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受け入れたくはないけど、これこそが乙女心なのかも......?



「――あの先生、これは...... 」


「さきほど言ったように持ち出すのを手伝って欲しんだ。教材を両腕に乗せて歩くのと違ってさすがにな。一人で持っていけないという事はないが二人で持つ方が安全かつ楽だろ」


「あ、いや。そうではなくて、この大きい物体はなんでしょうって意味で」


「ん、分からないか? いちいち察しがいいから気づくものだと思っていたが、まぁ形をみて当てられないのならわざわざ言う必要もないだろ、ただ来るべき日に使う物であるのは確かだな」


「来るべき...... それって、今はまだ秘密ってことですか」


「ああ、......にはまだ秘密の物だよ」



 ***



 職員室で言い止められた後。

 そうした先生とのやり取りから俺はまたしても、荷を運ぶ手伝いをすることになった訳だけど...... もう少し思い返して見よう。




 どうしたことか先生に案内された場所はグラウンドだった。

 ただし正門ではなく裏門、生徒とは別のルートで先生達が校庭や校門を出入りし、または通勤車を止める為にある駐車場だ。その中には栄田先生の自家用車マイカーも停車されていた。


 時に生業すぎわいとして車を見ればその人の性格、個性が分かるともいうらしく。


 経済力に余裕を見いだせない・車に執着がない人は小型車に乗っており。

 家族構成や老人・障害者の有無などを考えてる人は大型車に乗っている。

まぁ、でもこういった仕分け方は性格診断というよりは単なる意識的な違いもあるかな。

 デザインはたまた中に入って見た時の仕組みや構造やら好みの部分で選ぶ人だっているだろうし。車の種類では判断しきれない部分は多いと感じる。

 どちらかと言えば見るべきは運転の仕方だろうか......


 渋滞混雑で舌打ちを鳴らしイライラする人は短気で、テンションアゲアゲ大音量で曲を流す人は陽気で、迂回するのが嫌で近道ショートカットをする人は大雑把で、思いやり精神で道を譲ってあげる人は謙虚。

 っていう風に分ける方が個人的にはしっくりくる。


 俺はさほど車に詳しくないので車種は分からないけど先生のは軽自動車ではなく普通車。明るめのブルーカラーでいて少し目立つか目立たないかぐらいの奴だ。


 それとざっと見た感じでは先生方の中にク〇スタなる高級車を所有している人は誰もいないということ。

 なので間違っても空から()が降ってきては――愛車が見るも・無・残・な・姿・に変わり果ててしまう、なんて心配をする必要もないように思う。むしろ人が降ってくることの方が大問題だろう......




 それにしても...... この物体はなんだろうか。

車のバックドアを開けて中に格納されていたのは大きい袋に包まれた物。

横に長いことから一見何かの木材、クリスマスに置かれるツリーのようなものに見えはするも何だか分からず。


 先生に聞いてもはぐらかされるなら自分で考えるしかない。

 正直言ったらあまり興味はないけど秘密とあればそこはやっぱり気にはなるのが人間だって......





