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第三者の視点からは


 後方に見える一つの影。


 あの電柱の隙間に隠れているのは恐らく、ほぼ確実に立花さんだ。


 そう思うに至るのは直観でも何でもなく、今の所一緒に下校できるような友人なるものの存在は確立してはいないからだ。例外である愛美は別として。

しかし本人はまだバレてはいないと思っているのだろう、彼女がいる方へ焦点を当てるや否いかんともそれを察知したのかササッと身体を縮こませた。

隠れみのにて「ふぅ、危ない危ないセーフ」と腕で汗を拭っている様子が目に浮かんでくる。

 こちらからはもうバレバレのアウトなのだけれども...... あちらは気づかれていないと思い込んでいるらしい、それを示すように彼女は一度気を取り直した後、すすーっと顔だけを覗かせた。姿を現そうとする気は毛頭ないようだ。


 この坂を登り終えれば俺と愛美それぞれの住まいが見えてくる。

夜も段々と更け始めるかつ、そんなものの数分足らずで帰宅しようとしてるこのタイミング、信じられないことに彼女がここにいるという事実。まさか学校からここまで付けてきた?


 理由はどうあれ警戒レベルを下げていたせいか、危うく愛美に言われなければ気づかないところだった。

いやそれ以前にだ。あんな綿あめ大好きチョッピイを思わすぐらいに分かりやすい隠れ方をしているにも関わらず、彼女の存在に気づけない俺の間抜けさったら......



「なぁ......」


 俺は後方を見据えながらただ一言口にした。すると。


「いつ気づいたって?」


 そのたった一言で俺の言わんとしたことを即座に察せられた。

 後に続く言葉を当てられたのはこれが初めてじゃない。

 幼馴染が持つ特有の共感シンパシーと言うのか度々驚いていたら切がないもんな。


俺はどもりつつも「うん」と頷く。


「まぁ実を言うと商店街付近を歩いていた時から」


「うぇ!?」


「――っていうのは冗談で、わたしもさっきかな」


「へ? あ、なんだ、つまり愛美も知らなかったわけだ」


 くそ、思わせぶりな態度をみせるもんだから変な声を出してしまったよ。

 どうにも愛美の前では性根の部分を知られてるだけにクールな感じを保てないんだよな。

まぁ普段からクールの欠片なんてないように思うけど。


「あんまり人をおちょくらないで貰えると助かるんだけど......」


 一度目を離して細目で軽く睨む。

 ダメ元で頼んでみたが、やはりというか予想通り「それは聞き入れられません」きっぱりと否定された。

そう言った手前ではあるが、これも昔ながらの慣れ合い的なやり取りだから対して意味のない質問なんだよな。大人しく受け入れて貰えたらそれはそれで変...... ってそんなことよりだ。


 俺は愛美との会話もそこそこに急いで坂を駆け降りる。

 愛美もそれに付いてくる。


 であれば、二人揃って電柱の前で足を止めた......



 身体を縦に伸ばして上手く隠れているつもりなんだろうな。

 確かに言われてみればだけど身体と柱の面積の比重からして完全に足が見えてる、遠目からは分かりにくいことでもこれだけ近くに寄れば言い逃れは不可能ってね。

 


「もうそこにいるのは分かってるよ、立花さん」


 俺は彼女の背中に、というよりは電柱に向かって呼びかける。

 気持ち的にはさしずめ犯人を追い詰めた高校生探偵、なんて高度なもんでもないか、言ってしまえばただのかくれんぼ。傍からの助言で人ひとりを見つけただけであって微塵たりとも誇れることでもない。


 ということでかくれんぼは終わり、間近で声を聞いた彼女は観念したようにひょこっと顔を出した。

 細身であり背も小さめな彼女は電柱に身体を埋めるのなんて訳がないことなのだが、さすがにピンポイントで名差しされたら誤魔化しようはない。

 かと思いきや。


「あー、いやぁ、こんな所で合うなんて偶然......だね黒真っち」


「いやいや、こんなあからさまな偶然で白を切るのは無理があるって」


 この調子の良さだよ......

ここまで来てなおやり過ごす気でいようとする図太さ。

そんな様子見であったが為においおいと思わずツッコミを入れてしまう。


「あ、ははは...... そだよねー」


 そのツッコミにうっかり、といった感じで手を頭に乗っける立花さん。


「それで、えっと偶然......立ち会った立花さんはどうしてここに?」


 理由なんて分かりきってるけども、とりあえずは話を切り出さないと。

 俺は呆れ気味で要件を告げれば、立花さんは半笑いの顔のままにまじまじと言ってのけた。


「あ、っと、それはだね。実はかくかくしかじかで」


 

 ...... はて、さて、どうっツッコんでいいやらだ。


 そもそも元々ツッコミは俺の性分じゃないというか、どう返すのが正解なんだろ。

話せば長くなるであろう説明を省いたり、要件や事情を端折る時の台詞ではあるにしたって、それを直に口に出して言うのは格段に陽気の良い人か彼女くらいのもんじゃないだろうか。

 このノリにはちょっとついていけそうにないなと判断した俺は率直に要件を聞いてみることにした。聞けば今日の部活内容は自主的な活動であったが為に偶然俺を見かけて偶然つけてきたと。


 立派なストーカー行為じゃないか......


