「清い」と。
「ねぇ、小鞠……? あたし、きれい?」
全てを水上に晒して、湯気も追いやって、小鞠の前に立ち塞がる。立ち向かう小鞠の視線はといえば、あちらこちらに泳いでて。そらそうだよね、困るよね。こんなモノ見せられてもさ。
「せ、せんぱい…………? 」
ようやく開いた口からは予定通りの戸惑いの声。
「ねぇ、あたしは綺麗? 」
もう一度問い返して答えを催促する。もしそれでも「綺麗」だなんて世迷い言を言うようならば……もっと、汚いあたしを見せるだけだから。
「ねぇ」
一歩距離を詰めると、小鞠の方が二歩下がるからまた間が広がっちゃう。そう、それでいい。そのまま……ね?
「…………きたないっすよ、清音さん」
足が止まる。その答えは意外だなぁ、なんて。いや、望んでいたはずの答えなのに。あれ?
「うん、そうだね。こんなにボロボロで傷だらけで」
「そこじゃないっす」
割り込むように小鞠が手を伸ばして、あたしのお腹に触れる。
「あっ、すいません……」
慌てて引っ込める。いや何がしたいの小鞠。
「…………せんぱいは、きれいです」
「いやどっちなの?」
「先輩は本当に綺麗な方だと思ってます。でもやり方が汚いっす。なんでこんな……うちのほうから嫌いにさせようとするんですか」
「だってその方がお互い後腐れなく1人になれ」
「嘘言わないでください」
今度は肩を押される。
「もう、なんなのさ。小鞠は人の言うことを遮るのが趣味なの?」
「話を脱線させて逃げないでください」
小鞠の声が低くなる。
「お互い後腐れなく? それは先輩の言い訳でしょ? 自分の体のこと言い訳にしておいて、誰もいなくなるのを『これでよかったんだ』なんて言い訳して自分にフタしてるだけじゃないっすか」
「ちょっ」
小鞠との距離を一気に詰める。
「いくら何でも言っていいことと悪いことがある、ってのを知らないの?」
「いーや言います。後腐れなくって言いますけどね、離れた方も、いや離した方だってトゲが残ってボロボロになるんすからね? …………お姉、姉が別れた時も自然消滅だーっ、後悔はないーとか言ってましたけど裏じゃあ『あのこに諦めて貰えなかった』って何年経った今だって引きずってますし、もうあれが最後の恋にするって言って変わっちゃいました。だから」
ずい、と小鞠の視線が高くなる。
「先輩だってどこかに後悔が残ってるはずです。うちよりも前にせんぱいを愛した人、せんぱいに愛された人、みんな綺麗さっぱり吹っ切れてるはずなんて無い」
「それは小鞠の想像だよ? あたしは最初から誰とも一緒には」
「うそだっ!!」
急に立ち上がる小鞠にびっくりして後ずさる。それを赦さず小鞠が近寄ってきて、
「ならなんで……うちのことこんなに惑わせてくるんすか……」
「だからそれは」
「せんぱいだってうちと一緒に居ると楽しいって言ってたじゃないですかっ。うちに正体を明かしたり、コインランドリーや二アマート、空き教室、お風呂、いろんなとこ一緒に行ったり、かわいいって言ってくれたりっ…………」
「それは成り行きで」
「ならなんで先輩……今うちと一緒に居るのに前みたいな顔してくんないんですか……なんでそんな苦しそうな顔してんですか……」
苦しそう?あたし、が? なんで??
「ともかく小鞠、あたしはもう」
「清音さんのわからずやっ!!」
両肩をものすごい力で突かれる。スローで流れていく天井が突然ざぱーんと波を立てて濁った色に染まる。
(…………あぁ、また、)
失敗、しちゃったなぁ。