「――――おい、黒沼聞いてるのか」

「え......」

「階段を上るが滑り落ちはするなよ。手の持ち方と足元には十分注意しろ」

「あ。はい」


 さっきと違い話しかけられる事もなく考え事をしていたからか、先生の呼び声が耳に入ってこなかった。当たり前だけど会話無しだと足の進み具合が早いな。


「あの、所でまだ聞いてなかったんですが、どこまで待っていくんですか」

「三階だな、そこに今は使われてない空きの教室があってか物置として活用されてる。これもそこに入れておくつもりだ」

「空き教室、了解です」


 いま俺は前と後ろに別れて、尚且つ下手持ちで栄田先生と一緒に指定された物を運んでいる状態だ。

チビと長身の二人掛かりで運べる物だから重たい程重たい訳じゃないけど、単に階段を上がるだけじゃなし足元付近が見え辛い。


 だからなのか。


「何なら前後の位置を変えてもいいぞ、重たいだけじゃなしに後ろの方は体制もそうだがしっかり注意を払わないと足を踏み外してしまいかねないからな」

「ああ。いえ、それは心配ご無用ですよ。なんせ」

「男だから、だろ」

「......」


 先に口に出されてしまった。

 一本調子で必死に志をアピールしていればそりゃあ読まれてしまうか。



「よしっ...... !」


 俺はドド〇コなるラブは抜きに気合いを注入する為にもこじんまりと声を発する。


 さてさて、ここいらで男を見せとかないとクールキャラとは程遠くなるからな。

 それとこれ以上先生に舐められない程度にはスマートに乗り切りたいものである。


 嬉しいばかりに、そうやって気合いを一新した効果が出てくれたのか事の程は順調だ。一つ二つと慎重に腰に力を入れ足を上げ一息付いては。時折「大丈夫か? 無理そうなら変わるぞ」と、先生の気がかりも入ってきてはくるりと旋回して次の階段へ移行する。この分なら余裕だろうかな。

 はたは思っていたよりは、と調子づいてしまったせいだろう、ようやく最後の階段を上り終えようかとした所で、「あ...... やばっ!」


 ・や・は・り・やってしまった。


 あれほどまでに言われたにも関わらず最後の最後で足を踏み外すだなんてっ...... 単純なドジでは済まされないぞこれは。

 多分、前を向いてる先生は気づいてはいないだろうなと、思ったのもつかの間。



 “突如”として俺の身体はフワリと宙を舞いゆく......

 よく死を目前とした時には過ごしてきた人生を振り返るかの如く走馬燈そうまとうがよぎると言われるが、回想はおろか急な形である為か思い出なんて横切る暇はなく。


「終わった......」


 背筋にゾワりとした嫌な感覚が流れては、冷たいものが走りゆき質素な感想を抱くに至るだけ。抵抗なしにただただ、重力に引っ張られるがまま背中から真下へ落っこちて――――は、いかなかった。





 ガシッ!



「っと——」


「...... はれ?」



「ふぅ、一瞬ヒヤリとさせられたが間一髪危なかったな、って」


 この第99代ブリ〇ニア皇帝ばりに、低音でいながらも耳に響く落ち着いた声の持ち主は。


「誰かと思えば黒君か」


「もしや、かいと君...... ?」



 後転してか、気付くと俺は身体ごと彼の胸の内にすっぽりと収まっていた。

 『三羽海音』

 俺の観点で見れば学校中でも図一のイケメンに分類されるであろう男子生徒だ。



「まさかな、階段から人が降ってくるとは思わなかったから驚いたよ」


「あ...... その、ちょっと踏を滑らしたというか、そんな感じで」


「だろうな、でもまぁ無事で何よりだ」


 驚いたと言えども彼は余裕の笑みを浮かべてる、その表情は全然焦っている風に見えない。

 故に抱く感想はそれだけで。


「...... えっと、とりあえずは、ありがとう」


 俺は受け止めてくれた事への礼を言いつつ密着していたであろう彼の身体からそそくさと離れる。




 ...... ここいらで男としての威厳を示す、だって? 

 誰が、どの口が言っていたのか。貧弱野郎の戯言たわごとか何かだろうよ。

 

 思い起こしてみれば体育祭でもあったけど男が男に受け止められるなんて、傍から見たらカッコ悪過ぎだ。

 持って生まれた体格の差は仕方ないにしても、食事方法やトレーニングやらで自分の身体を鍛えることは出来る。それすらやってこなかった付けなんだろうなこの辱めは。これがラブコメなら嬉しいものだけどリアル少女漫画的な展開、それも神様の悪戯か相手が男とあっては異性としてときめいてはならぬ......

