素直な捻くれ者
「よし、ここに下そうか」
男としてまだまだ至らない部分が多くあってはあれ以上の見栄は張れず。
俺は大人しく引き下がることにした。プライドでは飯は食えないものな。
三階の渡り廊下、その隅っこの方にある空き教室。
栄田先生は余裕といった感じで荷を片手持ちとし鍵を差し入れるとそのまま部屋の中へと踏み入っては指示された位置に物を置く。
とまぁ、ことのほか先生と位置を変わってもらったことによって階段に躓くとこもなく至ってスムーズに運び終えられた訳である。
***
そうして一息ついた所で「お勤めご苦労さん」労いの言葉が掛けられた......
俺も俺で「先生の方こそ」と言葉を返す。
一度目は二人で分割、二度目は二人で初めてのと題を打とうものなら誰かさんに怒られそうだけど、共同作業な事もあってか比較的楽にこれたのは確かだろう。
それはともかくとして、これは言っておかなければ。
「とっ。それと、み、見た通りこんな具合の力のなさ加減ですから、次からは他の生徒に声掛けしてくださいよ。わざわざ非力な奴が呼ばれる云われはないでしょうし」
「ああ、次からは他で頼むことにするよ」
間の抜けたかのような適当な相槌.....
ほんとうに分かってるんだか。
と、そこで視線を横に向けた俺は先ほど運んだ物の見え方の変化に気づいた。
横に寝かせられた時は分からなかったけど、こうして縦にオブジェとして置かれていると何となくある物を表してるような。
「あの先生ひょっとしてこれって」
俺は物を言いかけては止める。
だが言わんとしてることは伝わったみたいだ。
「今になって気付いたか、そういうことだから皆には内緒にしててくれよ」
「なるほど、そういうことなら......」
といいますか、内緒にするのも何もこちとら話すような――
「相手がいない。つまり孤高でいる人間は最高なのである。返答からして捻くれた思想は手に取る、いや。むしろ掬い取るように見えたよ」
...... 何だかな。
さっきといい、いまといいどうしてこう先読みされるのか。
影味のある男でいるのも相当難しいことのように思う、っていうかその勝手な解釈よ。恋しいまでとはいかないけど俺は‶1人ぼっち”が最高だなんて一言も言ってもいないし思ってないですからね?
もうこの際は弱気な人間性からそう易々と当てられること自体は仕方ないにしてもだ。
「だ、だとしても。い、いちいち口に出さなくてもいいじゃないですか」
「いやな、それが困ったことに自然と発してしまうんだよ。ちなみに言っておくがこれは黒沼が私に出させてるようなものであって私自身の意思じゃないぞ」
「え、先生の意思じゃないの? えっとじゃあ何ですか僕が〈相手の思っていることを口に出させる能力〉に目覚めたとかいうおつもりで? いやいや、ハッキリ言ってそんなボケはいらないですからね......」
――なんて、言いつつ。
お喋りからなる思想の放出
ちゃっかり能力名まで考えつくんだからほんと良いアニメ脳だよなって......
