男の煩悩ゆえに必然
いくら出さなかろうが、先輩達の描写をないがしろにするわけにはいかない......
何せ体育祭(これはそうだと言えるのだろうか?)ですので。
《――男子限定、学年別による対抗騎馬戦、優勝は紅組です! おめでとうございます。そしてなんと優勝した1~3年生全員が紅組という驚きの結果に、これは凄いことになりました。まさにトリプルスリ...... じゃなくて人馬一体ならぬ三馬一体と言うべきでしょう! 下級生と上級生が一丸となってもぎ取った――》
騎馬戦の結果をアナウンスが興奮冷めやらぬといった様子で感想を述べてる。
興奮しすぎて似つかわしくないセリフを言いそうになるも上手く言いなおした。多分。
三馬一体という表現も合っているのかはさておき、騎馬戦で紅組全員が優勝出来たのはほぼ芽森さんのおかげと言っても過言ではない。
――――騎馬戦が終わると女子はチア衣装から体育着に着替え直しにいくも芽森さんだけは何故か着替えに行かなかった。いや着替えに行けなかったと言う方が正しいか、それと言うのも......
「芽森はまだ脱がないでくれ、一生のお願いだ!」
「後生の頼みだから......」
「末代まで感謝し続けると約束するっ」
一年生の出番が終われど先輩達が後に控えてる。
着替えに行こうとした芽森さんはその先輩達に諭され、必死に懇願されたからだ。
結果、芽森さんは断ることが出来ず一人だけチア姿で三年生の女子達に交じり応援していた、というより恥ずかしそうに立っていた――
そんなことで一生事の頼みを使ってしまうのはどうかと思うけど......
まぁ一生の頼みとか言う人は大体何回も言ってるんだろうなぁ。ほんと言えば一生の価値はそんなに安くないだろうに。
必死さの余り「芽森がいるのといないのじゃあ、全然違うんだよ。灼熱の砂漠を歩いてる中オアシスを発見したかと思ったら海水浴場があったぐらいの差があるんだっ」
なんて言ってる先輩もいたけど、いや砂漠に海水浴場って無理があると思う。
砂や石、岩場などの密集地帯であり水をまいても保水力はない。海水を引いても砂漠は大して減少しないだろうし、パイプラインを引くのにも莫大な資金が...... ってそうじゃなくてっ。
砂漠に例えたのは、芽森さんは他の女子と違うと言いたかったんだろう、先輩も上手い例え方をしたもんだ。俺なら極寒の強風が吹き荒れる山地に咲いているたった一輪の百合の花に――オアシスでいいか。
それもあって、先輩達もパワー全開ヤル気MAXといった感じで見事に騎馬戦を制した。
一部女子の先輩方は気に喰わないといった様子だったけれど、偶然の勝利を必然にさせるほど男の煩悩が凄まじいということだ、それほどに芽森さんは異性として魅力的なんだと思う。実際魅力的だけど。
三年生が競技を終えると、先輩達に続くように芽森さんも体育着に着替え直しにいった...... 肩の荷が下りたといった感じだろうな。
それにしても懇願してる先輩達の様はどこぞのアイドルファンと被って見えた。
付き合えないならせめて貴重なチア衣装や間近で女の子を拝めていたいという懸命さ。さらにはCDを爆買いした挙句の果て、数秒間ほど握手することしか出来ないファン達を尻目に推しメンがテレビで共演したモデルと嬉しそうにデートをする背景まで連想させられたような。あくまで捉え方の問題だけど。しかしながらあの番組は残酷極まりないものだ......
そう思うと推しメン、言い直せば憧れの異性とデートした俺は勝ち組、なわけないか。本命がいるんじゃ......
***
「さて、ひんやり冷たい寒いなか熱い激闘が繰り広げられております。蒼組が一歩リードし優勢だと思われていたがしかし紅組の健闘で分からなくなってきました。この熱戦の末、優勝するのは果たしてどの組になるのか! それは神のみ――つ、次の競技に行きましょう――」
騎馬戦が終わったとはいえまだ競技は残っており、痛い...... 明るいアナウンス役が次の競技の種目を発表し始めた。言いよどむんなら言わなければいいのに、と思うけど色々感想を言わなきゃいけないのは大変だろうな。ひんやり冷たい寒いなかは中々に語呂がいいと。
「はぁ、なんていうか何だろ。この気持ち」
椅子に座ってアナウンスについての感想を考えてると、横からため息が複数聞こえてきた。
チアガール姿は名残惜しいし、そりゃあため息も吐きたくなるか。俺だって同じ......
「分かるぜ、シャ〇ニングガンダムからゴッ〇ガンダムに乗り換えたような切なさっつうかさ」
「いや、それはいくらなんでもねぇわ。それお前だけだから。どっちかっつうとス〇ライクからフ〇ーダムになった感じだろ」
――気持ちじゃなかった。
それ一緒っていうか、違うようにいってるけどガ〇ダムという括りで大差ないから...... あと上位互換で悲しむ必要ないから、旧機から新機に成り代わる切なさは分からなくもないけども。
まっガ〇ェインから蜃〇楼に変わったぐらいの気持ちになってる俺と彼らは相容れないだろうな、とか一瞬思ったけどむしろ悲しいまでに完璧に同調してた...... そもそも感情の例え方がおかしいよな。
俺は心情で項垂れながらもガ〇ダム、じゃない、芽森さんを見る、当然あの何の面白みのない地味な体育着に着替え直してる......
華やかで明るい衣服から紺色で柄のない衣服か。
モノクロとカラー、もっと言うなればセル画とCGみたいなもので、昔のアニメの作画と今の作画を見比べた結果、見劣りするといった具合にその差は歴然だ。昔のアニメも味があってそれはそれでいいけどド〇ゴンボールは圧倒的にセル画の方が良いと思う......
《次の競技に出る人は準備をしておいて下さい、繰り返します次の――》
そうだ、今はそんなことよりも競技に集中しないとまずい。次が個人で出る三つ目の種目、借り物、障害物混合レースだ。気を引き締めていかないと。
またまたいでしまった。
次の借り物競争でようやく体育祭は終わりです......たぶん。




