閉じた教室で。
「…………分からないです。貴女は一体誰なんですか、和知清音先輩」
「『汝は何者なりや?』とは、また異なことを聞いてくれるね」
脱ぎ散らかした服を拾い集めながら、未だに怯えの眼差しを宿す小鞠へと問い返す。
「逆に、小鞠はなんだと思う? あたしのこと」
「えっ、そ、それは…………」
ごにょごにょもぞもぞ。
「…………わかんないっす。優しくて、ちょっとイジワルなとこの多いキレーな先輩で、うちのことを惑わせる人で……あとは……」
「うん、最後のは小鞠の妄想だね」
「も、妄想……」
ショックで小さくなる小鞠をよそに、とりあえず元通り制服を身につける。帰ったらこれも洗える限りは洗わないとかな……
「さて、と。小鞠、そんなとこに寝っ転がってると置いてくよ」
「えっ、ど、どこ行くんですか先輩」
「……気づかないの? なんか下が騒がしいの」
慌てて耳を澄ます小鞠。やっと気がついたのか顔が青くなっていく。
「どっ、どどどどどどうすんっすか和知せんぱばぱぱぱい!? 」
「落ち着きなよ小鞠、あたしは小鞠のパパじゃないし胸は仕舞ってるって。そうだねぇ、見つかる前に逃げよっか」
「ど、どどどどうやって!? 」
「いや、フツーに来た通りに。外階段からカサカサと」
む? どうやら来たみたいだね。
「あ、間に合わなそう」
「ひょぇぇっ!?」
さてどうしよっかな、ここで反省文とか書かされるのはゴメンだし……お、いい所が。
「小鞠、荷物もってダッシュ。音立てないように」
「えっ」
呆気に取られる小鞠を置き去りにして掃除用具ロッカーへ身を隠す。ツーテンポ置いて小鞠も飛び込んでくる。ロッカーを中から閉めて少しすると、いつもの用務員が入口を開けて入ってくる。
「…………む、」
床に屈んで何かを見ている…………あ、ヤバ。ホコリの跡を見ればここに逃げ込んだのバレバレじゃん…………
「…………はぁ…………んぅ……」
…………小鞠がさっきから耳元で変な声だしててうるさいんだけど……
(うるさい、動かないで)
手のひらで小鞠の口を覆うと、ロッカーの隙間から様子を伺う。…………っ!? 視線が合う。…………気づかれたか……と覚悟を決めた途端、下から金切り声が聞こえてくる。
パッと踵を返す用務員。だけど去り際に、「……今回は見逃すからな」と呟いて走っていった。
………………何かわからないけど助かった。
恐る恐るロッカーを開けると、ややぬるめの風が吹き付ける。よし、誰も居ないね。
「…………ほら小鞠、どいて」
さっきからあたしにもたれかかっている小鞠を、軽くゆさぶってどかそうとする。
「…………えへ……………………せんぱ、い……」
足がガクガクしてて視点も定まってない…………熱中症かな?
「おーい、小鞠ー……?」
「…………はっ!? 」
あ、戻った。そして飛び上がる。
「せ、せせせせせせんぱぱい!?」
「あの、重いから、早くどいて」
「あっはい……」
のそのそとロッカーから這い出した小鞠。
「下で何があったか分からないけど、とりあえず今のうちに逃げるよ」
「わ、分かりました……あ、あの……うち、重かったっすか? 」
「そりゃそう、でしょ」
「そっかぁ…………」
何故かしょぼんとする小鞠。
「…………あ、あと…………うち、汗臭かったッスよね……すいません……」
「いや、それはあたしもだから……」
あたしは小鞠に「ウソ」をついた。…………ロッカーの中で、小鞠の匂いにずっと襲われてた。
制服についたゴミを払うけど、予想以上にホコリだらけだったようで落としきれない。
「小鞠なんか全身ホコリだらけだね……」
「それは………………先輩のせいっすよ、もう」
「それは、そっか……なら小鞠」
「なんすか?」
「お風呂、入らない?」




