【 】成らざる者の一歩
ーーーーポツンと。
最後に残った俺は、ズボンのポケットから携帯を取り出し電話を掛ける。というよりは繋いでいたというべきか。
信也君が立ち去ったあと。
立花さんが後ろ手を組みなから前向きに話始めたその一瞬をついて、慎重に着信を鳴らした。
『そのまま切らないでいて』と。
呟いたがのち、信也君が察してくれたことにより通話状態を維持。学校内ではガヤや回りの反響があって聞こえづらいかもしれないけど、薄手の制服ズボン、誰もおらず、風も落ち着いてる野山なら声を拾ってくれるはずだとして。
先程のボイスレコーダーを参考にしたなら
〈信也くん?〉
と、まずは聞こえていたかの確認。
彼の名前を呼ぶとすぐに応答があったが。ポリポリと頭を搔く仕草で見せるような、若干困惑したような声色でいてる。
〈断片的に聞き取れちゃいたが…… 盗み聞きとあればますますストーカー染みた行為になってないか?〉
〈どっちみち認定されちゃってるんなら変わらないと思うけど〉
〈確かにそれは言えてるな〉
二度、三度悪行を重ねれば罪は増えていくものだが、一度やってしまったなら数は関係ないと。ただし後に引けないという悪い行いを積み重ねてしまったならばの話で。良い行いを積み重ねたなら、副を積むという意味合いに変わる。
あくまで独自持論だけども、今回に限れば信也君のストーカー行為なればこそ解決へと導けたんだ。断片的でも聞こえていたならそこは安心。
然らば信也君は心情を漏らし往いて。
〈おかけで立ち退いた意味もなくなっちまったが〉
〈本来は信也君がここにいるべきはずなら。話を聞く権利は最初から信也君だったんだ。こっちはその代わりを勤めたまで〉
〈つっても、飛び出して行ったのは黒やんだぜ〉
…… 自嘲気味に返したのち。
理屈あるその言葉に沸き上がってくるモノを感じつつも、素直に受け取ることは出来やしない。伴わない行動によって醜態を晒したという事実が残っただけとして。
あるがまま、俺は卑屈めいた返事を返すが。
〈結局の"ところ何もしてないのと同じだから〉
〈結果的"に何をやってのけたか、だろ。作戦を練った上でそれぞれが一目散に行動してみせたんだ。向こう見ずとは違うよ〉
スッと、刀を鞘に納めるように耳に馴染んでくるは……
『バカはバカでも救える方のな』
先程に同じーー不思議と信也君の言葉には魔法が込められいるかのようで。燦々勇気付けられるのは気のせいなんかじゃない。
飄々としながらも掴めない性格、くせ者とは彼みたいな人を言うのだろうけど、直球ど真ん中の浜慈君と似たような情調でいながら、左右に投げ分ける変化球投手といった感じだろうか。
〈この場合は果敢に一歩踏み出した自分自身を褒めてやるのも悪かないんじゃねぇの〉
またまた。そんな風に言われたのなら鼻先をひと擦り。恥ずかしく思わば……
〈それに何より喧嘩するほどなんとやら、何となく立花さんのことを知りたがってるような気がして〉
〈……当たらずも遠からず、少なくとも放っておけそうにない存在ってのは確かだろうしな。ただまぁ俺1人だけじゃあ、立花の話を聞き出すことも聞くようなこともなかったから。そこは感謝するところだわな〉
正直いえば。
権利の前にこういう理由に基づいたものゆえ。不仲とあっても口喧嘩程度で実際はそんな仲悪そうには見えない。なんといっても報道と写真の隣合わせな関係、前々から信也君が立花さんを気にかけていたからこそ。
〈ありがとさん〉
恋愛と直結するかは別でも、お礼を言われることによって行動が実を結ばんとする嬉しさ。自分自身じゃなくて他人の恋を応援する側でいてる立花さんの気持ちが少し分かるような気はする。ただし想い人の恋を応援する側となれば、複雑に絡んだ心苦しさへと変わってしまう場合も少なくない……
とーーそのように考えていた傍ら。
〈広大な光と対照な陰影…… 。ある意味驚異的に見るか〉
〈えっ〉
〈いや、こっちの話ーーったく、眩しいったらありゃしねぇ〉
独りでに呟いたようでも、彼の声は聞き取れず。向こうは向こうでなにやら立花さんの事とは別な悩みの種をお持ちのようだ。
とにもかくにも。
〈けどまっ、これにて一件落着。だなっ〉
〈…… だね〉
モヤは残りつつも有無を言わさせない感じなら、拳を合わせる代わりに俺は2つ返事で言葉を返し往いた。それはそれとして。別件でこちらも悩ましいことが1つありっ。
電話代、母さんにどう説明しようかな……
果たして、携帯から携帯へ経由して声が拾えるか
音割れやノイズみたいに、通話相手にバレやしないか等。色々矛盾はあるとは思うんですけどもね…… 展開を跨げばHRまでに教室に入れるかどうかも怪しく思いつつ。
信也君の為、若しくは黒真の功績ではない卑下から
ただ粋な行いと(活躍)させるにも、方法が難しかったりしますゆえ……
【噂の上書き】




