学校生活に置ける大切な要素とは。
サブタイトルの一部を削ぎ落しました。
いよいよだ......
いよいよ栄田先生からお達しが下される。って、使いどころが違うような。
だが確信に迫られる時が来たみたいだと俺は耳を傾ける準備をする。
言っても交わした会話の中で散々触れられているから特にこれといった緊張感はなく。
そうなると先生の考えんとしてる事は十中八九、もうほぼ間違いなく友達関係であることは明白で......
「これは私の、いや先生としての提案でもあるんだが」
ほら、やっぱりそうだろうな――っ。
「...... の、前にだ。勉学、恋路、競技」
「え、べん?!」
「これらは学校生活に置ける基盤、もしくは三大要素となり得るものだろう。そこでだ黒沼、その三つの中で一番大切なものはなんだと思う」
いきなり話が変わった、だとっ?
こんな話は聞いてない...... 聞かされる筈もないんだけども。
「あ、あの、急に話が見えないんですけど...... いったい何を」
てっきり友人関係の話を切り出してくるだろうなと思っていたのに、予想していたこととはまるで違うと俺は戸惑う。考えてもいなかった話をいきなり振られても答えを用意出来ていないし答えようもない。
しかしそうであろうと先生は和らいだ口調で「いいから」、答えを要求してくる。
「黒沼なりに答えてみてくれ。三つの中にある共通とするものだぞ」
「えぇ......」
......自分なりにって言われても何なんだ一体、謎かけとか?
時間はないと言いながらそんな遊びを交えるか、まぁうん。この人ならあり得そうだ。でも、勉強、恋愛、スポーツの三つにある大切なもの。または共通とするものか。
時間との勝負、タイミングの良し悪し、練習量......
多分どれも違う、先生の求めている答えだとは言い難い。
共通するものだから学校中で出来ることなんだろうけど出てこないな。
取りあえずはなるべく良い方向で考えてみようかな。
悪い点は抜きに優位点だけを挙げるなら。
・勉強は見せ合い、複数人で対策を練る場合お互いの苦手な科目をカバーし合うことが出来る。皆でやった方が逆にリラックス出来たり、気楽な面持ちで勉強出来るというものだ。
・恋は相談や助言であったりアドバイザーなるものがいて影ながらに支えてくれる味方がいる。例え振られる結果に終わろうと慰めの言葉を掛けてくれるなら沈んだ気持ちも晴れるかもしれない
・スポーツはライバルや尊敬する先輩達と共に、時にぶつかったり助け合いながら高みを目指していく。チームメイトと共に切磋琢磨し皆一丸となって優勝という目標を掲げながら強豪校に挑んでいく様は傍から見ていても胸が熱くなるように思う。
完全無欠人間なら1人で全ての事をこなせるだろうけど、未完全かつ不器用な人間からすればどれも一人でやり遂げるには困難であり完遂出来ない...... となれば、そこから導き出されるのは三つ共に共通するものであることだ。
=先生の言う大切なものは者であって物に非ず。
「学友、あるいは仲間、ですか...... ?」
そうして――俺なりに考え抜いた答えを口に出せば。
腕を組んだ姿勢でいる栄田先生は意地悪気に、こっちが恥ずかしくなるぐらいに口元を緩ませた。
「自分ではそう思ってるんだな」
「それはって...... せ、先生が言わせたようなものじゃないですか」
「別に引っかけてはいないよ? 勝手に誘導されただけじゃないのか、A、B、C、からなる回答に選択しには入ってもいないEと答える辺りが性格にも表れてるようだからな」
良く言うよ。こんな、こじつけがましい謎かけをしといてからに...... なんて思うもこっちが無理やりにこじつけただけなのか。無駄に色々と捏ね繰り回してしまうのは癖ではなく経験から来てるものだから仕方ない、それぞれ差はあろうと成長するに従い疑い深さは増していくもの。だというのに俺俺詐欺に引っかかる人が後を絶たないのはどうしてか。年を重ねると情に脆くなっていくとは聞くけど......
