二本目:先生と反省しない文
不良がサボって煙草吹かしていました
「もう飽きた帰りたい」
「書き終えてからな~」
サボりがバレてしまい、俺は現在反省文を書いている。
煙たい中でどうして反省文を書いているのだろうと目の前の教師を見るが、相変わらず何を考えているのかよく分からない。この先生はどうして先生をしているのか、まるで分からない程「先生」が似合っていない。
「千条、立場上お前に煙草は吸うなと言わなきゃならねぇんだけどさ?俺も人のことが言えない所もある、だから適当に書いてさっさと帰れな」
「絶対それ教師の台詞じゃないですよね」
「俺もそう思うぜ」
相も変わらずボッサボサな頭をガシガシと書きながら加えている煙草を上下に揺らして笑う先生に、やっぱり間違って先生になったんじゃないかと少し睨んで見た。タレ目で黒ずんでいる瞳は眠たそうで……いや、これは退屈そうな、そんな目だった。
(やる気が感じられないよな、この人)
見た目かなり老けているが実は四十も行っていないとか嘘だろう。
そんな先生が欠伸をするもんだから、俺もつられて欠伸をする。少し吸った空気が馴染み深い味のするモノだったので、欠伸の後に吐きだす息が細くなる。煙草を吐きだす感じがして気分がいい。
「お前から煙草を取ったらカラコンしか残らないだろうな」
「俺からそれ奪わないでください」
「じゃあせめてもう一歳老けてから吸え」
「辻先生はいつから吸ってるんすか」
「……覚えてねーな」
多分お前より若かった時じゃねぇかな?なんて遠くの空を眺めながら言う先生の台詞に「やっぱりどこかこの先生と通じるものがある」と何度となくやった確認をする。これでも俺達は仲が良い。よく一緒に吸っているから煙草友達的なもので、お互いのボヤキや愚痴を言いながら煙草を嗜むという間柄。けど最近は頻度が減ってしまっているから俺は退屈している。まぁ俺は別に先生と違って他の人もいるから全然いいのだけど。
「たまには一緒に吸いましょうよ先生」
「反省文書いてるって忘れてねーか?面倒だから早く書き終えてくれ」
「…飽きたから吸っていい?」
「どーぞ」
本来ならここで注意するはずだろうけど、先生はしない。完璧に面倒くさくなっている証拠だ。
空き教室一面煙草の臭いに侵され、それでもまだ吸うかと言う程にお互いがお互いの好きな銘柄を加えはじめる。…忘れられがちだがここは学校だ、本来ならこんな事あってはいけないのだろう。
「ねー、先生」
「んー?」
「なんで十八は吸ってよくて、十七はダメなんですか」
「法律がそうだからです」
「身体の構造が一気に変わるわけじゃないのにですか」
「それは先生も同意見です、でも一応ダメってことになってます」
どうして二十歳じゃなくて十八になったのか、俺には分からない。けどお偉いさん方が考えて決めた事なのだからきっと何かあるのだろうけれど、きっと法律が変わってなくても俺はきっと今の歳で煙草を吸っている気がする。
「…はぁああ………」
「どうした」
「マジで面倒になりまして」
「見せてみ?」
ヒョイッと反省文の書きかけ原稿用紙を持ち上げられ、先生はやる気のない目でそれを読む。ぼやきながら「別にこれでいいんじゃね?」と言うもんだから、俺は煙草を加えながらシャーペン等を片づけ始める。たった二~三行しか書いてないけど、先生が良いと言ったんだし問題ないよな?
「俺便所行くから、その後に帰れ。お前に逃げられたって事にすっから」
「それ俺がまた怒られるパターンっすね」
「大人は狡い生き物なんだよ」
にへらと笑う先生は、適当に結んでいるであろう髪を揺らしながら教室を後にする。その三分か四分後に俺はいそいそと抜け出して、忍び足で帰宅した。
「あ、そう言えばもう一人書かせなきゃいけない奴居たわ…」
便所に入りながら千条以外に書かせなきゃいけない生徒の事を思いだす。けれどそのもう一人は、とっくの昔に帰ったであろう。面倒だし、実際に忘れてたのだから俺は素知らぬ顔で居よう。いざとなれば「見つかりませんでした」と言えばいい……俺の信用度なんてたかが知れているけれどな。
「あーあ、転職しようかねぇ……」
自分でもどうして教師なのか、分からない。気が付いたら煙草を吹かしながら教師になっていた、とだけだ。いやはや人生分からんもんだねぇ……。
「さぁて……もう二本程吸ったら戻って驚くフリしねぇと…」
あー面倒臭い、早く帰って寝たい。
そんないつものボヤキを一人で言いながら、煙草を一本取り出した。