 別にイケメンだから有りかな、なんて思ってしまえば負けだ。その時点で男ではいられなくなってしまう。


 言うはしかしアロマでも付けてるのか良い匂い(......)がしたよなって――間違っても心をそっちに持って行かれてはいけない、俺は未来永劫男として生きていたいんだ。

やっては投げやっては投げてと進研〇ミ並みに続けるのが苦痛だったんだけど筋トレぐらいは本気で考えた方がいいのかも知れない。


 というかそもそもが下らないな、こんな身勝手な発想をするのは助けてくれた人に悪いものな。

 彼がたまたま下にいなかったら今頃どうなっていたことやら......

 




「物音がしたかと思えば、言わんことじゃない。あれほど注意を促したに関わらず滑り落ちたんだな黒沼」



 そうこうしている内に異変に気付いたであろう栄田先生は。

 心底呆れた様子で階段下に向かって歩いてきていた。


 「自分不器用なものですから」、そんな台詞だけでは済まされない。

散々変わってやると言われていた筈なのに強情心から運びにくい方面を選んだ。

身長や体重の比率などの有無を考えれば俺が前の方を支えるべきだったんだ。


「事が起きては遅い、やはり無理やりでも変わってやるべきだったか......」


「うっ......」


 先生は当然にも同じことを考えているらしく悔やむ姿勢でいられておいでだ。

俺はそんな自身の責任から先生の目を直視することは出来ずに顔を逸らす。

こちらが言葉を返せないものなら先生は俺の心配を他所に、次は海音君へと視線を移したよう。


「とはいえ、三羽。偶然お前が横切ってくれて助かったよ。さすがサッカー部なだけあるな」


「そんな大したことはしてませんから、でも偶然だとはいえ通りがかって正解でしたよ。惨事にならなくて良かったです」


「ほんとうに面目ないことにな......」


 反省しないといけないのはこっちなのに。


海音くんの謙虚な返しに対して先生は暗い物言いで顔を落とした。

無論俺はその様子を横目で見つめていることしか出来ないでいる、とした時。


「三羽、一端の男子ならば食べ盛りだろう、あとで2組の教室へ弁当を持っていくから代わりに食べてくれ」


 その台詞には彼も若干驚いたらしく。

「え、なんですかいきなり」と戸惑いの声を上げた。

 弁当を譲ってくれる話は有りがたいことだけど、なぜにこのタイミングで?

それ以前に栄田先生のお手製弁当ともなれば、浜慈君なら泣いて喜びそうな所ではあるけど......

しかしながら海音君はといえば突然の言い渡しに譲り受け取るべきか困惑している、俺であっても同じ反応をしてしまうものな。


だけど次の瞬間、そういった等の疑問は先生の紡いだ言葉で驚きへと変換されることになる。


「まぁ遠慮なんてしてくれるな。結構自信作なんだぞって関係ないなそれは、なんならお前がもし食べきれないようであるなら他の奴にでもあげてくれればいい。と、そういう事だから私は今日の昼食、いや夕食も抜きにすることにしたよ」


「うぇ!? え、な、何もそこまでしなくたっていいんじゃ......?」


 人に弁当を譲り渡して自分は食に手を付けない...... いやいや。

 規律を重んじる軍人なんかはルールを破ろうものなら自分への罰を与える為にか一日~一週間食事を抜きにする場合があるのかもしれないけども、悪いのはこっちなんだ、そんなことまでする必要はないでしょうに。


 そんな入隊条件を破ってしまったコ〇―を温かく迎えるどこぞの海軍みたいな真似――


 

「幸い無事で済んだはいいものの一歩間違えば頭を打っていたんだぞ、『そこまで』とは良く言えたものだな」



 ...... もはやこちらに何を言う権利もない。

 先生が最悪の事態を想定してか真剣でいるのに二次パロディをもじった考えでいるのは、さすがにおふざけが過ぎた...... ただでさえ食事まで抜こうとしているってのに。

 

