欲しがり。
「ん、ここ、ね」
「ひょぇぇ……」
さっきから小さくなりっぱなしの小鞠を引きずって、行きつけのお風呂屋さんへと足を運ぶ。
「や、今日も、やってる?」
暖簾をくぐって番台へ声をかけると、
「あーっ、きよねーちゃんだっ」
とてとてと足元に走りよる影。
「やほっ、淑恵ちゃん。晴華ちゃんいる?」
「いないよー」
「…………居るよ」
にょきっと番台の奥から頭が生えてくる。
「やほっ、今日は2人なんだけど持ってきてないから借りれる?」
「レンタル料1人500万ね」
「もうちょい負けろや」
軽く小突くと、
「ウソウソ、入湯料込500円ネ」
と石鹸とタオルを差し出してくる。それを1組小鞠にパス。
「あ、じゃあ払いま」
「面倒だからこっちで払うね」
と有無を言わさずまとめて2人分払う。
「今混んでる?」
「閑古鳥♪」
両手を広げてカラスのポーズ。あっ、これ従姉妹伝統の芸なのね。
「という訳でのんびりさせてもらうね」
「どうぞごゆっくり〜」
「…………じゃ、行こっか、小鞠」
「は、はい…………」
妙にオドオドしている小鞠を突っついて、女湯への古びた扉を開けさせる。夕方なのにほんとに誰も居ないなぁ……ここ経営大丈夫なん?
「今なら、どこ選んでも大丈夫。この辺でいいんじゃない?」
真ん中辺りのロッカーを指して、先に小鞠の部活道具を詰め込む。それから足元にあたしの荷物を置いて、まずは下から脱ぎ始める、
「うわぁーっ!? な、なにしてんですかせんぱいっ」
「それはこっちのセリフだよ、小鞠はお風呂入るのに、脱がないの?」
「そ、そりゃあ脱ぎますけども…………い、いきなりすいすい脱ぎ始めたらビックリしますって」
「? 脱ぐのに許可が要るの?」
「そ、そうじゃなくってぇ」
なんて変なことを言い出す小鞠をよそに、あたしはテキパキと下着一枚になる。
「………なにぼけっと見てるの小鞠、入らないの?」
「え、いや、ここまで来たら入りますけど……けど………」
あっち見たりこっち見たり、くねくねきょろきょろ。
「何を恥ずかしがってるの? あたしも小鞠も女の子でしょ」
「………せ、せんぱいが男の子だったら良かったのに……あっでもそしたらハダカ見せて……はぅぅ……」
「なにワケわかんないこと言ってるの、ほらおいてくよ」
悶える小鞠を放っておいてさっさと下着も脱ぐ。
「それとも、脱がせてあげよっか?」
ハッパをかけようと小鞠の裾に手をかけると、
「わっ、わかりました自分で脱ぐからぁ!?」
恐る恐るハーフパンツに手をかけて、するりと足を抜いた。
「最初っからそうすればいいのに……」
「あぅ……あの、やっぱ後ろ向いててくれません?」
上目遣いに聞いてくる小鞠に免じて、あたしも背中を向ける。
「…………あざっす」
気の遠くなるような、いや、でも数分もかからなかったかも知れない時間の末に、
「あの……お待たせしたっす」
背中越しに小鞠の声がする。
「もう、遅い……よ」
振り向きざまに文句のひとつでも言ってやろう、と作った不満げな顔が、あっという間に溶けた。
「こまり…………」
「あの、あんま見ないでほしいっす……」
耳の先まで真っ赤にして、顔を逸らして明後日の方を見る小鞠の、その白と小麦色と桃色と淡い黒とのコントラストを、あたしは今までに見た世界の何よりも美しいと思った。
ーーーほしい、と思う隙さえあったろうか。あたしの手は小鞠の、その柔らかな素肌に触れていた。
「ひゃうっ、んっ!? あ、やっ、せんぱ、いっ」
首筋に、鎖骨に、二の腕に、胸元に、腹部に、そっと手のひらでキスをして、柔肌を、あたしには無いものを、確かめる。
ーーーほしい、ほしかった、もの、
つぅ、と滑らせた指は何にも引っかからず、遮られずに通り抜けて、
ーーーがたんっ
「いいっ、かげんに、してくださいよっ、せんぱい…………」
背中に走る痛みとひんやりした感覚、僅かに高くなる小鞠の視線。
あぁそっか、あたしは小鞠にロッカーに押し付けられたんだ、なんて妙に頭は冴えていて。
ーーーしでかしたことと、欲しがったもの、どっちもわかっちゃった。
「…………」
ぐにゃりと歪む視界と崩れそうな小鞠の顔。
「…………なんでですか、先輩。なんでそんな顔、してるんですかっ……」
「ごめん、ごめんね、小鞠…………あたし……」
その先は、まだ切り出せそうにない。