そう考えると早熟で大人びてる子供を可愛く思えない訳だよな。当然だけどあの向日葵を思わせる煌びやかな笑顔が何とも可愛らしい唯華ちゃんもいずれは純粋無垢でいる事を忘れてしまうんだろうか。
その時の海音君の心境は如何に。
と、無駄に考えふけっていれば「もしくは今のが本心ならこっちとしては嬉しいものなんだが......」先生は俺に聞こえるようにありありと口になされた。
問答を受けたのなら返事を返す為にも思想を消す。
物言いから分かるのは学校云々の質問にはそういう意図が隠されていたということ。ほんと食えない先生だよ...... けど、そうあるからこそ弱みを見せてもいいと感じてしまうわけで。
「本心も何も、誰も、好き好んで1人でいるんじゃありませんから...... その証拠に、というか浜慈君や先生みたいに親身に話しかけてくれる人に対しては言葉を返すようにはしています。ただ、仲間意識を感じる、みたいなのは――」
「まっ、結果的にどんな風に答えようともだ。私が伝えようとしている事は変わらないのだがな」
話の道中。
無理には言わせまいとするかのように先生の言葉が重ねられた......
口に出し辛いと思ってかこっちの心情を汲んでくれるのもまた先生の優しさだ。
その先生は組んでいた腕を解いて俺が紡ごうとした言葉の代わりに話を続けられる。
三大要素の重要性について。
「遊びばかりにかまけて勉強を疎かにしては将来困るだろうし。意中の相手と相思相愛とあらばさぞかし華やかな学園生活にはなるだろう、そして学園生活を過ごす中に置いて心強い味方となり得てくれるのが、仲間や友達と言った存在だな」
「......階層からなるスクールカーストの頂点、全てを手に出来てる者は勝ち組って奴ですね」
砕いていうなら生活環境が充実している学生、総じてリア充とも言われており、俺には縁のないもの。そんな捻くれ思想からなる皮肉を受けた先生は、以外にも何一つ否定することなく首を縦に振る。なんとも無情だろうかと思ったがやはりそこは教師らしい答えが示される。
「だけれど、過ごし方次第で変わってくる可能性だってあるかも知れないだろ」
なり上がりとは、低い立場にいる側が高い立場にのし上がる事をいう。
『落ちこぼれでも努力すりゃエリートを超えられるかもよ』
言い方的には悟〇がベジー〇に挑む時に発した台詞に似ているような感じだ。
バトル物と学園物、ジャンルの違いはあれ。弱者が強者に一矢報いるという趣旨は同じ。
頭が良く勉強を得意とするなら、ノートを貸し借りしている内に相手を意識していき。
お互いの想いが通じあっているなら周りを顧みずに延々とイチャつけて。
運動神経が抜群で即エースに選ばれる実力者なら黄色い声援が飛び交うことに。
...... なんていうかリア充の意味合いを考えたらどうしても方向的に恋愛事に繋がってしまうな。
行き過ぎたハーレム思想はともかく、男子のほとんどが自分にとっての彼女との出会いを望んではいる筈で、俺自身もそういう願望があるからピンク色の思念が働いてしまうんだろうな。
「そうでなくても、先生は三つとは言わず学校で学ぶことの全部が大事だと思ってる。もちろん、校外で学べることも多くはあるがな」
そういった思想の元、栄田先生は教師としての立場で言葉を紡いだ後。
恐らくはもっとも伝えたかったであろう言葉を口にした......
「それ即ち、《青春》と呼ぶんだ」
ピンとこな、いやピンと来たっ。
今の一言で全てが繋がった、何となくだけど先生の言いたいことが分かってきた。
「で、その青春についてなんだがな。手っ取り早く味わえる方法がある」
遠回しではあったけど、何だかんだ言いつつも結局のところ行き着く話は。
「要するに......」
「部活をしてみてはどうかと誘いかけているという訳だ」
話をそこに結び付けるにしても流石に無理やりなこじつけだったか......