体へは新兵装を試さなければ。


 相対位置を調整。砲身へ電力を供給して発射準備……おいおい、メーター表示が瞬いたぞ……照準……微調整……ここだ。発射。


 命中。一撃で破壊判定とは随分な高威力だ。


 九十ミリ電磁加速単装砲か。宇宙駆逐艦にも使われている兵装だけれど。


 良くないな。取り回しに癖がありすぎる。敵群を突破する際には使えない。とはいえ突入前の牽制ならば中長距離ミサイルが、近接での目くらましなら短距離の多連装弾頭ミサイルがある。つまりはこいつの使い所はない。


 ……いや、機動アオナギに対してならば有効か。


 あれは強襲索敵艇のような機動をする。それはつまりミサイルを回避する性能があるということだ。電磁加速砲の弾速は強みになる。


「八四六番、第十七次性能試験完了。これより帰投する」


 自動操舵モード。指をストレッチ。バキバキ鳴るな。こうも強張るほどに気を使わないといけないんだから、まったく、テストパイロットというやつは。


「お疲れ様です、准尉。素晴らしい機動でした」


 ナナイ。どっかで聞いたような言葉だな。


「これまでのテストでもわかってはいましたが、やはり総合テストだとはっきりしますね。新機体の戦闘能力は従来のそれを大きく凌駕します」

「うん。かなりのものだな。強襲索敵艇って、言ってしまえば人力で軌道修正する巡行ミサイルみたいなところがあるから」

「有人ミサイル、ですね」

「DeFAを誘引するデコイを兼ねての、な」


 敵群はレーダーを阻害する。まるで悪意がノイズとなって全てをかき乱すかのように。その背後に潜む敵巣体、甲殻イソギンチャクの位置を特定するために開発されたのが強襲索敵艇で……決死の斥候をさせられるのが俺たちクローン人間だ。


