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宿毒 ー清音ー

あたしは、産まれた時から綺麗じゃなかった。

まずあの女から出てくる時に『時間』を含めて色々と忘れてきた。それどころか奪ったものも両手の指で足らぬ程に。

あの女ーー戸籍では母とやら言うらしいがよくは知らないーーは気位が高過ぎた。要は自分が人と違うことを認識するのが万死に値したらしい。他人よりも長く留まり、重く出でたあたしはその時点で「異物」となった。

次いであたしは弱く、そして発育が遅かったらしい。立つことも座ることも遅れ、何にも耳を傾けず、開いた口は意味を成さない、と来れば普通来るのは心配が先だろうに、実際に先立ったのは『放棄』だったのはある意味アレらしいというかなんと言うか。

とはいえある程度に人の水準まで届けば干渉は止まった。人並みであれば興味はもう無し、とあれば、あたしに出来るのは人と同じように振る舞うだけ。実際そうしていれば、あたしはそこに居ることを赦されたから。

でもそうはいかなかった。

初めは小さな綻びだった。

園児を集めて屋外のビニールプールで水遊び、至ってよくある光景のはずだった。日差しを浴びてわちゃわちゃと遊んでいたあたしの身体は、手が数本無いと満たせない程の痒みに襲われていて。

原因は今も分からない。あの女と父さんの設計図にミスがあったのか、あの女が隠して飲んでいた気分を整える薬のせいなのか、それとも普通を装った罰なのか。

兎も角として、あたしは普通ではなくなった。転ずればあの女にとっては異常事態であって。治療の為と称してあたしの身体への干渉が始まった。

塩浴を知れば溶け切れぬ程の塩風呂で煮られたり。

皮膚の更新で治ると吹き込まれれば火傷を作らされたり。

芋に接するかのように赤むける程に洗われたり。

血液バランスが云々と耳にすればやれ瀉血だと。

全てはあたしではなく、あの女の安寧の為に。

しかしあたしは、あたしの身体は、普通になることを拒んだ。

それであの女は愛想が尽きたらしい。父さん宛に書状が一通、それがあの女の置き土産だった。法の上じゃあもう死人扱いらしいがどうだっていい。


あの女との縁が切れた後も父さんは優しかった。家を空ける仕事をなるべく減らして、あたしとの時間を増やしてくれた。そんな父さんに迷惑をかけないように、とあたしも出来ることを頑張って、弱いとこは見せないように、全部自分で抱え込んだ。けど…………けど、あたしだって大人にはならなきゃいけなかった。父さんには出来ないこともあった。だからと新しい『母』だって受け入れた。けど…………けども、父さんは致命的に『女性』を見る目が無かった。

父さんは、なんと言うかとてもかっこいい人だった。故に『女性』が求めていたのは、父さんのことだけで。付属品には全く興味はなかったのだろう。それに父が気づいた時には遅かった。

『付属品は母のもの』とする審判。『女性』が父に見捨てられないようにする為の人質としてあたしは留め置かれて早数年。その思惑を潰す為にあたしのしてきたことも、あと半年程で終わる。


それまであたしは、誰の下にも下る事は赦されない。だからね、小鞠。


そんな顔しないで。


あたしが居なくなれないじゃない。

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