 俺はそういう反省も踏まえて「すいませんでした」と謝りの言葉を掛けようとした。

 がしかし先生の言い分はまだ終わってはおらず、なおも自身に責任を成すかのように、


「大事にならなかっにしても隣にいながら生徒を危険な目に合わしたんだ、これぐらいの事はやらないと教師として示しがつかないだろ」


 そう告げられた。

 すると俺に合わせていた目線は下へ向かう。

何やら怪我の程の確認をなされているよう、やがては何ら問題ないと判断した後「見たところ怪我という怪我はしてはいないようだな」一安心したように言葉を投げ掛けてくれた。



「あ...... 彼、海音君がクッションになってくれたので僕の方はなんとも」


 返事を返しはするも怪我などしていないからか先生は俺の言葉を無視。

 それも当然でむしろ心配すべきは俺の方じゃない。当たり前に先生もそのことは分かっておいでだ。


「三羽、お前はどこか怪我してないか」


「ええ。思いのほか彼が軽かっ――っと、ああいや、打ち所が良かったので大した怪我は」


 ...... いくら謙虚っていっても、咄嗟に物を言う時には本音が先に出て来るもんだ。

 言い直してくれたにしても彼の正直な感想なのだろう、でもそんないうほど程軽いとは思わないんだけどな。朝昼晩と食事もしっかり取ってるし。

 まぁ運動はあまりしてないんだけどさ。


 なんてことを彼を見据えながら思想していれば、悩みあぐねていた海音君も理由があればとようやく納得したらしい。


「ああ、それよりかは先ほどの件でしたよね。ではその恩義という名の弁当は喜んで受け取らさせてもらいます。何といってもあの栄田先生の手作り弁当ですからね」


「おお、そうか、それは良かった。うむ大いに期待してくれて構わないぞ、味の方は保証してやる」


「はは、それは今からが楽しみってもんです」



 ――何て言うかほんとうにカッコいいな。

 返答に対しても彼の人柄が滲み出てるというか。 

はてはそれだけに非ず、先方の失態を見てのことか率先して物を述べてきた。


「所といってはなんですが、何か品を運んでいるようでしたらついでなんで、おれも手伝いましょうか。ちょうど三年の教室に用があるので」



 ...... 今ので充分身に染みただろ、結局は重い荷物を運ぶ時は人手が多い方がいい。それも体格がガッシリとした男なら安全かつ早急に次第を終わらせることが出来ようもの。

プライドが何のその、ヒョロガリでは引っ越し作業は務まらないんだ。


「あ、うん。助かるよ」


 それに今は強がる時じゃない、と俺が彼の手を借りようとした時だった。

 何を思ってか栄田先生は海音君の善行を拒否きょひりなされた。



「ああ...... 申し立てをさせたようで悪いが、何大丈夫だ、なんせ男手が1人いるからな。ちと頼りなくはあるが」


「そう、ですか。なら、おれは行きますね」



 そういう事であるならと海音君は律儀に挨拶を告げ「黒君も次は気をつけて」去り際、優しい物言いで俺への注意を投げかけてくれた後、ゆっくりとした足取りで階段を駆け上がっていった。




 一方俺はといえば、先生のその行動に意味を見いだせないでいた。

てっきり、彼の申し出を受けると思っていたのに断った、もしかして俺のわずかばかりある男としてのプライドを傷つけない為に?


 多分疑いようもなくそうなのだろう。


「もう少し男を上げないとな」


 海音君が去って行った方向に目を凝らしながらに発した言葉は俺に対してのなぐさめだ......



 悔しいけど、『いい男』っていうのはああいうのを差すに違いない。

 とてもじゃないけど現時点での段階、いやそんな張り合うとかの問題じゃなく。

 永遠に適いそうにはないんだろうな、と思わせられてしまう程に。



「言われずとも、自分でも否応なしに感じさせられましたよ。差を」


 俺には男としての魅力が欠けすぎてる......




作中にあるような状況でいえば前のめり姿勢から顔や顎、または胸側からズテンッと転げ落ちるんだろうけど。それだと何ら絵にはならないので、多少はね......

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