 あれ、でも確か立花さんは立花さんで約束事があったような。



「あの、あ、あれは? あの互いに用いたネタでの勝負って話はどうしたの」


 そう振った途端、やけに勝ち誇った笑みで。


「ひひっ、逃げるが勝ちっていうっしょ!」


「あ、ああー、うん。それはまぁそうなんだろうけど、どうなるんだろ」


 まさに一本取ってやったぜ!

自信満々に言ってるけど、つまりはすっぽかした訳だ。

 まぁ言っても口約束だから律儀に守る必要はないと言えばない。だとしても約束したからには出来る限り守ることを心掛けないと人間性を疑われたり信用性を失う羽目に、って一口に約束といっても重要性の問題もあるか。


「まっ、実際結果は見えてることなんだけどもね。でもでも私にとってはこっちの方が興味があったからさ」


 こっち......

その言葉を出すと同時に立花さんは俺から視線を外す。

軽く一回瞬きをした後「それにしてもなるほど、彼女が例の幼馴染という奴ですかな」立花さんの目は獲物を狙い澄ますように横にいる愛美に狙いを付けた。



 本当にやられた......


 この人にとって報道部は娯楽。

 常に面白い方を優先するタイプであってプライドもへったくれもない。

 後々こうなることを打算してわざと高乃塚真也、彼の挑発に乗ったんだ。

そして俺の警戒を解く為に諦めたように見せかけた。まさか帰り際に尾行なんてしないだろうと言うことも見越して...... 決して見くびっていたわけじゃなかったんだけどな、こうも思惑通りに事が運ばれてしまっては甘かったという他ない。

 彼女の執念は報道部の一環というよりは個人的な趣向に近い気がする。



 俺と愛美は性別は違えど根深い男女の仲ではなくただの幼馴染な間柄だ。

 当然、逢引きや浮気現場を見られたことにはならない、のだとしても公の場はもとより学校内に置いても身内のことを話す友達や学友はいない。

そうなると実際内密な関係であることは間違いなく、第三者の目からみれば仲睦まじい男女が二人でいるという風に捉えられても不思議じゃないということ。


 別に愛美のことは隠しているつもりはさらさらないのだけれども、事情が事情なだけに見られた相手が恋話大好き立花さんっていうのが最悪だって......



「あの黒真、この人は...... 」


「え? ああ」


 俺は淡々と立花さんと口を交わしてる横で面識がない愛美は話が見えてない。

 しばらく俺達のやり取りを見ていたであろう愛美は、静かに問うてくる。


「えっと、そんな知り合いってほどじゃあないんだけど。あ、かといって友達でもなくて、なんていうのかな。同じ学校のクラスメイトっていうか」


 自分から物事を説明することは苦手だ、さらには人から人への慣れない紹介の催促さいそく

 俺がどう紹介したら良いのか迷いかねていると。



「ほいほい、ご紹介に預かり。初めましてだね幼馴染さん。わたくしめ黒真っちとタメで同じ高校に通っている立花緑と申すものです」


「あ、初めまして、わたしは林道愛美よろしく」


「愛美かぁ ならあいみんだね」


「じゃあこっちは、みどりんって呼ばせてもらおっかな」


「どぞどぞ」

 


 ――そんな感じでスムーズに自己紹介は終わった。


 さすがは報道部、っていうのは関係ないな、これは単に経験の差だ。

 その証拠に愛美も自然と対応出来てる。

 俺は人とあまり関わりいがないから説明にもたつくってだけの話か。

 しかしなるほど、こうやって人の輪が広がって行くんだ...... 


なんて気楽な面持ちでいられたのはそれまでだった。

 高校生にまでなって小学生並みの感想を抱いていれば、立花さんは親しみを見せていた愛美から足を引くようにして離れる。やも「ぐひひ」と、わざとらしく声を漏らし笑みを浮かべ始めた。


 顔合わせも済んだことで早速立花さんのペースに持っていく気だろう。

 もうほぼほぼ諦めていたとはいえ結局は何事もなく解散っていう風にはならないよな...... 

 ここからどうするかだ。



 俺は察したが、当然にも愛美は気づいていない。

 俺達を交互に見回すその嫌らしく細められた眼光と楽し気に曲げられた口元に含まれた作意さくいを。


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