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地味よりも華やかに

 

 例え初恋であっても決して口にはしなかった想いがいとも簡単に、それもこんな形で終わってしまうなんて今日は最悪の日だ。

俺が振られてしまったせいか、教室はさらにどんよりとした空気になる。『あっ......』という声が漏れたのを俺は聞き逃さなかった。顔を下に向けてるからどんな表情か分からないけど、同情、もしくは哀れみの目を向けられてるに違いない。


普段、芽森さんの告白話を聞いてる限り不機嫌そうな顔を見せていたこともあってか、女の子と付き合えるかもしれない、という可能性を優先して自分の気持ちを裏切った結果がこれか。あまりの愚かさに笑ってしまう。

あげく、その楓さんには付き合ってる人がいた。見惚れてしまうような金髪に整った顔立ち、それにモデルのようなスタイルの良さ。

少し近づき難い雰囲気があるのか男子は芽森さんばかりに目がいってるみたいだけど、けっこうな美人なんだ男の一人や二人いてもおかしくはないか。

別に俺は楓さんのことは嫌いじゃない、苦手意識はあるってだけで、だけど想いを寄せてる相手じゃない。俺が好きな人は......



「ええぇぇぇー!?」


 突如、誰かが素っとん狂な声を上げた。そのひと際大きい声にみんなは反応する。

顔を上げて見なくても分かる、緑ピアス子だ。

この甲高い声は特徴があるから分かりやすい。ハッキリ言えばうるさいだけだ。


「ちょ、カエって彼氏いたの! マジな話? 初耳なぁんだけどぉー」


「ああ...... 言ってなかったか。そもそも聞かれた覚えないしね」


「あれだけメモリンの話になると不機嫌そうになってるんだもん、男なんかいないと思ってたし。くぅぅっ、盲点だったぁ」


 楓さんのカミングアウトに驚きを隠せていないのか、反応が大げさ気味だ。

けど以外だ、てっきり緑ピアス子はもう知ってると思ってた。でもあれだけ芽森さん目当ての男子が多いんじゃ気が付かなかったのも無理ないか。

何もそう思っていたのは俺や緑ピアス子だけじゃないみたいだし。

周りも楓さんの話に興味深々のようだ。


「芹沢って彼氏いるの?」

「意外、芽森とくっついてるからてっきりそっちの気があるんじゃないかと思ってた」

「なぁなぁ今度ダブルデートしようぜ、ウチの彼氏とさ」

「楓って男に興味がない素振りしてたの」

「ねぇ写メ見せてよ」


 特に女子には絶大な効果があったようで、楓さんに群がい出した。

そのせいで俺は自然と自分の席から後方に追いやられる形になる。

光景がまるで逆だ。今度は女子がうるさくなり、男子は鳴りを潜め『女って......』という表情になっている。


ほんのさっきまで暗い雰囲気だった教室は楓さんの彼氏の話題で盛り上がってる。俺の話題をそっちのけで――

クラスで目立たない奴の告白、それも失恋。そんなちっぽけな存在のことなんか見る影もないか......

女子が群がってるせいで確認できないけど芽森さんにはどう思われたのか、多分誤解されただろうな...... って誤解なんか元々されてないか。

何てダサくて惨めなんだ。まさに脇役――と自分自身を卑下していた所で、肩に重みを感じた。


「おいおいおい、見てたぜぇ。きっぱりとフラれたな」


 横を見ると浜慈がいた。しかも肩に肘を乗せて、気を使ってか小声で話しかけてくれてるんだろうけど少し馴れ馴れしくないか? あと、俺がいうのも何だけどそのアシメは似合ってないと思う。

大方自分と同じ境遇の奴がいたから慰めてやるか、と思ったんだろうな。意外と優し――


「互いに教室で公開告白したのは同じだけどよ、ゴメちゃんに彼氏がいない俺の場合はまだ可能性...がある。まぁ芹沢もいい女だ、密かに狙ってる奴もいるだろうしな。でも彼氏がいたんじゃ諦めろ...。まぁそれだけ言いたかっただけだ」


 違った、ただ優越感を得たかっただけか...... 血も涙もないとはまさにこのことだ。それもそうか、親しくもない奴のことなんかかまうはずないもんな。

そうやって浜慈は自分にはチャンスがあるんだと告げて満足したのか、俺の肩から肘を下し、別の男子の所に喋り掛けに行った。


一人残された俺は何もやることがないので机に座るしかない、のだけど俺の机は今女子達に占領されている。

しかも声を掛けづらい『そこ自分の席だからどいてくれない』とか言えるはずもなく、どうしようも出来ないのでその場で立っていることしか出来ない。しかし恥ずかしい...... 猫がコタツで丸まるように俺にとって教室で机に座れないなんて裸になっているのと一緒なんだ。あくまでその気分になるだけだけど。



結局、女子達の盛り上がりはチャイムが鳴り先生が教室に入ってくるまで続いた――


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