 考案したやつはさぞかし頭のいい悪魔なんだろう。機体も命も消耗品で、数打ちゃ当たるどころか、当たらずとも敵の気を引けばいいという運用なんだから。


 それと引き比べれば、この新機体の特徴もわかろうというものだ。


 老人どもは機動アオナギが怖い。砲撃戦で面白おかしく勝利するため、一匹とて前線を突破させたくない。確実に迎撃させるための性能を突き詰めたならば。


「……こいつは高機動戦闘をやるために造られた初めての機体なのかもしれない」

「強襲索敵艇のハイエンド品ではないと?」

「設計思想からすれば、むしろ制宙戦闘機とでも言ったほうが正解だろう」

「なるほど、格闘戦用の……スラスターの出力もそうですが、この旋回半径には目を見張るものがあります。切り返しも迅速でした」

「軽快かつ大胆に飛べる。兵装も強力といえば強力だ。ただなあ……」


 首を揉みさすった。身じろぎして背も伸ばす。どちらも痛みを伴う。


「……戦闘補助AIですか」

「それだ。対加速度補助といい操舵補正といい、まるで対応できていない。照準まで遅いとなると、処理速度云々ってよりも、システム自体の問題だろう」

「新機体のソフトウェアはハードウェアに最適化できていない?」

「うーん……経験を積ませればまだしもマシになるんだろうけれど……」


 言葉を濁した。ナナイも思うところは一緒だろう。


 このままでは戦えない。クローン人間を使ったコンバットプルーフはままあることとはいえ、これでは使い物になるまでに何度死ぬかわかったものじゃない。


「……さて、次はナナイだな。模擬弾とはいえ、直撃はもらうと危ないぞ」

「はい。准尉の機動をなぞらせていただきます」

「吐くよ?」

「問題ありません」


 問題はない。確かに。俺たちの胃袋には薬剤の他には何も入っておらず、胃液を戻したところで酸素マスク付属のバキュームが吸い上げる。


「現状、准尉の機動は敵群突破のための最適解です。学ぶべきものです」

「突破成功数だけ見ればな。ただし無茶な操舵で艇を壊してもいるぞ」

「兵器の正解は戦わない誰かのものです。しかし、兵士の正解は戦ってる私たちのものでしょう」

「それは、まあ」

「新機体には期待します。そんな准尉のために調整されたものなのですから」


 あっちでも、こっちでも、お前は本当に俺を信頼してくれるよな。俺よりも俺に期待している。気後れするくらいに。


 もしかして激辛の食べ物にすら期待していたのだろうか。未知の美味しさを。


「そろそろ開始位置へ着きます」

「ああ。ほどほどにな」

「いいえ。准尉の僚機として相応しい評価を得てみせます。何としても」

「おいおい」

「それでは。通信終わります」


 そもそも、ナナイは食べる喜びを知っているんだろうか。


 クローン人間としての身体はそれを知らなくとも、オリジナルから引き継いだ記憶の中に、あたたかな食事の思い出はあるんだろうか。


「相応しい評価って、ハイスコアのことか? ゲームみたいにさ?」


 仮想現実などではない、本物の味。そこにしかない、本当の幸せ。


「お前、楽しいって感じること、あるか? こっちだとどんな笑顔なんだ?」


 俺たちクローン人間にとっての救いは、結局のところ、当たり前の日常を取り戻すことなんだろう。今となっては夢よりも夢のような日々……願っても叶うわけがないそれを夢見たところで、虚しさに蝕まれるばかりだけれど。


 中継映像を見る。新型を操るナナイの機動を。俺を模倣したそれを。


 速い。前へ前へと突出することで敢えて選択肢を少なくしていく。あれもこれもなんて可能性は期待よりもむしろ不安が増すばかりだから、これっきりというものを求める飛び方だ。


 既知既存の危険へ飛び込むことで未知未然の危険を避ける……確かにそれは俺の飛び方で、ナナイは素早く課題をクリアしていくけれど。


「……何だよ、チクショウ」


 奥歯を噛んでいた。拳を握りしめていた。


 何て様だ。


 何て哀れな飛翔なんだ。


 まるで追い詰められたネズミの我武者羅だ。弱々しさのあまりに常軌を逸したようなそれが、そんな自暴自棄が、俺の機動ということなのか。なあナナイ、そうなのか。俺はそんな刹那的なものをお前に見せていたのか。先任面、先輩面をして。


 エースって、こういうもんじゃないだろう?


 あ、被弾。浮遊砲塔のペイント弾が新型の右舷を染めた。震えるようなロール。暴れるようなターン。喚き散らすようなガトリング砲の連射。


 ナナイ、お前まさか、泣いているのか?


 試験飛行であるからには死ぬはずもないのに、模擬弾の向こう側に次の死を感じ取って……次の自分が造られることを思い描いて……怯えているのか?


「八四六番です。お話したいことがあります……金閣寺閣下」


 気づけば秘匿回線をつなげていた。この現実においては階級に見合った高みから試験を観察しているあいつへ。


「……珍しいこともあるものだ」


 しゃがれた声。物語に出てくる魔女そのもののような。


 唾を呑んだ。腹に力を込めた。


「戦闘補助AIの性能が不足しています。従来の索敵艇においてもわずらわしく感じていましたが、新機体においてはもはや足枷です。使い物になりません」


 返答なき沈黙。ダメか。だからどうしたということなら。


「閣下は小官の戦技に興味がない……そう承知しておりますが、ひとつ言わせていただきます。閣下も、他の誰も、小官の本気の機動を見た者はいないと」


 口から出まかせだ。しかし挑発なんだから、とにかくも興味を引かなければ。


「この際です。三百年前の人間として素直なところを言いましょう……バカらしいんですよ、この時代の戦争は。誰も彼も頭が悪いとしか思えません」

「……ほう?」


 食いついてきた。やはりだ。


 仮想現実で金閣寺は俺を小馬鹿にし、挑発することで俺を動かそうとした。それが効果的な方法だと考えたからだ。裏を返せば金閣寺に響くものも見えてくる。


「無駄ばかりです。宇宙開発で資源が豊富だからって兵器を使い捨て、クローン技術で兵士を生産できるからって命を軽んじて……戦略も戦術もいい加減なんです。その場しのぎばかりで、慌てるや否や味方殺しの飽和攻撃をしでかす始末」


 もう後に引けない。行くところまで行くしかない。


「閣下のお言葉を拝借するのなら、まさに『クソジジイどもの浪漫』ですよ。こんなバカな話はありません……戦意も腐ろうというもの」


 モニターを見る。ナナイが性能試験を終えようとしている。一発のペイント弾に汚された白い棺桶……あの中で、やさしくて健気なやつが震えているんだ。


「……何を望む」


 やった。交渉に引きずり出せた。言葉に先んじて漏れた音はお前の一笑だ。仮想現実においては「フフン」だの「ヒヒヒ」だのと聞こえる、お前の興が乗った証。


「ソフトウェアの問題の解決を。閣下の技術と権限をもってして」

「よかろう。ただし条件がある」


 人間味の欠片も感じられない冷酷な声……いや、悪魔との取引だと思えばこれが当然自然というものか。説明される内容も理不尽極まりない。


 慄くには値しない。今更なんだ。


 それに、理不尽を打ち破る理不尽を指して、人はエースと呼ぶんだろうから。

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