ただまぁ仮に、思ったことをすぐに口にしてしまう。
心の中で考えてることが声に出てしまう人も現実的にも少なくはない。
そうなるとこの能力は俺なんかよりかは立花さん辺りに相応しいと言えるだろうかな。
「ふふ」
直接口に出して伝えた俺の意思を汲んでくれてか。
一瞬ではあるが思考をそっちに寄せていた傍で先生から小笑みがこぼれた。
「一応は先生なりのスキンシップのつもりだったんだが本人が乗り気じゃないならやめとこうか。まぁからかい害があるというのも本音だがな。なしかこうやって読まれるのが嫌なら分かりやすいまでの捻くれ思想は消せばいい。それか心を無にすることだな」
「心を無にして思想を消す......」
相手に考えを悟られなくする方法といえば。
『右ストレートで〇っとばす』『まっすぐ行って〇っとばす』
つまりこういうことか。うん、間違えなく違うな。
ああ ......揚げ足を取るというんだろうか。
こっちの考えはお見通しって感じの物言いであらせられるよ。
クールはもといポーカーフェイスってなんだろう、そこんところ幼馴染にまで見抜かれたりして先生はおろか幼い女の子にまで感じ取られたりするんだもんな。
自信の表れや性格は顔に出ると言うのは嘘じゃない、まさにソースは俺って言いたい気分だ。
でもそっか。
七月ってことは季節的にはもうすぐあの恒例行事があるのか。
憶測だけどこの人の座右の銘はおそらくは『善は急げ』とあるに違いない。
準備は早い方がいい、と何度か言ってることからもそれが分かる。
ちなみに俺の座右の銘は《力なき正義は無力なり》だ、というよりは教訓だな。
「えっと、あ。じゃあ色々と用も済んだようですし、僕はこれで――」
合間に会話を挟みながらも二度に渡っての手伝いも終わり休憩の間には小話もした。となればもうここにいる必要はないなと、俺は先生の横を通り過ぎて部屋を後にしようとした。
が、当たり前に逃がしてくれる筈もなく眼鏡が半面光りを放つ。勿論イメージとして。
「まぁ少し待て黒沼。ご苦労さんと言ったが、用が済んだとは一言も言ってないだろ」
「で、ですよね......」
「ただし、ここからの話は個人的な事柄だから最初に頼んだ用事とは関係はない。出て行くなり好きにしてくれて構わないさ、言っている間にも次の授業の予鈴がなるだろうからな」
「うぐっ、その言い方、そんな風に卑怯な言い方をされたら、こっちとしては出て行きづらくなるじゃないですか」
どっちにしろ初めから出て行くつもりはなかったんだけども......
あくまでも強制するのではなく生徒の自主性を優先する、これが栄田先生のやり方なんだ。それも誠心誠意で俺の事を思って言ってくれてる訳だから尚更ここを動くわけにはいかないよな。
「まっ、相手の真理を逆手に取った狙い目という奴だな」
「つまりは俺が絶対出て行かないと踏んでいますよね」
「さて、そこはどうだろうな。ただ多少捻くれてはいても素直な面も多くある。話を聞いてくれる奴だとは思っているよ」
「......っ」
絶対とはないかもけど基本的には褒められて嬉しくない人間などいやしない。
俺は先生の一言に身体がこそばゆくなると何も言えなくなった......
しかし当の先生は恥ずかしげもなく続ける。
「既に知られてる通り、廊下での話合いは準備運動みたいなものであってここまで荷を運んで貰ったことにしろ、単に二人で話す為の場所を設けたに過ぎない」
言いながらに扉前のスイッチを『パチッ』と押して電気を付ける。
ちょっとした演出のようにも思わなくもないけど、入ってすぐに部屋の明かりを付けずにいたのは俺の意思を確認していなかったからだろう。
そしてここで初めて部屋の全容が見えた。
確かに物置き部屋らしく必要ではない物がそこらかしこに錯乱されており、そっと指で拭き取ってみると微弱ながらほこりが付いた。けれどもゴキブリなどの生物が入り浸るほど荒らされてはいないようだ。
裏側はよくは知らないけど店舗内にある倉庫みたいな感じっていうのか。
時間は掛かるけどこれぐらいならパパッと掃除すれば部屋としては十二分に使えそうではある。
「言うなれば、邪魔が入らないから話をするのにはうってつけの場所という訳だ」
「でもこの部屋の進路的には三年生とかの上級生が入ってきたりするんじゃ......」
「なぁに大声を出さなければ誰も来るまいさ、例え来たとしても追い払わせてもらうよ」
俺の不安視する声に問題ないからと進行を進める栄田先生。
運びたてをしていた道中は言葉を切り出そうとして話題が逸れていったり俺が話を折ったせいで、肝心な部分は述べるには至らなかった。
それが、ようやく当初の目的通り本題に取り掛かかることにしたようだ。
「まぁそれはそれとしてだ、さっき私が言おうとしていたことだがな......」
時間の差異、時系列続きとはいえ。
なんて長い休み時間であろうか......




