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第36話 外交 キノノサト国5

「リビティナ様。巫女様との話し合いはいかがでしたか」

「ああ、順調だったよ。ネイトス、あの後ミノエル君と大将軍は会えたのかい」


 お城の敷地内にあるキノノサト国が用意してくれた宿泊施設。ネイトス達と合流してお互いの状況を確認する。


「あの後、条約の実質的な協議をしまして、その後別室でエリーシアと一緒に将軍三人が会っています」

「それは良かったね。ミノエル君喜んでいただろう」


 エリーシアに尋ねたけど、浮かない顔をしている。


「大将軍様に会ったミノエルが少し怯えてしまって、将軍様達を困らせてしまいました」


 そうだったのかい。ミノエル君も急に連れて来られて、これが父親だ、祖父だと言われて戸惑ってしまったようだね。


「大将軍様がミノエルをあやそうとしてくれたのですが、わたくしの陰に隠れてしまって……」


 あの気難しい大将軍が笑顔を浮かべながら抱き上げようとしたそうだけど、自分のお孫さんに嫌われて気落ちしていたそうだ。お気の毒にね。


「それよりも、リビティナ様。左将軍の息子が二年前に亡くなっているようです」


 左将軍というと大将軍の長男の方か。第一後継者が亡くなったお陰で、ミノエル君が後継者争いの筆頭になったようだね。先日の襲撃も、その関係者が引き起こした事件なのかもしれないね。


「この国を出る時に、迷惑にならないように離縁状を置いて来たのですが……」


 将軍一族のセルガワ家とは関係が無くなったはずなんだけど、失踪扱いで籍が残っていたようだね。


「今回エリーシアとミノエルを失踪ではなく、魔王の眷属、魔族になったと内部の者に伝えるそうです」


 それなら今後ミノエル君が狙われる事も無くなるね。

 ここは堀の内側、今回は宿泊施設の周りに鬼人族の兵士が護衛してくれている。今晩は襲撃されることもなく、みんなゆっくり眠れそうだ。


 翌日、午後から条約の調印をしたいとお城からの使いの者がやって来た。巫女様が上手く取り成してくれたんだろう。エルフィとミノエル君、それと護衛の一部を宿に残して文官達とお城へ向かう。


 昨日と同様に控室から大将軍のいる部屋へと入ったけど、奥の一段高い場所には大将軍を含め全員が既に座っていた。リビティナ達が席に着いたのを確認するように、役人が大きな声を張り上げる。


「巫女様、御出座~」


 太鼓と笛の音に合わせて、大将軍の背後の二枚扉が開かれる。一段高くなったその部屋の右手から護衛の者を引き連れ、巫女様と先輩巫女が用意された椅子に座る。雅な感じの登場の仕方だね。これが宮廷流なのかな。


 その三人の巫女の右には重装備の剣士、左にはウィッチアが護衛として立っている。宮廷が持つ物理攻撃と魔法攻撃を防ぐ最強の戦士という事なのかな。


 手を床に付け平伏していた大将軍がこちらに向き直る。


「ネイトス首相殿。巫女様の御前で不可侵条約の調印を執り行いたい」

「大将軍殿。こちらとしては調印するに異存はありません」


 昨日、将軍達と議論し一部修正され、午前中に双方の文官によって仕上げられた条約文書。ここで国印を押し調印されることが了承された。これでやっと条約締結か……長かったね。


 前方の机に双方の文書が置かれ。それぞれに国印を押し大将軍とネイトスが受け取る。


「条約締結された事、誠に喜ばしく思います。その記念として魔国に鎧兜を贈るものなり」


 キノノサト国の役人の口上と共に横の扉から木台に飾られた、防具一式が運び込まれた。大昔の日本で使われていた物とよく似た鎧の装飾品だね。


「こちらもダマスカス鋼の盾と反物を贈るものなり。お納めください」


 リビティナ達の前に贈答品を運び、布を取り披露する。

 武人達にとってこの盾は相当気になるようだね。声には出さないけど盾を見た三人の将軍と役人達の目が釘付けになる。事前に贈る物は通告しているけど、その大きさと美しさに驚いているようだ。


「その反物はどなたが織ったのでしょうか」


 奥の高い位置に座る巫女様のヒアリスが質問してきた。


「我が魔国の外務大臣であるエリーシアが織った品。宮廷への贈答品としてふさわしい物に仕上げてもらっている」


 巫女様の言葉に対して、魔王であるリビティナが応える。

 実際には織物機械で織った反物だけど、その織り機を開発したのはエリーシア。キノノサト国風の美しい反物を作る事ができる。

 色違いの反物が三巻。機械織りのため、手織りでは作れないような長尺の物となっている。


「中々に良い品のようですね。我が国からの贈答品では釣り合いが取れないでしょう。あれを」


 ヒアリスの言葉で奥に居た宮廷の役人が、神殿に使うような白木の三方台に何かを乗せて、巫女達の前に進み出る。それを右将軍がうやうやしく頭上で受け取り、振り返り一段下の役人へと手渡す。

 何かの宝玉なのだろうか、小さな物のように見えるけどそれを見た大将軍は驚きの色を隠せず、その後苦々しく唇をかみしめた。


「魔国に対し宮廷より勾玉の首飾りを贈るものなり。お納めください」


 鎧兜の隣に三方台が置かれ、宮廷の役人が口上を述べる。魔国の文官がお礼の外交辞令を述べる。その間にエリーシアがリビティナに耳打ちした。


「あの勾玉の首飾り、わたくしが知る物であれば一級の国宝です」


 こちらが二品出し、鎧の一品では釣り合わないとはいえ国宝を出してくるとは。大将軍の表情を見るに宮廷が一つ恩を売り、この外交の主導権を取ったという事なのかな。


 巫女様に軽く頭を下げると、ヒアリスがリビティナに向かい会釈を返す。横にいるウィッチアがニマニマと笑っている。さっきの芝居がかったセリフや態度がおかしかったんだろうね。こんな場じゃ仕方ないんだよ~。


 これで条約の締結が完了し、最上段の扉が閉められ巫女が帰っていく。リビティナ達も帰ろうとしたとき、エリーシアの護衛をしている二人が前へと歩き左将軍の前で(ひざまず)く。


「殿。我らがこの地に来たのは、これを機に城籍を降りるため。どうぞお許しくださいませ」

「ベルケスとグフタスだな。忠義に厚いそなたらが、家臣を抜け魔王の眷属になると言う事か」

「御意に御座います」


 おや、この二人は今まで眷属になる事を拒んで、エリーシアの護衛だと言い張っていたのにね。今まで仕えていた殿様の許可を得ていなかったからだったのかな。


「国を捨ててまで、仕えるべきは魔王であると……エリーシアといい、あの魔王に何を見出したのか……。で、あるならば許す他なかろう。但し護衛の任は引き続き全うせよ」

「はっ! ありがたきお言葉」


 眷属になると言っても、武術に優れた鬼人族のまま護衛を続けるんだろうね。今まで通りエリーシア達を守ってくれればいいよ。

 さてと、これでキノノサト国での用事は済んだ。宿に帰ってのんびりしようかな。




お読みいただき、ありがとうございます。


【設定集】を更新しています。(詳細地図のみ)

小説の参考になさってください。

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