アンパン、食パン、カレーパンと来たら
昼過ぎにもなるとさすがに女子達の熱も冷めたのか、いつも通りのメンバーである芽森さん、楓さん、緑ピアス子が机を囲みながら食事を取っていた。
同じ話題が一日中ずっと続くわけがない、人気の芸能人が結婚したり、世界が滅びるなどの予言があったり余程のことがない限り噂なんてものは持って一週間やそこらだ。少なくとも俺はそう思ってる。
いつもと違い今日は彼氏がいるとカミングアウトをした楓さんが緑ピアス子に茶化されてる。
今日は本当に嫌な日だ、好きでもない相手に皆が見ている前で公開告白させられて、フラれた途端、俺のことなんか眼中になくなり別の話題で盛り上がって......
とはいっても自業自得か。僅かにしろ浮ついた気持ちがあった俺にも非がある。だけど、思い出しただけでも胃が空っぽになりそうだ。そのせいか今日はなぜか空腹感が襲ってくる。
俺は早々に食べ終わり彼女達の様子を少し眺めてから教室を出た。向かう先は二階の階段だ。
弁当だけでは満たされなかった為に食堂なんかにいかないといけないとは、本当は行きたくない。けどせめてパンだけでも腹に入れておきたい。
この学校には食堂が完備されてる。その理由は良く知らないけど、学食やパンに牛乳、デザートなどが販売されており、料理部の人達が作ってるものをメニューに出されることもあるらしい。食堂に行くこと自体、初めてだから上手いかどうかは定かじゃないけどメニューに追加されるぐらいだから不味くはない筈だ。
学校に食堂があるのは嬉しいことだけど、大人数の生徒達が集まる場所でもあるから、人が苦手な生徒は教室で食べてるんだろうな。他の人の情報は知らないけど、見ている限り芽森さん達は教室で弁当を食べてることが多い。
そう思想してる間に『食堂』と小さく掲げられてある看板が見えた。そのまま進み角を曲がると案の定、人の群れが出来ていた。
心の中で耳をふさぎつつ中に入り、一直線に購買へ向かおうと思ったものの如何せん人溜まりが出来ていてなかなか前に進まない。さらには背も低いのもあって度々押し戻される。こういう時背がもう少しあれば、と悔やんでしまうけど背が小さくなかったら俺は芽森さんに気にも留められてなかったんだろうな、少し複雑な気分だ。それと今じゃ話が違うけど。
せめて学校近くにコンビニがあればこんなに集まらないだろうに。そうなれば俺だってコンビニを優先する。なんて思ってもしょうがないか、早くパン一つでも買ってこんな所から出ないと......
***
何分経っただろうかようやく、パンが並べられてる購買が目に入った。
もっと体力をつけとくべきだった、と思うけど面倒くさいことは事実......
帰宅部で体力がない俺には人込みはキツイ、遊園地では良く持ったと思うよ本当。
これでも小さい頃はもう少し体力があったんだけどな。もう歳かな、と息を少し整え棚のパンに目を通す。
アンパン食パンカレーパン、ジャムバタチーズ......
これ絶対ワザとだろっ! 歌詞に沿うようにジャムやバターまで横並びに置かれてるし。
見事に三つのパンが揃えてあったせいか、つい頭の中で奏でてしまった。けど懐かしいな。小さい頃よく見てたっけア〇パンマン。
それはともかくとして、学校の定番の焼きそばパンに、メロンパンナにロールパン。だめだ、頭から離れない、もう全部ア〇パンマンに思えてきた。キャラが思い浮かばないのは、ピザパン? 最近のキャラは分からないけどピザパンマンはいないはず。よし、ピザパンに決めた。
俺は決めたが早い、財布からお金を取り出し値段を支払いパンを受け取る。
さっさと退散だ、と後方にくるりと身体を回すといかにもな光景に目が見入った。
この位置からだと全体の様子が良く分かる。まさにリア充人達の巣窟だ。
テーブルに腰かけている人の数の多さ、縦横無尽に飛び交う人の声に思わず立ちくらみしてしまう。
学生特有の雰囲気なのか、制服が校内と相まってより俺の中の苦手意識を増幅させられる。
いつもこんな状況なのか......
だけど出ないと、何とか足を進めた直後――誰かにぶつかった。
後方に倒れ込んだ拍子に背中を打ったらしく鈍い痛みが走るも、俺はすぐさま上体を起こしぶつかった相手を確認する。
「ってぇ、誰だよ」
相手はピンピンしてる。倒れたのは俺だけか。
尻もちをついてる俺に脇を抑えながら下目で見てくる男子生徒。俺はその男に見覚えがあった。
確か名前は、高乃塚真也だっけ? なんでこんな奴の名前を記憶しているのか自分でも嫌になる。
それに痛がってる顔を作ってるけど全然痛くないだろ。俺の体重は四十前後、今ここにいる男子達、下手したら少数の女子よりも下回ってる。軽く当たったくらいで痛みは感じないはずだ。
「ちゃんと前見て歩けよな...... ってお前はあんときの」
相手は尻もちをついてるのが俺だと気づいた瞬間少し目を見開いた。
覚えていたんだ、むしろ覚えられた、といった方がいいのか。この感じは行きつけのコンビニ店員に顔を覚えられたような嫌悪さに似てる。苦手なタイプということだけに。
この男と言葉を交わすのは癪だけど、前方不注意だった俺も悪いんだ。謝らないと—―そう思った所であることに気づいた。
そういえば俺の買ったパンは?
視線を両方の手に移してみるも手に持っていない。焦ってあちこちに視線を散らばらせるとすぐ見つかった。
パンが前方に落ちてる、ちょうど俺の目前にいる真也の足元に......
「大丈夫かぁ? はは、お前ほんっと高校生に見えねぇよな」
それに気づいていないのか、倒れてる俺に向かってのんきに言葉を掛けながらも一歩、二歩とこちらに近づいてくる真也。
間違いなくあれは俺が買ったピザパン、まさか、まさか......
「あっ! 待っ――」
パッギョン――
俺の静止は虚しくも、軽快で嫌な響きとともに消え去った。




