借り物競争 白と青×金と黒
お手数をおかけしてすみません、思いのほか文章が長くなってしまい分けさせて頂きました。
一つ前の話に文を追加しました(乗せました)
え...... と驚く間もない、そのまま芽森さんに後ろを向かせ片手で背中を押した、海音君がいる方へと。背中から押し出された芽森さんは突然のことに「きゃあっ」と小さい悲鳴を漏らす、その拍子にバランスを崩し足をつまずきそうになった所で海音君が優しく受け止めた。
《な、なんとこれはぁぁぁ! 出来ればわたくしが変わりたい、いや変わって欲しい。あぁ羨ましい......》
さっきから思ってたけどアナウンスに私情を持ち込むのはどうなんだろ......
言いたいのは分かるけどそれは口に出すものじゃないと思う。
「あ、ありがとう......」
「いや......」
頬を染め合う二人の絵面には一面の花が咲いて――違うこれは漫画じゃない。
倒れ込む女の子を優しく受け止める男の子、まるで漫画の1コマやドラマのワンシーンを見てるような錯覚をさせられるが、これは紛れもない現実だ。それだけ完成されてる。
周囲も思わず競技であることを忘れてるぐらい見入ってしまっている。
そんな素晴らしい一場面の演出をした楓さんはどこか達観した表情で二人を見据えながら。
「ったく、ほんとめんどい」
ふと、だるそうに呟いた。
その様はいつまでも煮え切らない世話の焼ける男女を見守らんばかりといった風にも見える。
実際さっきの行動は二人をくっつようと画策した感じに捉えられなくもない。
そう思うと海音君と楓さんは恋人同士じゃなかったのか......
それはともかく、芽森さんに男が言い寄ることを嫌っているあの楓さんが男子に預けたという事実。
芽森さんを男子達、というか俺から遠ざける為にやった行動に過ぎないとしても、海音君は楓さんのお眼鏡に適うほどの人なのかも知れない、彼なら芽森さんに釣り合うと。食堂で助けてくれた時はカッコよかったし。見た目からしてイケメンだし。
その海音君と芽森さんを見るとどこかぎこちない様子。
他の男子も気持ちを切り替え、近くの女子達に頼みこんではいるも......
「失せろ」
「ごめんね」
「彼氏いるから無理」
まだペアを見つけられないようだ。
なんて残酷な競技なんだ...... 男子だけじゃない女子も同じことが言えよう。
これじゃあ男女ペアで踊るリア充達の御用達競技と変わらない気がする。
フォークダンスが種目に入っていなく安心していたのにこんな落とし穴があったなんて。
っと、一瞬忘れていたけどこれは競技だ、彼らが足を止めている今がチャンスなんじゃ――
「さっさとゴールするか」
そんな声がしたと同時に、軽く握られている手の感触が強くなり、ドキっと胸が脈打つ。
刹那、胸の高鳴りが静から動へと成り代わった。俺はいきなり手を引っ張られ、所作もなしに走り出した彼女の動作についていけず、「うあっ」と転び――そうになった所でピタリと止まり事なきを得た。
「ちょっ、とろ......」
二度も女の子にとろいって言われた......
いやそもそも返事もなしに勝手に走り出さないって普通。 誰だってつまずきそうになると思う、確かにとろいという自覚はあるけども。
そう自分を卑下しながら彼女を見ていると、楓さんは目をつむりながら大きくため息をつき、片目でこちらを見やった。
「あんたのスピードに合わせるから、転ぶのだけは“なし”で、恥ずかしいからね」
「わ、分かった」
腰に手を添えどうでも良さそうな口調で告げる彼女に、返事を返す。
楓さんに嫌われてることもあってかどこか緊張してしまう。
文句はあるけど確かに恥ずかしい思いをするのは嫌だ。
ただでさえ楓さんは目を引くんだ、転んだりでもしたら幾つもの視線がこっちに集まる。それだけは避けたい。
「よしっ」
俺はこけないことをノルマに気合いの一言を入れる。
それから多分、隣に女子がいるからだろう「少し、本気を出すか」とかっこつけたくなる衝動に駆られる自分がいる。だけどそんなリミッターみたいなものはなく凡人はどこまで行っても凡人であり俺自身の限界速が変わることはない。気持ち的にはギア2ぐらいは出してるけども。
「あ、手......」
そ、そういえば楓さんは何も言わないで手を握ってきたけど、説明しなくてもいいのだろうか。
今もこうして手を握って......
所詮これは借り物競争であり物を掴んで走るか、人の手を握って走るかの差でしかない。
楓さんは何でもないようだけど、それが異性ならなおさらだ。
俺は一人恥ずかしい気持ちを抑えながらも「先手は頂きだ」そう思いながら足を動かすことに集中する。
***
ほんとう男というのは現金に思う、楓さんが隣にいたおかげか難なく障害物を越えられた。
しかし問題はいよいよ最後の障害物、キャタピラだ。
本来のキャタピラは芋虫型のダンボールの中に入って全方に転がしていくというものだ。
野外で競技をする為か地面の上にマットを敷いてあるからケガをする心配はない。しかし別の心配はある。
これは通常のものより幅が狭くペア仕様になっている。このことからもお題は誰かが面白半分で仕組んだものである証拠だろ。そう言えば一週目の時に動かしづらく感じたのはこれのせいだったのか。
でもこれじゃ面積的に横並びに動けない、密着するしか...... でも女子と、肌と肌を合わせるなんて......
