第一話 コラージュ その1
目が覚めた。
でも、時計を止めた記憶がない。
妙に頭がスッキリしているから、寝ぼけてはいない。
それもそのはず、
「ぴぴっ」
時計は今鳴った。
目覚まし時計より先に起きちゃったよ。
損した気分を感じながらメガネをかけ、朝の日課をはじめる。
部屋を出るとき、懐中時計も忘れない。
「おはよう、兄ちゃん」
「おはよう」
ダイニング・キッチンではすでに妹の雫が朝食の準備をすませていた。
テーブルの上にはカリカリベーコンと目玉焼き。
ついさっきコトリと置かれた、マグカップのブラックコーヒー。
そして、絞ったらにじみ出そうなくらいマーガリンが染みた、パン二枚。
母さんは小さい頃死んでしまった。父さんは出張がちでほとんど帰ってこない。実質兄妹二人暮らし。
夕食こそ当番制だけれど、朝食は毎日雫が準備してくれている。
ありがたい、でも、おくびにも出すつもりはない。
「ジシンで目が覚めた?」
「自身? うん、自分自身で、目覚ましより先に起きたよ」
変な聞き方だなと思いながら椅子に座った。
「そうじゃなくて、地面が揺れる地震」
雫がテレビを指さす。
画面左上に「震度4:神洲市、銚子市……」の表示がある。
「地震があったんだ」
どおりで目が覚めるはずだ。
「気付かなかった? 結構揺れたけど」
「いわれてみたらそんな気が」
やれやれと溜息をつきながら、雫も向かいに座る。
しばし、テレビの芸能ニュースだけが場をみたす。
「今日も遅いの?」
コマーシャルになったところで、雫がまた話しかけてきた。
美術部員の俺は、一か月後の文化祭展示用に油絵を作成中。
ここ最近、帰ったら飯・風呂・眠る状態だった。
「うん、あと一週間くらいは遅い予定」
「そっか。涼しくなってきたから、夕飯はラップかけてテーブルに置いとく」
「わかった」
雫は、料理好きという特性をもった希少種の中学生だ。
なので、できたら夕食は温かくて美味しさが残っている状態で食べたいのだけれど、「待ってて」とはいえない。
それほどに俺の帰りは遅いのだ。
二枚目のパンを食べ終え、残りの準備を完了させて、玄関の扉をあける。
「いってきます」
「いってらっしゃ――」
雫の声を聞き終わる前に、扉が閉じきった。
不機嫌な態度に思われてないかな。
なんて、気にかけるのも含めて、地震以外はいつもどおりの朝。
楽しい楽しい、平凡な高校生活。
ビバ普通!
の、はずだったのに――




