一本目:いつもの出来事
2XXX年4月、とある法律が変わった。
「未成年者喫煙禁止法を、満二十歳から十八歳に変更する」
それは前代未聞な法律の変更だった。もちろんそれに反対する国民が大半だったが、いつからか反対する国民もいなくなり、まるで法律は最初から変わらなかったような…そんな日常になっていった。
有害と言われていた煙草は、少しずつ形を変えていったおかげで人々から嫌悪されることはなくなった。が、影では有害とされている煙草も出回ってはいる。
そんな趣向品とされた煙草は、今この瞬間も誰かの口に含まれている。
この話はそんな日常の話である。
SMOKER-スモーカー-
「……はぁああ…」
溜息のような息の吐き方をしているが、俺は現在「吹かしているだけ」だ。
指定の制服であるブレザーの赤黒い上着は床に落として、ネクタイなんて自宅のどこかで伸びている事だろう。…早めに言っておこう、俺はよくいる「不良」という者です。
学生で、しかも煙草を吸っていい年齢でない俺は隠れて吸っている。と言っても、ほとんど臭いでバレてしまうのだが。
(けどやめられない、止められない)
どこぞの菓子のフレーズを借りるが、実際にそうなのだから仕方ないのだった。
もう中学から吸っているから、…もう五年くらいの付き合いになるだろうか。そりゃ止められないって話しである。そんな俺の事を「煙草中毒」なんて世の中言っていた気がする。
「君はまだ学生だし…何より法律違反している。まだお前は17じゃないか」なんて…。1歳違うだけで身体がどう変化するんだってんだ、意味が解らん。
「はぁあああ……」
煙が空に歩いていくようにゆっくりとした動きを眺めながら、俺は心を癒やしていた。
もうコイツなしでは生きていけない、そんなことさえ思えるほどコイツに執着している。どちらかというと、俺は飽きやすい方で煙草も一時だけだと思っていた。それがどうだ、俺をこんなにも虜にしてくれちゃって……なんて罪深いだろう、ああ愛おしい。
「なーんつって……」
ニコチンとかいう奴のせいかもしれないが、正直成分がどうであれ俺はもう手放せないのだ。
それを他人に分かってもらおうなんて思っていない。…いや、既に何人かいるけどそれはまた追々…。
午前の授業は終わりだと告げる音が響いた。そのタイミングにあったように煙草は短くなっていた。携帯灰皿の中で火を消し仕舞いこむ。俺はこれでもポイ捨てはしない主義だ、これ喫煙者の最低マナーであり常識だからな。
「俺って偉い、うん」
「自分で「偉い」とか言うか?普通…」
重たいであろう屋上の出入り口の扉をくぐってきたのは俺の知り合いだった。
「パイセンじゃん、ちーっす」
「…せめて「センパイ」って言えよ、どうでもいいけどさ」
タレ目のせいか余計脱力している感が感じられる、初めて会ったころから変わらない人だった。
高校2年の俺と3年のパイセン、普段からつるんでいるわけでは無いのだが「サボり仲間」ではある。
彼はとっくに18なので法律上問題はないが、学業に関する施設内や敷地内で吸う事は許されていない。場所にもよるが、この学校ではとりあえず「校内全面的に禁止」とされている。喫煙所は設けられているらしいが、教師と事務員くらいしか使わせてもらえない…当たり前と言えば当たり前だ。
(だからこうして勝手に吸ってるんだけどさ)
パイセンも懐から愛用している煙草を取り出して深く吸い始めた。
この人もかなりの中毒者だよな…きっと死ぬ時は肺がんだろう、なんて思えるくらいの煙草中毒。一昔に比べたら、人間の肺は丈夫になったと聞いているが…それでも病気はするらしい。けれど肺がんになる奴は年々減っているという噂だ。
「パイセンってホントヘビーっすよねぇ」
「煙草と女以外、どうでもいいだけ」
「うわぁ…最低だ。…あ、あと酒でしょ?」
「んー……」
パイセンの瞳は煙の色だ、目の方まで煙たくなってるのではと思えるほど。実際は銀色だけど、曇りの日に吸った煙草の煙って表現の方がパイセンの目の色の説明はしやすい。そしてそれに似つかわしくない奇抜な髪色…。
「…パイセン、色増やしました?」
「なんの…」
「髪っすよ、か・み」
「あー……昨日な、どうでもいいだろう?」
これだ。
楠んだ青い髪でセミロングなパイセンの髪は、他にも緑やら黒やら黄色やら……さらに奇抜になってきていた。実際の髪の色なんて知らないけれど、日本人離れしている髪色に最初引いたくらいだ。見慣れると「とても目が痛い」って表現ですべて済んでしまうのだけれど。
煙が二本になったなぁとぼんやり見ながら、自然と俺自身本日何本目か忘れた煙草を手にしていた。…あれ、俺飯食べてないよな……。
「ピンクは失敗したか……てめぇの金髪みてぇにすればよかった」
「へへ、かっこいいっしょ?」
「いや、ダサい」
「……パイセン?」
「怒るな面倒…片目だけオレンジで尚更怖い」
そう、俺は片方だけカラコンを入れている。気分でだ。それにこうしてオッドアイ的な感じにすると女が珍しがって寄ってきてくれる。カラコン様様だ…最近は全くつれないけど。
「なぁ、安木場…」
「…パイセン、俺の名前「千条」って何年言えば覚えます?一ミリもかすってませんよ」
「濁点はあってたから進歩してる」
「パイセンの脳味噌絶対腐ってる…」
パイセンはとにかく人の名前やら顔やら興味ないことやら…とにかくほとんどの事は覚えない。いや、覚える気が無いようだ。中学からの付き合いなのに未だ名前だけは覚えられていないのが現状だ、こう考えると家族とか大丈夫なのか?パイセンの家庭事情とか全く分からないけど。
「女の名前と酒と煙草の銘柄とかは覚えられんのに…」
「むしろその三つ以外覚えられるのか知りたいっすよ…」
「加藤」
「だーかーらー!!」
千条だって言ってんだろ?!このバカパイセンマジ一辺くたばれ!!!
俺はきっと校内中に響き渡ってしまったであろう罵声を上げ、隣で煙草を吹かしているパイセンはまるで動じていないかのように煙を吐き出していた。
こんな日常が俺たちの日常。
そんな煙たい中、俺たちは生きている。
「わかったって百地」
「せ・ん・じょ・う!!!!」