「あんた上ね」
「え......」
俺が煩悩と戦っている間に楓さんはそのままキャタピラの中に入る。
迷いがない、嫌悪感を抱かれてるから当然か、意識されてないのは知ってるけど男として何か残念に思ってしまう。まぁ別に俺も楓さんは苦手な分類だし、意識なんてしてないけど――けどもだ、これは意識せざるを得ない。楓さんとの距離が近いっ......
柔らかい身体が、端正な顔が、ほのかな匂いが――無理だ、俺は色んな部分を見ないように目をつぶる。
楓さんはどうなのか、これだけ密着してるんだ流石に......
「じゃ動かすよ」
「うん......」
まぁ分かってた、俺だけ一人でに意識しているのは。
結局そのままゴロゴロと転がせていく。狭い段ボール中、お互いの体は密着し合い楓さんの柔らかい部分が....... 俺は変に楓さんを意識しないように別の何かがいると思い浮かべる。芽森さんとか、芽森さんとか、これはダメだ、増々意識が強まっただけだ――
――キャタピラが終わればラスト一直線、ここは全力で走りきる。
スパイ〇ルブーストっ!
気持ち的には50メートル走5、4秒の光速の世界。現実は100メートル走十五秒の平均以下のタイム。
これでもかという程の全力全開の走りに楓さんは悠々とついてくる。
男のプライド故か俺は思わず意地になりさらに足を回す、そしてゴールテープを切った。
《如何に早く異性と通じ合えるかどうかで勝負の行方が左右されるこのバディコンカップリングレース、いち早くペアが決まった黒沼鬱――有真選手が一着でゴールです》
その競技タイトルはおかしい、それにペアじゃなく借り物だろう、いつの間にか競技内容変わってるから正しくはあるけど。俺と楓さんがコネ〇ティブ出来るとは思えない...... もちろん変な意味じゃなく主旨が合わない男女という意味で。それと今鬱って言おうとしただろ、まぁどうせ心の中で言った所で届かないけど。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ...... はぁ、はぁ」
あんな短い距離で全力を出すのはやめればよかった。
俺は情けなくも地面に寝そべる。
喉が痛い、しんどい、疲れた、死にそう...... 心臓の鼓動音が止まらない。
驚くことに俺が息切れを起こし酸素不足になっているのに楓さんは息一つ乱していない。
芽森さんを捜しにきた時はあんなに息を乱していたのに、それだけ芽森さんが大事ってことか。
そしてそのまま楓さんはテントに戻っていった。
今はそれより水、が欲しい、喉が渇きすぎて限界だ。
体力を使いすぎて一歩もたりとも動けない...... 水がこんなに恋しくなるなんてア〇バスタ編が感動できる訳だ。いや感動する箇所はそこじゃないか。
しかし、今日は地面が気持ちいいんだな。じめっとしてなくそれでいて、ザラザラ具合が丁度――
「――あんたの水筒ここに置いとくから」
俺が地面に顔をこすりつけていると目の前に水筒がポンっと置かれた。
俺の水筒っ! 急いで掴み取り水を一気に飲み干す。喉に流れていく水が汗を引かしていく。生きてるって素晴らしい......けど誰が、俺はテントに戻っていく彼女の後ろ姿を捉える。
意外にも楓さんの優しい一面を見た気がした。
意外といえば、普段の言動やつんけんな態度、見た目からして冷たい印象があっただけに楓さんの手から伝わってくる温度は暖かかった。
それと俺が異性の手を触れたのはさっきので3回目だ。
携帯のアドレス帳じゃないけど、これが4回、5回と増えていく可能性、はないかな。
***
蒼組の主将、海音君は脅威であったけど一人で全部の種目に出るのは限界がある。
海音君が退いた後の蒼組は、猛威を振るうことはなく、彼と変わるように楓さんの出番が増えてからは
紅組、俺達一組の独走状態が続きリードしていき。
残す競技はいよいよ体育祭最後を飾る、色別対抗リレーとなった――
全学年で行われる大規模なリレーといったところか。
ルールは至って単純、普通のリレーと変わらないが必ずそれぞれの学年から一名は選出しなければならない。紅組からはもちろん楓さんが選ばれてる、
初めは芽森さんが、主に男子多数の提案で候補に入っていたけど芽森さんは「か、楓がいいんじゃないかな。結構早いから私なんかよりは」と咄嗟に転換した。
拒否すると思いきや楓さんは「文音が言うんじゃ仕方ない......」と乗り気じゃないながらも肯定し楓さんが出ることになった。
「いっけー!」
「負けるなぁぁぁ」
「いけるいける、最後まであきらめるなぁっ」
「まだ追い越せるよぉぉぉ!」
天候が悪い中で行われた体育祭も締めに入ろうとしているせいだろう、外野がいつにも増して熱気を帯び、今日一番の大きい声援が飛び交う。
《おおっとここで早くも紅組、次の走者にバトンが渡ったぁっ!》
楓さんの順は二番手、先輩からバトンを渡された楓さんは綺麗なフォームで走る。
あんなに運動神経が良いなんて知らなかった、知る必要もないけど。確かに俺と同じペースで走っても息切れしない訳だ...... もしかすると俺が遅すぎてイライラしていたかもしれない。
全力の走りでたなびく金色の髪はキラキラと輝き、「綺麗だ」と自然に言葉がこぼれるほど選手の中でも一際に目を引いてしまう。
俺は重視、楓さんに見惚れ...... 目を奪われてしまっていた――
色々端折った部分もありますけども体育祭はこれで終わりです。
長かった......




